250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化(デンマーク王国)

250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化

250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化
250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化
250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化

250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化
250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化
250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化

ストーリー:

 ノイハウンは17世紀に開発された運河沿いの地区である。それは、コンゲンス・ニュートー広場から港へ向かっての500メートルほどの運河沿いの一帯を指す。現在は、コペンハーゲンの運河とカラフルな色彩の歴史建築物の見事なファサードの景観をみながらオープン・カフェで飲食を楽しむ快適な空間となっており、地元の人に親しまれつつ、コペンハーゲンの観光名所ともなっている。しかし、ここは一昔前までは治安も決してよくなく、みすぼらしい雰囲気が漂い、運河沿いには自動車が違法駐車をするようなアメニティからかけ離れたような空間であったのだ。どのようにして変貌したのか。
 デンマークは17世紀に貿易国として栄えるが、その重要な港としてクリスチャン5世の時に、ノイハウンは開発される。それ以来、3世紀にわたってそこは海上輸送の港湾として機能し、ノイハウン地区一帯は船乗りを相手にした歓楽街として発展してきた。そのため、そこは治安も悪かったのだが、そのすぐそばに社会的名士が住むような地区が隣接してつくられた。これが計画的になされたかどうかは不明だが、これはノイハウン地区に港町の繁華街としては一風変わった洗練さをもたらすことに貢献したかもしれない。ノイハウンの運河沿いの建物で生活した有名人としては「人魚姫」や「醜いアヒルの子」などで知られるデンマークの作家、アンデルセンがいる。彼はここで20年以上暮らした。アンデルセンが住んでいた当時につくられた建物群は一部、まだ保全されて今日に至っている。
 第二次世界大戦後、物流の主流は船舶からトラックなどへと移行し、ノイハウンも衰退していった。そして、運河沿いの空間は管理されていない駐車場として使われるようになった。その状況を改善するための動きは1960年代半ば頃から見られるようになる。そして1977年には、当時のイーゴン・ヴァイデカンプ市長によって、ここは歴史的な木造船を展示する博物港湾として指定され、さらに1980年に駐車場となっていた運河沿いの空間は駐車禁止となり、歩行者空間として再整備されることになった。加えて、沿岸のカラフルな17世紀から18世紀にまで遡る歴史建築群も改修され、運河越しにみられる見事な都市景観を創り出している。これを契機として、ノイハウンは地元住民にも観光客にも親しまれる空間として再生された。

キーワード:

ウォーターフロント

ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化の基本情報:

  • 国/地域:デンマーク王国
  • 州/県:デンマーク首都圏地域
  • 市町村:コペンハーゲン市
  • 事業主体:コペンハーゲン市
  • 事業主体の分類:
  • デザイナー、プランナー:N/A
  • 開業年:1980

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 現在ではノイハウンは、コペンハーゲンの最も有名な都市景観として知られ、重要な観光スポットとなっている。ただの駐車場だった空間は、昼夜を問わず人に溢れる素晴らしい都市空間へと変貌している。
 ここはまたウォーターフロントという空間の魅力をも再確認させてくれる。1960年代から70年代にかけて、産業の高度化、港湾機能のコンテナ化といったトレンドによって、世界の多くの大都市のウォーターフロントは工業の生産拠点、港湾拠点といった役割を失った。しかし、それがレジャー空間としての可能性があることを見いだしたのは、ボルティモアのインナー・ハーバーやボストン港での再開発であった。これらアメリカでの都市再開発は、海を越えてヨーロッパや日本にウォーターフロントの可能性を気づかせ、その後、積極的なウォーターフロントの再開発が展開されることになる。ノイハウンの歩行者道路化もそのような文脈に位置づけることができよう。
 ノイハウンには17世紀から18世紀にかけて建設された鮮やかな色彩のタウンハウスが立ち並んでいたが、その前は駐車場として使われており、人々がその趣のある美しいファサードを気持ちよく観賞することはできなかった。そういう意味で、そこを自動車ではなくて、人(歩行者)に優しい環境にすることで、その空間の価値は経済的という意味だけではなく文化的にも社会的にも高まったといえよう。ノイハウンの成功は、いかに駐車場という存在が都市のアメニティ、そして佇まいに負の影響を及ぼしていることを再確認させる。その駐車場利用を禁止し、歩行者に開放しただけで、その空間は見事に甦っただけでなく、コペンハーゲンを代表する絵はがき的な都市景観が創出されたのである。車を人に優先して開発し、都市中を駐車場だらけにしている日本の都市はこのノイハウンの事例から学ぶことが多々あると考えられる。

類似事例:

012 パセオ・デル・リオ
022 パール・ストリート
058 チャーチストリート・マーケットプレイス
059 サード・ストリート・プロムナード
069 花通り
074 ブロードウェイの歩行者専用化
078 インナー・ハーバー
091 平和通買物公園
253 ロープウェイ通りの空間再構築
258 さんきたアモーレ広場・サンキタ通りの再整備
261 ラリマー広場(Larimer Square)の保全
・ ルア・ダス・フロレス、ブエノス・アイレス(アルゼンチン)