256 金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)(日本)

256 金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)

256 金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)
256 金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)
256 金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)

256 金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)
256 金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)
256 金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)

ストーリー:

 金沢は前田藩の城下町として発展し、第二次大戦による戦災を免れたこともあり、中心部は旧城下町区域と重なり歴史的町並みを残している。1970年代から、同市は自主条例を制定するなどで、歴史的な建築の保存、修景について積極的に取り組んできた。1994年には「こまちなみ保存条例」を策定した。ここで「こまちなみ」とは、歴史的な価値を有する武家屋敷、町家などの建造物、もしくはそれらの様式を継承した建造物が集積し、歴史的な特色を残すまちなみをいう。さらに2000年頃からは歴史的建築物自体をまちづくりの観点から保全、活用する政策に取り組みつつある。そして、市内にある木造の歴史的建築物を「金澤町家」と命名し、それらを保存、継承、活用するための施策を展開している。2013年には「金澤町家の保全及び活用の推進に関する条例」を制定した。このような取り組みによって、金沢市はそれらの保全に大きな成果をあげて今日に至っている。
 しかし、それらの成果は特定の地区に限定されており、また、保存を中心としたものである。市行政の取り組みはしっかりとしたものではあるが、これら「金澤町家」を保存するだけではなく、住宅、店舗、事業所として再生するためには、より積極的な取り組みと市民関与が必要である。そして、保存だけではなく、現代において再生・活用することによって、はじめて金澤町家とそれらの集積がつくりだす町並みを持続させていくことが可能である。そのためには行政に任せるだけではなく、市民レベルでの活動が不可欠である、という問題意識のもとに設立されたのがNPO法人金澤町家研究会である。
 NPO法人金澤町家研究会は、金澤町家の継承・活用に向け、町家居住者や町家住まいに関心のある方々に対して、町家修復等に関する研修、町家を活用した交流、情報発信などを民間の立場から取り組んでいる。それは市内関係者を中心とする42名の正会員、賛助会員5団体(2020年6月)から構成されている。活動自体は2005年頃から展開していたが、NPOとして設立されたのは2008年である。その目的は「金沢市における風格と魅力ある町並みの形成の促進および市民主体のまちづくりの推進」。具体的な活動としては、1)流通コーディネート事業、2)金澤町家巡遊、3)優良金澤町家表彰、4)その他の活動(資料発行)などを行っている。
 その中でも極めて重要な活動は、流通コーディネート事業であろう。これは、金澤町家の所有者と購入・借家希望者に対して必要な情報発信や助言をし、必要に応じて相互調整を図るなどして、金澤町家の流通を促進する総合窓口サービス事業といえるようなものだ。これは、金沢市から委託されて行っている事業でもある。
 金澤町家巡遊とは、2008年から開始された事業で、金沢市内に散在する町家を巡遊するツアーやイベントなどを企画・開催する事業である。その目的は、金澤町家に親しむプログラムを提供することで、市民に広く町家を体感してもらったり、居住者や事業者に町家公開を通じてその魅力を再発見してもらったり、さらには賃貸や売買の対象町家を公開・案内して町家の流通促進を図ることなどである。この事業では、「町家ショップマップ」も編集、発行し、無料で広く配布している。
 そして、2010年からは「優良金澤町家」の認定を行っている。これは、行政から文化財などの指定を受けている建物や伝統建造物群保存地区内の建物以外で、外観に金澤町家の特徴がしっかりと残っており、良好に維持管理され利活用されている建物を認定するというものだ。これは、文化財行政の枠組みと整合はしないが、価値のある町家を評価する事業である。独自の認定証と「金澤町家」のプレートを進呈して、家屋前面に掲示してもらっている。
 さらに、2015年には『金澤町家:魅力と活用法』、2021年には『金澤町家:改修と活用』を出版している。これらは、金澤町家をいかに壊さずに、現代において再生させることができるか。そのための具体的な処方箋が記されている。それらは、また多様な金澤町家の現在における活用事例がまとめられたアーカイブでもある。何より、町家の活用という一般解ではなく、金沢の風土・気候を踏まえたうえでの、金澤町家に特化した活用法を記していることで、極めて実践的な内容となっているのが特徴である。例えば、「湿度調整のための活性炭などは、湿度が高い金沢では、逆に湿気溜まりの原因にもなるため、防湿フィルムの敷込や通風確保を優先しよう」と、一般論ではなく、あくまでも金沢の町家を中心にその技法が記されている。この文章は、また、町家というものが全国一律ではなく、地域ごとに異なる、地域文化の賜物であることを理解させる。
 これらに加えて、『金澤町家だより』という冊子をNPOになる以前の2006年から発行しており、2022年1月時点で41号まで発刊している。これらに目を通すと、金澤町家のおかれている現状がよく理解できる。
 このように同研究会は、上記の事業を展開することで、町家を探している人に町家を紹介することや、町家を活用したい人に修繕等を誰に頼めばいいか、というコンシアージ的な役割を果たし、町家を保全するための貴重な仕組みとして機能している。どんなに立派な政策をつくっても、実際に町家を保全し、それを活用したいという人が動き始めなければ、金澤町家の活用には至らない。金澤町家研究会は、その行政の限界を見事に埋め、その保存活用のための、重要な情報プラットフォームとして機能している。
 同研究会は、2013年に第二回まちづくり法人国土交通大臣特別賞受賞、2015年には金沢市文化活動賞を受賞している。

キーワード:

町家, 歴史的町並み, 歴史的建築物, NPO

金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:石川県
  • 市町村:金沢市
  • 事業主体:NPO法人金澤町家研究会
  • 事業主体の分類:市民団体
  • デザイナー、プランナー:川上光彦
  • 開業年:2008年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 2018年に京都の大学に移った。京都で生活していると、町家の持つ価値が理解できる。それは、町家の存在を確認している時ではなく、町家が失われた時に強烈な喪失感とともに理解する。失って初めてその価値を知る、しかし、その価値を知った時には、もうそれは戻ってこない。町家を始めとした「古い建物」を保全するうえでは、このような事実に対しての理解が共有されていることが必要であろう。そして、そのためには理解を促すための仕組みが必要である。
 NPO法人金澤町家研究会は、まさにそのような役割を担っている。町家は民間の資産である。そのために行政だけが取り組むのには限界がある。また、行政の職員が「古い建物」を保全する意義をしっかりと理解していない場合もある。そのような行政の不備を補うために、同研究会が果たす役割は大きい。 
 現在、市内には約6千棟の金澤町家が現存するが、毎年100棟以上が消滅している。しかし、金澤町家研究会が存在しなければ、町家はもっとハイペースで消滅していたであろう。この100棟という数字は、これだけ頑張っても100棟はなくなってしまうという認識を持つべきものであるかと思われる。
 本事例を整理するにあたって実際、金澤町家研究会の斡旋で町家を見つけ、そこでカフェを営み、オフィスを設け、さらには居住している建築家の北出健展氏に取材をさせてもらった。北出氏が語る町家の魅力は、「古い木造の建物の持つ、時間の経過がつくる空間のよさ」であるという。加えて「現在の基準ではたてられない間取りのよさ」。さらに、金澤の町家は京都のそれと比べても「意匠的に洗練されているという気がする」とも指摘した。これは、京都で暮らしている私もちょっと感じるところである。そして、金澤には多くの町家が残っており、そこに暮らしている人もいる。建具職人の方々も身近で、地域文化として残っている。これは、関東などでは古い建具の仕事をする人が少ないので地方に発注しなくてはいけないのと大きな違いである、と指摘する。
 とはいえ、まだまだ課題は少なくない。まず、同研究会と金沢市の活動を通じて、町家の価値に対する認知度は高まってはいるが、それでも決して十分ではない。加えて、これは金沢だけの問題ではないが、歴史的な建築への規制・誘導の法体系を変更する必要があると川上氏は指摘する。保全をするという発想が法体系にないので、この点は大きく改善する必要がある。
 金澤町家は、金沢市がこれまで積み重ねてきた時間、そしてそれによってそこで生活を営む人には、育まれた美的教養や気品を育んできた。すなわち、金澤町家は単に建築が魅力的であるということにとどまらず、金沢という都市のアイデンティティを具現化するような存在なのである。そのような価値はしっかりと情報を共有することで、初めて理解ができる。この啓蒙的な活動を地道に重ねたからこそ、現在の金澤町家がある町並みを保全するというコンセンサスが醸成されたのではないだろうか。
 30年ぐらい前に比べると絶対数としての金澤町家は減っている。しかし、金沢を訪れる人たちは、現在の方が、むしろ金澤町家の存在感を感じ取っているのではないだろうか。それは、同研究会の再生活動などが、単に町家を保存するのではなく、それを現代においても活用させようと奮闘していたことも大きな要因なのではないかと考える。

【取材協力者】
川上光彦(NPO法人金澤町家研究会理事長)
北出健展(一級建築士事務所「ジェル・アーキテクツ」)

【参考資料】
豊島祐樹、川上光彦『金沢市における歴史的建築物の改修補助事業の実態と課題』日本建築学会計画系論文集 第84巻 第766号, 2019年
川上光彦 『NPO法人金澤町家研究会の近年における活動状況』 新都市 2017.6
金澤町家研究会『金澤町家:魅力と活用法』、2015年
金澤町家研究会『金澤町家:改修と活用』、2021年
NPO法人金澤町家研究会ホームページ(https://kanazawa-machiya.net)

類似事例:

014 鞆まちづくり工房
031 剥皮寮(ボーピーリャウ)の歴史保全
032 迪化街の歴史保全
052 ベルン旧市街地の景観規制(ベルン市条例14条)
063 チャールストンの歴史保全
071 稲米故事館
075 プリンツィパルマルクトの歴史的街並みの再生
087 郡上八幡の空き家プロジェクト
100 先斗町の景観形成
118 黒壁スクエア
146 ブリッゲンの街並み保全
147 レッチワース田園都市ヘリテージ協会
149 八百萬本舗
181 門司港駅の改修と広場の再生
182 鶴岡まちなかキネマ
205 柳川市の堀割の復活
215 眼鏡橋の保全運動
224 今井町の歴史的街並み保全
249 伊根浦の舟屋群の伝建地区指定
257 三津浜まちづくり
259 ゴスラーの市場広場(Marktplatz des Goslar)
260 大内宿の景観保全
263 関宿の景観保全
・ ザ・ロウズ、チェスター(イングランド)
・ グアナファトの街並み保全、グアナファト(メキシコ)
・ ケドリンブルクの歴史的街並み保全、ケドリンブルク(ドイツ)
・ ゴスラーの歴史的街並み保全、ゴスラー(ドイツ)
・ ブリッゲンの歴史的街並み保全、ブリッゲン(ノルウェー)
・ 佐原における歴史的町並み保全、佐原市(千葉県)
・ 川越における歴史的町並み保全、川越市(埼玉県)
・ 彦根市歴史的風致維持向上計画、彦根市(滋賀県)
・ 木蝋生産で栄えたまちなみ保全、内子町(愛媛県)
・ 八女市黒木のまちなみ保全、八女市(福岡県)
・ ボローニャの町並み保全、ボローニャ(イタリア)
・ 小布施町の街並みづくり、小布施町(長野県)
・ 大内宿の街並み保全、下郷町(福島県)
・ ハイデルベルクの旧市街地の保存と活用、ハイデルベルク(ドイツ)