204 16番ストリート・モール(アメリカ合衆国)

204 16番ストリート・モール

204 16番ストリート・モール
204 16番ストリート・モール
204 16番ストリート・モール

204 16番ストリート・モール
204 16番ストリート・モール
204 16番ストリート・モール

ストーリー:

 16番ストリート・モールは、デンバーの都心部にある2キロメートルほどの長さのトランジット・モールである。ユニオン駅からシビック・センター駅までを結んでおり、沿道には300の小売店舗と50のレストランが立地している。世界的建築家であるI.M.ペイが主催するPei Cobb Freed & Partnersが設計を担当し、Henry N. Cobbとランドスケープ設計事務所のOLINも共同事業者として設計に関わる。
 1982年に整備されるが、それ以前も16番ストリートはデンバー都心部の「銀座」的存在で、デパートが4店、また多くのオフィスがこの通り沿いに立地していた。それがトランジット・モール化されたことで、さらにその集客性・中心性を高めることに成功した。加えて、2002年にはライトレールのセントラル・プラット・ヴァレー線の開業に伴い、ウィンクープ・ストリートからユニオン・ストリートまで延長している。
 16番ストリート・モールの特徴は、「フリー・モールライド(Free MallRide)」という無料のバスが高頻度で行き来していることである。このバスはデンバー地域交通局という行政組織によって運行されている。
 無料バスはユニオン・ステーションとシビック・センターの間の16番街のすべての交差点で停止し、ユニオン・ステーションからシビック・センターまでを約15分で結ぶ。ユニオン・ステーションとシビック・センターでは、ライトレール、郊外鉄道、さらに公共バス・サービスと連結されており、公共交通網のハブ的な役割も果たしている。
 運行時間は、週日は早朝の4:59から深夜の1:19まで(ユニオン・ステーションの時刻表での時間)。その運行頻度は90秒に一本という極めて高いサービス水準のものであったが、デンバー地域交通局の経営悪化によって現在は3分から15分と間延びしている。ただし、ラッシュアワー時は青信号のサイクルと同期した頻度で運行している。
 現在、走行しているバス車両は電動バスで、三代目に相当し、2016年の8月にデビューした。車内は18の座席と2台の車椅子を設置できるスペースがあり、定員88名でドアが3つという、なかなかの大きさのバスである。料金を徴収する必要がないので、ドアの数が多く、停留所での停車時間も短い。
 16番街モールの設計コンセプトは屋外広場であり、そこは多くの人々が集い、交歓する場として機能することが想定された。多くのイベントが開催され、チェスをしたりする設備なども備えられている。無料バスはこの16番街モールを楽しむための快適なアクセスを提供しており、それによってデンバーという都市の魅力が一層開花していると考えられている。
 無料バスの利用者は、2019年は1,008万人であり、これは前年度より5%以上増加している。利用者が増加傾向にあるにも関わらず、運行頻度が減少するなど将来展望は必ずしも明るくはないが、自動車社会のアメリカの都市の中で、このようなトランジット・モールが果たす役割は決して小さなものではないであろう。

キーワード:

無料バス, トランジット・モール, ペデストリアン・モール, 公共交通

16番ストリート・モールの基本情報:

  • 国/地域:アメリカ合衆国
  • 州/県:コロラド州
  • 市町村:デンバー市
  • 事業主体:デンバー地域交通局
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:Pei Cobb Freed & Partners, Henry N. Cobb, OLIN
  • 開業年:1982

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 最初のトランジット・モールがつくられたのはミネアポリスのニコレット・モールで、1967年のことである。その後、ヴァンクーバー(都市の鍼治療No.141、1974年)、ポートランド(1978年)、バッファロー(1986年)、そしてこのデンバーで整備されていく。
 無料バスをトランジット・モールに走らせるということはニコレット・モールなどでも導入しているので、デンバーの16番街モールだけのユニークなものではないが、それを軸として、ダウンタウン全体の歩行アクセスをよくするという点では、極めて優れた事例なのではないかと考えられる。そして、その優れた歩行アクセスに価値をもたらしているのは、沿道、そして周囲の商業集積の高さである。ミネアポリス、ポートランド、バッファローに比して、その人口集積は遙かに大きい。そして、モール化された後にライトレール網などが充実化され、これがさらにダウンタウンの歩行環境を改善させている。週日に限られるが自転車やスクーターの走行は禁止されており、歩行環境を第一に考えている。無料バスは、あくまでも歩行者を補助する、そのポテンシャルを最大化させるための手段としての機能を担っていると考えられる。
 また、これはニコレット・モールでもいえることだが、優れたデザイナーが空間計画をしたことにより、そもそもその空間が魅力的で、ぶらぶらとしたくなるような工夫に溢れている。チェス・ボードやベンチの設置など、滞在空間としての魅力づくりがしっかりと為されている。
 とはいえ、全米の都市全体でみれば、トランジット・モールは苦境に立たされているところも少なくない。シカゴ、ルイビルなどでは21世紀を迎える前に廃止されている。一方、デンバーでは2013年に18番街と19番街を走る無料バスを運行し始め、16番街モールの無料バスを補完するようなサービスを開始し、その交通サービスをより改善することに努めている。しかし、前述したように2020年以降は、その運行母体であるデンバー地域交通局全体の経営状況が芳しくないために、16番街モールの無料バスの運行頻度が減少した。その背景には、依然として73%の交通が「一人乗りの自家用車」であることがある。もちろん、デンバー都市圏の充実した公共交通ネットワークがなければ、この73%は限りなく100%近くになるであろう。だがそれは、レルネル氏が指摘する「自動車交通という都市のコレステロール」の値を多少低くする効果はあるものの、いまだ根本的な解決には至っていない。「都市の鍼治療」としてみると、症状は緩和してくれるかもしれないが、完治にはほど遠いといった事業ではある。とはいえ、デンバー都心部というミクロな範囲でみれば、その治療は相当効いているとは捉えられるのではないだろうか。

【参考資料】
デンバー地域交通局のHP
https://www.rtd-denver.com/reports-and-policies/facts-figures/free-mallride

類似事例:

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ニコレット・モール、ミネアポリス市(ミネソタ州、アメリカ合衆国)
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