181 門司港駅の改修と広場の再生 (日本)

181 門司港駅の改修と広場の再生

181 門司港駅の改修と広場の再生
181 門司港駅の改修と広場の再生
181 門司港駅の改修と広場の再生

181 門司港駅の改修と広場の再生
181 門司港駅の改修と広場の再生
181 門司港駅の改修と広場の再生

ストーリー:

 北九州市にあるJR門司港駅は、鉄道駅舎としては、東京駅と並ぶ2ヶ所のみの国指定重要文化財である。その老朽化への対応や耐震補強を行うと同時に、創建時(大正3年)の姿に復元させることを意図して、その保存修理工事が開始されたのは2012年。外壁は石貼り風のモルタルを塗り、屋根には天然のスレートをふいた。大正7年に取り付けられた正面の大時計を保全し、改修工事をする前には既に取り除かれていた屋根周りの装飾も復元させ、2019年3月に6年間に及ぶ改修事業を経て、グランドオープンした。駅舎の1階、2階が装い新たな姿を見せ、2階の洋食レストラン「みかど」、1階にはカフェもオープンした。
 門司港駅舎の保存運動は1983年に遡る。当時の北九州市長であった谷氏が、門司港駅舎を市で面倒見て欲しいという国からの要望を、「国の建物に一地方団体が手を出すわけにいかない」(『門司港レトロ物語』p.47)とスルーして経済界にそれを依頼したことがことの発端であった。そして、同年に「門司港駅保存会」が設立され、500万円を目標額とする募金活動を展開すると、その三倍を超える額が集まり、これに勢いづいて、保存活動が一挙に展開していく。そして、丁寧な修復事業を進めていくが、そのような中、文化庁の人が視察に訪れたのをきっかけとして、1988年に鉄道の駅舎としては全国で始めて国の重要文化財として指定される。そして、1990年、九州の鉄道開業百年を記念した祭りに合わせて、駅舎1階内部の改修工事が行われ、創建当時そのままではないが、当時を偲ばせるレトロ調に復元させた。これは、その後、門司港駅を中心とする門司港レトロ事業の嚆矢となった。
 また、駅前広場は、旧門司三井倶楽部(国の重要文化財)、旧大阪商船、郵船ビルなど近代建築物に囲まれた、レトロのシンボル的な広場空間であった。そのために、ゆったりと歴史的な建物を展望できるような、自動車ではなく人間がゆったりと憩えるような広場空間を計画する。しかし、それをJRサイドは「公園づくりの発想なら、土地を買い上げて欲しい」(『門司港レトロ物語』p.95)と難色を示す。それに対して、駅前ではなく駅舎の東側に交通広場を設置し、レトロ広場に自動車が流入しなくてもよくすることで対応し、JRには納得してもらった。駅前広場には中央に噴水が設けられ、舗装は桜色と白のみかげ石で敷き詰められた。それは、まさに自動車ではなく、人が主人公として振る舞える日本では珍しい極めて都市的な「広場」の誕生でもあった。

キーワード:

歴史建造物, 鉄道駅, 広場

門司港駅の改修と広場の再生 の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:福岡県
  • 市町村:北九州市門司区
  • 事業主体:北九州市、JR九州
  • 事業主体の分類:自治体 民間
  • デザイナー、プランナー:文化財建造物保存技術協会門司港駅設計監理事務所、中野恒明(広場設計)
  • 開業年:2019年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 門司港レトロ事業の初期の段階から、このプロジェクトに関わってきた株式会社洋建築計画事務所の城水氏は、門司港駅の改修において反対がほとんどなかったのは「門司港レトロの過程があったから、地元の人の景観、街に対する理解が涵養されたからでしょう」と筆者の取材に述べていた。同じ福岡県の折尾駅においても最近、改修事業を行ったが、そこでは駅前の広場から門司港駅のように自動車のロータリーを除けることは難しかったそうだ。
 私の手元に『海峡の街:門司港レトロ物語』という報告書がある。北九州市が出したものである。そこに整備前の門司港駅前広場の写真が掲載されているのだが、瀟洒な駅舎の前には、ただの凡庸な自動車用のロータリーがあるだけだ。そこは、自動車から降りても雨に濡れないような大きな庇が出ており、自動車での利便性のみを優先した交通広場である。
 この写真を見ると、改めて駅舎の整備だけでなく、この駅前広場をしっかりと人間が利用の主体となるように人々が努力したことが分かる。そして、そのことによって、この門司港駅前広場は生き返った。
門司港駅の復元事業は素晴らしいものであるが、それと同時に、建物だけではなく、その駅前広場を再生させることで、その都市空間的機能をも再編成させてしまった。この二つを同時に行えたことで、この駅の建物としての魅力はもちろんのこと、その駅の公共性も大きく向上させることに成功した、見事な「都市の鍼治療」事例であると考えられる。

【取材協力】城水悦子(株式会社洋建築計画事務所)、中野恒明(株式会社アプル総合計画事務所)

類似事例:

088 ジズコフ駅の再生プロジェクト
099 旭川駅
184 ザンド広場の再生
199 ユニオン・ステーションの再生事業
256 金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)
・ 由布院駅、由布院町(大分県)
・ グランドセントラル・ステーション、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ キングス・クロス駅、ロンドン(イギリス)
・ ユニオン・ステーション、セントルイス(ミズーリ州、アメリカ合衆国)
・ ライプツィヒ中央駅、ライプツィヒ(ドイツ)
・ セント・パンクラス駅、ロンドン(イギリス)
・ 新・岩見沢複合駅舎、岩見沢市(北海道)
・ 東京駅、千代田区(東京都)