161 ジュビリー橋 (シンガポール共和国)

161 ジュビリー橋

161 ジュビリー橋
161 ジュビリー橋
161 ジュビリー橋

161 ジュビリー橋
161 ジュビリー橋
161 ジュビリー橋

ストーリー:

シンガポールのシンボルであるマーライオンがあるシンガポール川の河口は、エスプラネード橋でマーライオン公園と対岸のエスプラネード劇場とが結ばれていた。そこに、新たにこの橋と平行するように2015年につくられたのが歩行者専用橋であるジュビリー橋である。

この橋は建国50周年を祝った都心を巡る8キロメートルの歩道ジュビリー・ウォークの一部を構成しており、このジュビリー・ウォークのハイライトの一つでもある。ジュビリー橋からは2010年に開業した総合リゾートホテルのマリーナベイ・サウンズを始めとしたマリーナ湾沿いの瀟洒な建物群を望むことができる。

エスプラネード橋に平行して歩行者専用の橋をつくるというアイデアは、シンガポールの建国の父であるリー・クアンユー首相のものである。彼が2004年にマリーナ湾を訪れた時、エスプラネード橋の歩道は狭すぎて、マーライオンとエスプラネード劇場という観光資源を結ぶには不十分であることを観察し、そのために新たな歩道橋の必要性を述べたとのことである。そして、それはバリアフリーで歩行者専用であるべきだとも付け加えたそうだ。
2009年に開催されたデザイン・コンペで優勝したのはロンドンに本拠を置くARUP、そしてオーストラリアの設計会社COX Architecture、そしてシンガポールの設計会社Architects61のチームであった。

構造的には二つの支柱によって橋を支えることにしている。これは、橋自体がマリーナ湾の景観にとってプラスの存在であることを意識したためであるが、そのようなデザインの工夫を施していても、かつ2000人の重さを支えることができ、また構造的にも吊り橋にしないことで、マリーナ湾の橋からの展望を遮るものがないようにした。その結果、ジュビリー橋の優雅でスムーズな曲線は、平行して走る直線のエスプラネード橋とは好対照であり、この橋自体がマリーナ湾を彩るランドマークの一つとして位置づけられることに成功している。そして、この220メートルの長さに渡る橋が出来たことで、マリーナ・ベイ・サウンズ、エスプラネードのウォーターフロントとを巡るマリーナ湾を一周する歩行者専用ループが完成した。

ジュビリー橋は予定された時期よりも一ヶ月早い2015年3月29日に竣成した。これは、この橋の産みの親であるリー・クアンユー首相の国葬に葬列される人々の動線を確保するためであったと国の再開発局は述べている。

キーワード:

都市デザイン,歩行者専用橋

ジュビリー橋 の基本情報:

  • 国/地域:シンガポール共和国
  • 州/県:シンガポール
  • 市町村:シンガポール市
  • 事業主体:シンガポール市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:Arup, Cox Architecture, Architects61, Lee Kuan Yew
  • 開業年:2015

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

1965年、シンガポールがマレーシアから追放されるような形で建国してから50年経った。当時、半世紀後、この水もなく、資源もない都市国家がアジア四小龍の一画を占める東南アジアの雄となるとは誰が想像できたであろうか。それは、この国を建国以来率いてきたリー・クアンユーでさえ、思い描けなかったのではないだろうか。そして、シンガポールをここまで成長させ、世界第四位の金融拠点にまで発展させた最大の功労者はリー・クアンユーである。

マレーシアからの追放が決定された時、リー・クアンユーは茫然自失となったそうだが、そこから数多くの課題に取り組んでいく。地場産業がなければ外国企業を誘致し、天然資源がなければ人という資源を教育で充実させるようにする。そして多民族国家、多宗教国家の陥穽である宗教的な暴力や民族対立などの紛争が起きないよう、法律の制定によって抑制するようにした。さらには、ネットワークを重視し、世界中の情報に通じ、豊富な知識と正確な情報をもとにシンガポールにとって最善と思われる政策を断行してきた。

多少、我田引水な見方をさせてもらえるとリー・クアンユーはまさに見事な鍼師のように、シンガポールの問題を治してきたともいえるであろう。そのリー・クアンユーが提案をしてつくられたジュビリー橋であるからして、それが失敗することはない。彼は、ジュビリー橋をつくることが決まった時、「エスプラネード橋の歩道は狭すぎる。ジュビリー橋ができれば、歩行者は気持ちよくシンガポール川を渡ることができる」と述べたそうだ。

この橋の袂の先にはシンガポールのランドマークでもあるマーライオンが鎮座している。世界三大がっかり名所にも名が連なるマーライオンであるが、この橋ができたことで、そのアクセス環境も向上し、魅力は大きく増したと考えられる。また、現在シンガポールで最も有名な観光施設ともなったマリーナ・ベイ・サウンズも橋からは、その見事な姿がレンズに綺麗に収まる。周囲の環境をも改善させるような本プロジェクトは、まさに「都市の鍼治療」としてふさわしい。さすがリー・クアンユーのアイデアでつくられただけあって、素晴らしく諸問題をこれによって解決している。

【参考資料】
ARUPのホームページ(https://www.arup.com/projects/jubilee-bridge-singapore)

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