148 ラドバーン (アメリカ合衆国)

148 ラドバーン

148 ラドバーン
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148 ラドバーン
148 ラドバーン
148 ラドバーン

ストーリー:

 アメリカはニューヨークの郊外、ニュージャージー州ファーンローン市にあるラドバーンは、歩車分離をはじめて試みた住宅地として都市計画の教科書には必ず紹介されるような有名な事例である。そして、近隣住区論が適用された事例でもある。クラレンス・スタインとヘンリー・ライトによって1928年につくられる。ラドバーンはエベネザー・ハワードの田園都市に非常に大きな影響を受けている。土地に関しては共有という考えはなく、また農地等は設けられてなく、田園都市というよりかは、田園郊外とその後、揶揄されるような計画の嚆矢になってしまったという側面もあるが、小学校をコミュニティの中心として位置づけられた住宅計画は、アメニティの高いオープンスペースといった共有地を多く設け、また歩道ネットワークをコミュニティ内に縦横に張り巡らせるなど、豊かな生活を実現させるコミュニティとしての多くのアイデアと知恵が込められている。いわゆるスーパーブロックのコンセプトが導入されており、住宅地を囲む大通りから中に入ると、袋小路の道によって各戸にアクセスできるように設計されている。スーパーブロックは、その内部はともかくとして、その外側との交流を断絶するなどの問題があるという指摘をよく聞くが、実際、ラドバーンを訪れると、そのスーパーブロックとなる道路も片道2車線もなく、交通量もそれほど多くないため、コミュニティを分断するような効果はさしてないことに気づく。1929年の大恐慌や、その影響を受けた公社の破産などから、当初、想定された事業の3分の1しか完成できなかったが、計画面ではすこぶるよくできた住宅街である。コミュニティ内は、コベナントのような住宅協定があり、それによって通常の住宅地より多くの規制を遵守することが住民達には求められる。
 共益費は、住宅の大きさによっても異なるが、私に話をしてくれたラドバーンの住民ダグ・ワイズ氏は年間2,300ドル(およそ24万円)。ファーンローン市に支払う税金以外に、ラドバーンのコミュニティの維持管理として、この額を余計に支払わなくてはならない。共有地としては、3つの公園とプールがある。公園は計画当初は8つつくる予定であったのだが、経済恐慌が原因で3つに削減されてしまった。ラドバーンには小学校5年生までの学校がある。この学校には、ラドバーンの敷地内の家々からは、大通りを横切ることなく歩いていくことができる。そのため、ラドバーンの小学生達は、ほとんどが学校へ歩いていっているそうだ。これは、現在のアメリカの小学校では極めて例外的なことである。また、マンハッタンのペンステーションとニュージャージー州のハドソン川沿いにある都市ホボーケンとを結ぶ郊外鉄道のラドバーン駅が敷地内にある。このため、ラドバーンの住民の多くは鉄道によって通勤をしているそうだ。
 現在、ここに住む世帯数は670で人口は約3,100人ほどである。住宅は戸建住宅が469戸、タウンハウスが48戸、デュープレックス(二家族で戸建住宅を共有するパターン)が30戸、そしてアパートが93戸となっている。ラドバーンは、1975年には国立歴史地区として指定された。

キーワード:

歴史保全, 田園都市, 田園郊外, クラレンス・スタイン, ヘンリー・ライト, 歩車分離

ラドバーン の基本情報:

  • 国/地域:アメリカ合衆国
  • 州/県:ニュージャージー州
  • 市町村:ファーンローン市
  • 事業主体:Radburn Association
  • 事業主体の分類:民間
  • デザイナー、プランナー:クラレンス・スタインとヘンリー・ライト
  • 開業年:1928年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ラドバーンは都市計画を勉強しているものにとっては聖地であるが、そうでないものにとってはただの奇麗な住宅地のように一見、思われる。しかし、これはただの綺麗な住宅地以上の価値がある。
 アメリカの郊外住宅地は、環境問題的に捉えると多くの課題を有している。まず、公共交通が極めて不便であるために、ほとんどの住民が自動車で移動することになる。そのため、大量のエネルギーを消費する。都市ごとの一人当たりの移動エネルギー消費をみると、アメリカの都市が上位層を独占している。これは、郊外に低密度で広がるという都市構造に起因している。さらに、貴重な自然、緑が宅地開発のために失われ、また、低密度であることで一人当たりの公共サービス費用が高まるなどの課題も生じている。
 そのように個での豊かさを追求した結果、社会では豊かさを失ってしまったのがアメリカの郊外都市の実態であり、その問題はアメリカ人の都市計画家も認識している。しかし、個の豊かさを追求するニーズの大きさに、そのような問題意識が吹っ飛んでしまっているというのが、現在のアメリカの大きな都市問題であると指摘できよう。
 しかし、アメリカの郊外住宅地においても、社会での豊かさを具体化させられたのがこのラドバーンである。モータリゼーションが進展する以前に設計されたために、そのような住宅地がつくられたという指摘はあるかもしれないが、21世紀になってもその良好で、豊かなコミュニティはまったく色褪せないどころか、むしろ、より評価されるようになった。アメリカ人は、平均すると一生で4回から5回ほど転居すると言われているが、ラドバーンに定住した人々はほとんど転居しないで、そこに住み続けているそうだ。
 筆者が取材をさせてもらったワイズ氏はラドバーンに住んで43年経つ。娘家族も3軒隣に住んでいるので、孫と毎日のように会えるのが楽しみのようであった。ワイズ氏はラドバーンで悪質な犯罪事件が起きた覚えがまったくないと言う。多少のいたずらや破壊行為はあったが、それくらいであるそうだ。子供を育てるには最高の環境であるという意見は、確かにこの住宅地で多くの子供が楽しそうに遊んでいる姿を見ると説得力がある。
 田園都市は、産業革命後の非衛生的、非人間的な居住環境を改善するために都市居住のオルターナティブとして提示された。その影響を受けたラドバーンも、良好な都市住宅を郊外にて提示するという意図でつくられたのだが、現在では戦後のアメリカの郊外住宅地のアンチテーゼ的な意味合いで、優れたコミュニティ性を有した住宅地のモデルとして現代のアメリカ社会に問題提起をしている。そういう点で、このラドバーンを優れた都市の鍼治療の事例の一つに加えさせてもらいたい。

類似事例:

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030 エコロニアの環境共生まちづくり
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252 マーガレーテンヘーエのアイデンティティ維持
・ ファウバーン、フライブルク市(ドイツ)
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・ 田園調布の建築協定、大田区(東京都)