262 Wine Houseやまつづら(日本)

262 Wine Houseやまつづら

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262 Wine Houseやまつづら

ストーリー:

 福岡県太宰府市にある西鉄五条駅。以前は太宰府市内に大学が7つあり(現在は5つに減っている)、この五条駅界隈にもアパート需要はそれなりにあり、多くのアパートが界隈につくられ、多くの大学生が下宿していた。しかし、大学自体が数を減らしたり、寮をつくったりしたこともあり、下宿用のアパートの需要は減少し、多くのアパートが空き室を多く抱えることになった。
 西鉄五条駅から筑紫女学園大学を結ぶ「学園通り」沿いにある新崎アパートはまさに、そんなアパートであり、ほとんど空き家となった状況にオーナーは困っていた。そこで、オーナーが太宰府市に相談に行き、同市の空き家予防推進協議会の事務局を担っている「イエノコト株式会社」と知り合う。「イエノコト株式会社」は太宰府市を中心に女性目線で住まい方を提案するリフォーム会社である。「イエノコト株式会社」が一棟借りをして、もうこのアパートを住居用ではなく、「現状回復しなくていいので好きに使っていい」という条件でテナントを探すことにした。
 筑紫女学園大学の教授であった上村真仁氏は、2016年に開かれた太宰府市の戦略会議で「イエノコト株式会社」の代表と知り合っており、当初から「太宰府の門前町に学生が活用できる空き家がありませんか?」と相談していた。新崎アパートの借上げを検討していた「イエノコト株式会社」に、「門前町ではないけど五条の空き家があるよ」と紹介されたのが新崎アパートであった。
 その場所が気に入った上村氏は自腹でそこを借りた。太宰府は大学が多いが、学生達は授業が終わるとすぐ帰宅するかバイトに行くかで、太宰府の街に滞在しなくなっている。そこで、街中で学生が活動できる場所を提供することができれば、街は活性化するし、学生達には貴重な社会体験をする機会を得ることができるだろうと上村氏は考えた。
 2020年、彼は大学で講義している「地域デザイン演習」において、「こういう空き家があるんだけど、ここで何ができるか」と課題として問いかけた。その学生の課題発表には「イエノコト株式会社」の代表にもオンラインで参加してもらった。そこで、その提案を具体化しようということで、学生達は同年9月にRe’born不動産という空き家活用のグループを組織化し、アパートのリノベーションの計画を始める。ちょうど隣の部屋も空いていたので、上村氏はそこも借りることとし、畳であったところを剥がしてフローリングをし、壁をぶち抜いて二室を使えるようにした。
 ただ、この時点では学生のチャレンジショップとして活用するという漠然としたアイデアしかなかった。上村氏は兵庫県の豊岡市でワインのショップを経営している友人夫婦が以前、太宰府に遊びに来た時に、町屋でワインバーを一緒に開こうと話していたことを思い出した。学生が運営するワインショップが可能かどうか相談したところ、ワインの仕入れや、アパートの部屋代の半分を友人夫婦が負担することで、学生、上村氏、ワインの専門家の3者の共同事業を進めることとなった。酒販管理者は上村氏であるが、酒類販売業免許はこの友人夫婦のもので運営している。
 それで、2022年2月に開業したのがワインショップ「Wine Houseやまつづら」である。やまつづらとは万葉集にでてくるヤマブドウのことだ。ワインのセレクト・ショップということで、自然派ワインを多く置いている。現在は毎週金曜日と日曜日の午後3時から7時までオープンというゆるい営業スタイルであるが、このような試みを支援している太宰府市役所の職員や、近くの商店街の人達などが固定客になってくれているようである。
 ワインショップで一室は使っているが、さらに隣の部屋をどのように活用していくかを上村氏とRe’born不動産の学生達は検討している。現在、学生のいらなくなった古着を集めて古着屋を展開しようとしている。また、上村氏は古物商の免許も取得し、学生の古着に加えて、学内やの不用品や教員の処分する書籍などの販売を始めている。その他、上村氏は石垣島、対馬、東峰村などフィールドワークで関係性を持っている場所がいくつかある。それらの場所の特産品なども、こちらで広報を意図した販売をしたりもしている。
 空き家問題、そして街の活性化への一つの解決策、さらには現代社会を学習する機会の提供として、興味深い事例である。

キーワード:

コミュニティ,ワイン,大学

Wine Houseやまつづらの基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:福岡県
  • 市町村:太宰府市
  • 事業主体:上村真仁(筑紫女学園大学教授)
  • 事業主体の分類:大学等教育機関 個人
  • デザイナー、プランナー:上村真仁(Masahito Kamimura)
  • 開業年:2020年(アパートのリノベーションを開始した年)、2022年(やまつづらの開業年)

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 地方都市における空き家問題は深刻である。この空き家を街の資源として活かすには、相当ラディカルな仕組みと、投資家が必要となる。ラディカルな仕組みとは、その不動産で利益を生み出そうという発想を短期的には放棄するということだ。場合によっては無料でもいいであろう。何しろ、人に住んでもらうことが必要だ。そして、原状回復という条件も放棄するべきだろう。そもそも原状では、誰も借り手がいなかったのだ。ある程度、自由に空間をいじれるようにすれば、新たに人は入ってくるであろう。
 さて、しかし、そのような仕組みを提供しても、それに乗ってくる人がいなければ上手くいかない。この事例の場合は、筑紫女学園大学の上村教授がその役割を担った。無料ではなかったが、1万5000円という家賃を自腹を切って捻出した。上村教授は一人ではあるが、彼が入り込むことによって、筑紫女学園大学の学生達の参画ハードルを著しく低くすることができる。そして、彼女たちが入り込むことで街は活性化していくエネルギーを得ることができるのだ。
 今回の取材では二人の学生とも取材をすることができた。現代社会学部の増田七海さんは、この事業のリノベーション時から取り組んでいる大学三年生である。そもそも、このプロジェクトに参加したのはリノベーションに興味があったためのようだが、リノベ−ションには終わりがあるので、この場所を核としたイベント企画やワインショップをできれば楽しいのではないか。人との関わりが勉強になる、と考えているそうだ。ワインを展示する棚とかも、夏休みに彼女が製作したそうだ。同学部の同じ三年生の星子美月さんも、リノベーション時からこのプロジェクトに参画する。参加したきっかけは、まちづくりへの関心。新しい価値をつくりだすのが好きで、そのための準備、人との出会いとかでいろいろと学ぶことが多いそうだ。
 地元のお寿司屋さんのご主人は「学生が頑張ることが、この地域にとって一番いい」と言ってくれるそうである。増田さんは太宰府市のNPO・ボランティア支援センターでアルバイトをしており、学生というフットワークの軽さを活かして、街のつながりを強化する役割をも果たしている。 
 上村教授とのお話を通じて、肩肘を張らないその姿勢に、このプロジェクトの持続性を感じた。彼は「最初からこういう形を思い描いた訳ではなく、学生がやりたいことを形にしていきたい」と思っていたという。選択肢としてこういうものもあるよ、と学生達に提示し、学生の自主性を引き出そうとしていた。そして、重要なのは人との繋がりである。学生達がやりたいこと、そして、それと人との繋がりによって、今のワインハウスやまつづらがつくられた。そして、これは完成形ではない。今後も学生のアイデアと人とのネットワークで、この空間は成長していくであろう。
 参考までに、現時点(2022年5月4日)で新崎アパートの空き室はゼロ。多くの人が副業のための空間として活用している。例えば1階は貸しキッチン、マッサージ、カメラマンのギャラリー、ハーブ・ショップ、2階はエステ、書道教室、カフェなどである。

類似事例:

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066 日本の家
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135 かやぶきゴンジロウ
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