
094 マデロ・ストリート Madero Street (メキシコ合衆国)
ストーリー:
マデロ・ストリート、別名フランシスコ・I・マデロ・アベニューはメキシコ・シティの歴史地区をソカロからエジェ・セントラルまで東西に結ぶ700メートルの歩行者専用道路である。マデロ・ストリートは、アステカの首都であるテノチティトランに最初にスペイン人によってつくられた通りであり、植民地時代も最も賑わいがある通りであった。また、この道のメキシコ・シティにおける地理的・文化的中心性は、多くの重要な建築物を沿道に立地させることになる。
この通りは歩道の幅は広かったが、自動車も走行できた。これをメキシコ・シティ政府は歩行者専用道路にすると発表した。沿道の商店主は反対したが、市政府は彼らの心配は杞憂であることを説明し、彼らを説得するために、最初は週に1回だけ自動車を通行禁止にした。この措置によって、商店主が危惧していた売上げが減ることはなかったので、自動車通行禁止の日を増やし、徐々に商店主の歩行者専用道路化への支持を得ることに成功していく。そして、2009年にそれを実現させ、その結果、歩行者数は大幅に増加し、沿道の地価は上昇することになった。道路の改修自体はそれほど難しくはなかった。これは予算があまりなかったこともあるが、デザインの基本コンセプトは安全で快適に歩行する環境を整備することに絞った。そのために、まず歩道を除き、舗装をし直して平坦性を確保し、幾つかの建物のファサードを改修した。さらに、キヨスクを3軒ほどつくり、交差点に信号機と標識を新たに設置し、街路樹を植え、ストリート・ファーニチャーを設けた。これらは座る場所と日陰を道に提供した。また、照明デザインは歩行者環境の向上のために大きく変更された。具体的には、より照明を強くすることで、犯罪を抑止し、人々が安心感を持って歩けるようにした。また、沿道の美しい歴史的建築のファサードを夜間、演出することも意図した。
総費用は2930万ペソ(2016年9月時点の為替レートはほぼ1ペソ=5円)。そのうちメキシコ・シティが7割近く、社会開発省が残りの3割を負担した。
2012年にこのリノベーション事業は、第八回イベロアメリカン都市・建築大会にて、建築・都市開発最優秀賞を受賞している。
キーワード:
歩行者空間,広場,公共空間
マデロ・ストリート Madero Street の基本情報:
- 国/地域:メキシコ合衆国
- 州/県:ディストリト・フェデラル
- 市町村:メキシコ・シティ市
- 事業主体:メキシコ・シティ市
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:Autoridad del Espacio Publico(オリジナルはAlonso Garcia Bravo)
- 開業年:2009年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
フランシスコ・マデロ・アベニューの歩行者専用道路化は、大きくみればコペンハーゲンのストロイエやら、クリチバの花通り、旭川の買物公園などの1970年代の「自動車から人へ都心を取り戻せ」という流れを汲んではいるが、どちらかというと最近のアメリカの「ニューアーバニズム」などの都市デザインのトレンドの延長線上にある第二の「公共空間の人間化」の文脈に位置づけられる。すなわち、ニューヨークのブロードウェイの歩行者天国化、ハイライン、ロンドンのエクスポジション・ストリート、マドリッドのマンザネラス川沿いの歩行者空間化マドリッド・リオやソウルのチョンゲチョン川、ボストンのビッグ・ディッグといった文脈の流れで捉えるべき事例であると思われる。そういう意味で都市デザインのグローバル化の流れの一環としてつくられた事例であるとも捉えられる。
都心部の目抜き通りであったこともあり、両側の店舗の多くは賑わっている。ちょっとヒップでグローバルなテナントが多く、あまりバーナキュラー感はない。これは、メキシコ・シティのようにバーナキュラー感溢れる街にしてはもったいない気もするが、歩行者専用道路化によって地価が高騰したので、致し方ない側面もある。
東京もそうだが、メキシコ・シティも自動車を最優先に都市づくりが進展した。その結果、歩行者のアクセスは決して優れていない。特に、その都市のオリエンテーションに明るくない観光客にとっては移動するのがなかなか厳しい都市である。
そのような中、この通りは、メキシコ・シティにおいても歩行者がその都市への実権をふたたび取り戻したことを人々に知らしめる効果があった。その人通りの多さからしても、ここが成功したことは明らかである。
メキシコ・シティは12年前(2004年)に訪れたことがあるが、当時に比べるとずっと都市が人に優しくなっている。少なくとも空間構造や、アクセスにおいては格段に改善されていると思う。
歴史家のイラン・セモ氏は、この数ブロックに国の歴史が凝縮されている、と述べたが、マデロ・ストリートから自動車を排除し、人間に開放することで、メキシコ・シティだけではなくメキシコをも代表する都市公共空間を人々は獲得することができたのである。これこそ、まさに「都市の鍼治療」の素場らしき事例であると捉えられる。
類似事例:
022 パール・ストリート
058 チャーチストリート・マーケットプレイス
059 サード・ストリート・プロムナード
069 花通り
074 ブロードウェイの歩行者専用化
091 平和通買物公園
131 スティーフン・アヴェニュー
141 グランヴィル・トランジット・モール
170 ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業
175 デュッケ・ダヴィラ・アヴェニーダの歩道拡幅事業
204 16番ストリート・モール
258 さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備
264 四条通りの歩道拡張
278 日本大通りの再整備
・ ストロイエ、コペンハーゲン(デンマーク)