258 さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備(日本)

258 さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備

258 さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備
258 さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備
258 さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備

258 さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備
258 さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備
258 さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備

ストーリー:

 神戸の中心市街地である三宮。そこは公共交通の重要な結節点ともなっており、阪急電鉄、阪神電気鉄道、神戸新交通、地下鉄海岸線、JR神戸線の鉄道がここを通っており、まさに神戸の玄関口としての役割を担っている。しかし、神戸という土地が不足している状況もあり、さらには阪神淡路大震災からの復興が滞っていたこともあり、その駅前空間は、都市デザイン的に多くの課題を有するものであった。
 そのような中、神戸市は2018年に神戸三宮「えきまち空間」基本計画を策定し、それに基づき駅と周辺を一体的に繋ぎ、交通結節点としての効率的な機能や、周辺空間の回遊性を高めるために、官民が連携して取り組んでいる。その一環として、さんきたアモーレ広場を、玄関口としてふさわしいような空間として再整備し、サンキタ通りを歩行者中心の道路として再整備を行い、それらを統合した歩行者を主人公としたヒューマン・スケールの空間として再編集した。
 さんきたアモーレ広場は、三宮駅の東口にある約1,000平米の広場で1985年に地下鉄三宮駅の開業とともに整備された。ここは、屋台での利用や放置自転車を防ぐために広場内に3つの塚のようなものが設置されていて、整備された当時は「でこぼこ広場」「パイ山」などとよばれていた。ここは三宮駅周辺で数少ない広場であったにも関わらず、青少年が集まりトラブルを起こしたり、客引きが多く、治安的にも問題があったり、不法投棄、立て看板、違法駐車などから景観的にも玄関口からほど遠いような状況であった。
 それの対策として、神戸市は「三宮クリーン作戦」を2003年から展開し、検挙や歩道、パトロールを実施し、2006年からは彫刻「AMORE(アモーレ)」を設置し、2007年にはその愛称を公募し、「さんきたアモーレ広場」と名付けられた。
 さらに2016年には、この広場に隣接して立つ神戸阪急ビル東館が建替されることになった。そこで、それと並行して、広場も再整備することにした。そして、前述した2018年の神戸三宮「えきまち空間」基本計画などを受け、同年、「神戸の玄関口にふさわしい、より多くの人に愛される空間」となるようなデザイン・コンペを実施した。
 最優秀賞に選ばれたのは、地元神戸出身の建築家である津川恵理氏のデザインであり、この提案にほぼ忠実に、広場は再整備され、2021年10月に公開された。広場は約200平方メートルに拡張され、サンキタ通りとともに縁石が取り除かれ、バリアフリー空間となった。広場内に設置された複数の楕円形の円盤は、テーブルや椅子などいろいろな用途に利用できる。さらに、以前の広場では禁止されていたアーティストのライブなどのイベント利用もできるようになった。
 さんきたアモーレ広場を起点とし、阪急三宮駅の高架下に沿ったサンキタ通りは、2021年春に阪急神戸三宮駅の駅ビルが開業したのに合わせるように、歩道を広くし、歩道と車道の境が意識されないような空間を整備した。通常は歩道と車道では縁石で高低差を設けるのだが、ここではそれをフラットにし、さらに自動車が歩道に入らないためのボルダーも細い棒のようなものにし目立たないようにしている。何より、舗装がほぼ同じであるため、ここを歩く人たちは、この空間全体が歩道空間のように捉えられるであろうし、また自動車にとっては、ここは相当、スピードを抑えないと走れないようなプレッシャーを与える空間となっている。
 そして、この人間的な道路空間がつくられたのと同時に、「EKIZO」と呼ばれる阪急電鉄の高架下の商業施設群が開業する。「EKIZO」は路面店がテラス席を設けることを想定しており、これまでは「コロナ占用特例」でそれが行えていたが、サンキタ通りが2022年2月に「ほこみち(歩行者利便増進道路)」に指定されたため、それが継続して行えることとなった。また、歩道部分も「利便増進誘導区域」にも指定されたため、より柔軟に「食事施設」や「購買施設」も設置できるようになっている。
 「ほこみち」指定されると、イベント開催で必要な道路占用許可が取りやすくなり、サンキタ通り、さんきたアモーレ広場がより公共性が高く、賑わいの場として使われるようになることが期待できる。

キーワード:

歩道, プロムナード

さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:兵庫県
  • 市町村:神戸市
  • 事業主体:神戸市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:津川恵理、小野寺康、ナグモデザイン事務所等
  • 開業年:2021

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 三宮駅の周辺は土地が少ない。にも関わらず、三宮駅には多くの鉄道路線が集まっているため、駅周辺は「乗換動線がわかりにくい」「駅から周辺へのまちへのつながりが弱い」「玄関口にふさわしい特色ある景観がない」などの課題があった(神戸市、2018)。そのような課題を克服するために、神戸市は「美しき港町・神戸の玄関口”三宮”」を掲げ、まちづくりを進めることとした。そして、三宮駅周辺地区を「駅・まち空間」と名付け、誰にとっても使いやすい、神戸の玄関口にふさわしい空間として整備することにしたのである。
 サンキタ通り、さんきたアモーレ広場はこの空間整備の一環として、他の事業に先行して着手された事業である。そして、それはこれからの神戸三宮の将来像がイメージできるような象徴的役割を担うことが期待されているが、その期待に見事に応えるような空間をつくりあげることに成功している。
 さんきたアモーレ広場は、以前「パイ山」と呼ばれていたが、これは、塚の形状が女性の乳房を連想させるからである。そこはタクシーなども停まっており、「広場」的な機能は、路上ライブ以外はほとんど見られなかった。その路上ライブも多くの人が受け入れられるようなものではなく、公共性にも乏しかった。このように、以前の阪急三宮駅前広場は、政令指定都市の玄関口としては、あまりにも貧相なものであった。それが、今回の再整備で、大きく状況が改善した。いや、むしろマイナスであったような要素が、オセロで駒の色が変わるかのように、都市の魅力を大きくプラスするような要素へと変換された。
 さらに、さんきたアモーレ広場の魅力をより高めるために、それに連なる阪急線の高架下を素晴らしい商空間・歩行空間へと変貌させた。ここは法律的には車道でもあるのだが、この西から東への一方通行の通りに、西側からサンキタ通りに進入できないようにした。これによって、従来に比べて通過交通を大幅に削減させることに成功した。これは、まさに「都市の鍼治療」的な座布団一枚的な対応策である。また、デザインの工夫によって、車道と歩道との境目が分からないようにした。歩道自体も従来に比べて拡幅されているのだが、この見かけによって歩行者は心理的に気持ち良く、ここを歩くことができるようになっている。街灯なども驚くほど洗練された意匠が施されており、空間体験としても楽しくなるように工夫されている。そして、その空間をより快適に過ごせるように、高架下のEKIZOが気の利いたテナント・ミックスを提供している。
 素晴らしい三宮再開発が展開することを期待させるような先駆けのプロジェクトであると考えられる。

【取材協力】
中田将紀、鈴木陽子(神戸市都市局)

【参考資料】
朝日新聞(2021.10.03)
神戸市『神戸三宮「えき・まち空間」基本計画』2018年
神戸市のウェブサイト
https://www.city.kobe.lg.jp/a55197/shise/kekaku/jutakutoshikyoku/kobetoshin/sankita_amore/index.html

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