020 ニューラナークの再生(スコットランド)

020 ニューラナークの再生

020 ニューラナークの再生
020 ニューラナークの再生
020 ニューラナークの再生

020 ニューラナークの再生
020 ニューラナークの再生
020 ニューラナークの再生

ストーリー:

 ニューラナークはスコットランドのグラスゴーの南にあるラナークシャー郡の世界遺産である。グラスゴーからローカル鉄道で一時間ぐらいのところにあるラナークの町から2キロメートルほど離れた場所にクライド川が流れている。ニューラナークは、この川の水力を活かした綿工場と従業員のための住居がセットにして計画的につくられた町であり、都市計画史の観点からはメルクマールとなるようなプロジェクトである。ニューラナークはアメリカでは、都市計画の教科書に必ず出てくる事例であり、そういう点ではハワード・ガーデンシティのレッチワースやニューヨーク州のラドバーンといった都市計画の聖地の一つであるといえる。
 ニューラナークは、デービッド・デールによって1786年につくられた。デールは、義理の息子であるロバート・オーウェンを共同事業者としたのだが、オーウェンはここを1800年に購入し、社会主義的なユートピアとして整備することにした。オーウェンが事業主の時、ここには2500人の労働者が生活していたが、イギリスで最初の児童の教育のための学校を設立したり、工場の衛生管理、安全管理を徹底したり、また住居の質の向上にも力を入れた。1825年にオーウェンはアメリカに新しい町をつくるためにニューラナークを去り、その後、ウオーカー家、バークミアー家などに経営権は移り、1968年に閉鎖されるまでここは営業されていた。
 しっかりとした維持管理がなされてなかったこともあり、第二次世界大戦頃から、建物の老朽化は激しくなった。1963年にはニューラナーク協会が住民等を中心に設立され、一部の損傷の激しい建物を修復した。その後、1974年にはニューラナーク・トラスト協会が設立され、この町の倒壊を防止するための活動を開始した。1971年には、ニューラナークは歴史建築物として指定されたが、その状態は決して芳しいものではなかったので、同協会の設立はニューラナークの保全にとっては重要な役割を果たすことになる。それどころか、この協会がなければニューラナークは倒壊していたであろうとニューラナークの資料では書かれている。1983年からはラナークの都市計画部は建物の強制収容を行うが、これはスコットランドで初めて運用された事例となった。
 修復事業による雇用創出という自治体の政策の後押しもあり、ニューラナークの建築物は改修されていき、1993年には最も古い製作所が改修された。また、人々がまた居住し始めるようにもなり、現在では200人の人がここで生活している。
 このような、同トラストの活動によって、ニューラナークは2001年に世界遺産に指定された。現在では年間40万人の観光客を訪れる観光地にもなっている。

キーワード:

アイデンティティ,世界遺産,文化保全,産業遺産

ニューラナークの再生の基本情報:

  • 国/地域:スコットランド
  • 州/県:ラナークシャー県
  • 市町村:ラナーク市
  • 事業主体:ニューラナーク・トラスト協会
  • 事業主体の分類:市民団体
  • デザイナー、プランナー:ロバート・オーウェン (最初の計画)、ハリー・スミス(保全計画)
  • 開業年:1786

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 レルネル氏が「都市の鍼治療」として、重要視する考えの一つとして都市の記憶を維持することがある。ニューラナークが「都市の鍼治療」の事例として優れているのは、この老朽化して見捨てられていた建造物を見事に再生させ、再利用を図っただけでなく、世界遺産としてまで認めさせてしまった、ニューラナーク・トラスト協会の行動力の凄さにある。
 そのまま放っておけば、貴重な歴史的遺産、そしてその記憶を次世代に継承することができなくなるだけでなく、その地域にとっても何の便益ももたらすことがなかったであろう。それを、しっかりと守り通したことで、自治体の協力なども獲得することに繋がり、結果、世界遺産の指定へと繋がる。それも、1986年から申請して落とされ続けたにも関わらず、しぶとく申請をし続けてきたからでこその指定である。
 歴史的オーセンティシティを維持するために、この町にはテレビ・アンテナやサテライト・ディッシュの設置は許可されない。また、電話線や電線などもすべて地下に埋設されている。製作所、ホテル、そして居住用でない建物はほとんどがニューラナーク・トラスト協会によって保有されている。ナショナル・トラストという制度をつくったイギリスという国の凄みを感じさせるニューラナーク・トラスト協会の徹底ぶりである。そして、その情熱の積み重ねによって、同協会はニューラナークの価値を保全することに成功したのである。新しいものをつくることよりは、多くの労力を要したであろうが、新しいものが決して有することのない価値を擁しているものを現代において再現させたのである。

類似事例:

009 ツォルフェライン
065 シュピネライ
071 稲米故事館
083 明治学院大学の歴史建築物の保全
086 セオドア・シュトローム通りの減築プロジェクト
088 ジズコフ駅の再生プロジェクト
096 カルチャーセンター・ディーポ、ドルトムント
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207 長門湯本温泉の再生マスタープラン
261 ラリマー広場(Larimer Square)の保全
・ニュー・ハーモニー、インディアナ(アメリカ合衆国)
・石見銀山、島根(日本)
・軍艦島、長崎(日本)
・ランメルスベルク鉱山、ゴスラー(ドイツ)
・ヴィエリチカ岩塩坑、マウォポルスカ県(ポーランド)
・アル・ケ・スナンの王立製塩所、アル・ケ・スナン(フランス)