131 スティーフン・アヴェニュー (カナダ)

131 スティーフン・アヴェニュー

131 スティーフン・アヴェニュー
131 スティーフン・アヴェニュー
131 スティーフン・アヴェニュー

131 スティーフン・アヴェニュー
131 スティーフン・アヴェニュー
131 スティーフン・アヴェニュー

ストーリー:

 カルガリーのダウンタウンにあるスティーフン・アヴェニューは、まさにカルガリーの中心であり、銀座通り的位置づけの道路である。それは、カルガリー砦が設立されて間もない19世紀の終わり頃から、常にカルガリーの都心部でも最も賑わいのある場所であった。そこはまさにカルガリーの「ハレ」の空間であったのだ。
 そして、さらにその中心性を高めるために、そこを歩行者専用道路にするプロジェクトが考案され、1968年に設計者が選定され、その工事は1970年に完成した。その設計は、アルバータ州生まれの建築家では最初のマッシー・メダル(カナダ王立建築家協会授与)を1967年に受賞した地元出身のゴードン・アトキンスが担当することになった。当時、アトキンスは31歳という若さであった。
 アトキンスの計画は、スティーフン・アヴェニューのセンター・ストリートから2ストリート・サウスウエストの2ブロック間を歩行者専用空間とすることであった。彼の野心的な計画では、地上レベルでの暖房、噴水、時計塔、幼児の遊び用の囲い(プレイペン)、装飾を施した休憩所、そして意匠を凝らした電灯の設置などが提案された。これらの計画は予算不足という理由で多くが実現されなかったが、歩行者専用空間自体は1970年につくられた。その後、歩行者専用空間はスティーフン・アヴェニュー沿いに拡張され、1988年の冬季オリンピックが開催される頃には、オリンピックに合わせてつくられたオリンピック・プラザのある2ストリート・サウスイーストから3ストリート・サウスウエストまでの5ブロックが歩行者専用空間として整備されたのである。
 しかし、スティーフン・アヴェニューは想定したほど集客を図ることができなかった。そして、冬季には早く暗くなるため、沿道のレストランでは店の前まで車でアクセスすることが重要であることなどを配慮し、歩行者専用空間というコンセプトを1990年に変更することにした。それは、自動車を夜間(夕方の6時から朝の6時まで)のみ一方通行でその走行を許可するというものであった。具体的にはアトキンスのデザインで設置されたコンクリート製のプランターや椅子といったストリート・ファーニチャーや作り付けの照明器具などが撤去された。そして、それに代わるストリート・ファーニチャーが設置され、また昼間に自動車が走行できないための装置などが付け加えられた。
 スティーフン・アヴェニューのもう一つの特徴は、沿道に1800年代後半から1930年代にかけてつくられた30以上の登録歴史建築物が集積していることである。そのため、2002年にはこの道自体が歴史地区に指定された。多くの歴史建築物は地元の砂岩でつくられており、そのために1886年の大火にも燃えずに残ったという経緯もある。
 現在、スティーフン・アヴェニューはカルガリーでも最も良質なレストラン、店舗、そしてエンタテイメント活動が展開している場所となっている。また、スティーフン・アヴェニュー沿いには主要なコンベンション施設やホテルなども立地している。カルガリーでイベントを企画する時、ほとんどの場合、スティーフン・アヴェニューは開催場所としての最有力候補となる。そして、昼は多くの歩行者が溢れ、夜も沿道の店が賑わいをもたらす、まさにカルガリーという都市の「顔」的な空間として人々に親しまれている。都市政策的にもしっかりとそれを「顔」として整備しようと努めてきたことが、今日のスティーフン・アヴェニューの魅力に繋がっている。
 スティーフン・アヴェニューのリデザインは、カルガリー市とカルガリー・ダウンタウン協会(旧ダウンタウン・ビジネス協会)との共同事業として遂行された。

キーワード:

都市デザイン,広場

スティーフン・アヴェニュー の基本情報:

  • 国/地域:カナダ
  • 州/県:アルバータ州
  • 市町村:カルガリー
  • 事業主体:カルガリー市、カルガリー・ダウンタウン協会(The Calgary Downtown Association)
  • 事業主体の分類:自治体 市民団体
  • デザイナー、プランナー:Gordon Atkins (1970年の歩行者専用道路化)、Harold Hanes等(1980年以降の改修)
  • 開業年:1890年代、1970年(歩行者専用道路化)、1980年以降(改修)

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 スティーフン・アヴェニューの興味深いところは、1991年以降、午後6時から午前6時までの間は自家用車を通行させていることである。これは、スティーフン・アヴェニューは都心に立地しているために、その周辺には高層ビルが林立しており、昼にはこの通り沿いのレストランは繁盛しているが、夕方以降は人がいなくなってしまうからであった。それは、歩行環境を多少、よくしても人を都心に来させることには無理があったためであった。
 そこで、思い切って夜は自動車を通した。自動車を通した方が、まだこの通りが活性化すると考えられたからである。道路沿いにあるレストランの客にとっても、店の前でタクシーを拾えるというのは大きなプラスであった。
 都心から自動車を排除して、歩行者専用の空間にするのは「都市の鍼治療」としては、極めて汎用的であり、外さない方法論である。しかし、北米の都市ではうまく行かない場合が少なくない。それは、歩行者専用にしても、その道路の周辺に人がまったく住んでいなかったり、店舗の集客力がまったくなかったり、あまりにも自動車社会であり、その通りだけを歩くメリットがほとんどなかったりするからである。特に、店が閉まった後、自動車が走らないことで、かえって寂しくなるような事例もあったりする。そのような課題を解決し、しかも歩行者専用空間を都市に維持させるうえで、カルガリー市がスティーフン・アヴェニューにて実践した対策は極めて効果的であった。
 そして、歩行環境をよくしただけでなく、ファサードも改修した。これは、カルガリーのように歴史の浅い都市にとっては、100年以上の歴史を有する建築自体が稀少であるということもあり、都市のアイデンティティを発露させる貴重な資源であるからだ。現在、スティーフン・アヴェニュー沿いではほとんどの歴史的建造物のファサードが復活しているが、まだ一棟、そのような改修事業を行っていない建物が存在する。この建物が存在していることで、かえって、このファザード改修事業が、この通りをいかに魅力的にしたかを我々に知らしめる。
 都市には顔が必要である。特に北米や北海道のように都市としての歴史が浅いところでは、その必要性は高い。また、中心も必要である。そうしたなかで、カルガリー市はスティーフン・アヴェニューという都市の「顔」ともいえる「中心」的な場所をつくりあげることに見事に成功した。
 中心市街地が空洞化して、そのアイデンティティが溶解している日本の中心都市にとっても極めて示唆が多い事例であるのと同時に、歩行者専用空間が失敗したフレスノなどの事例を得意に取り上げ、その有効性に疑問を投げかけている日本の都市デザイナーに再考を促すいい事例でもある。

【取材】
カルガリー市役所都市デザイン・歴史保全課 Alastair Pollock氏

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