003 ゲーツヘッド・ミレニアム・ブリッジ(イングランド)

003 ゲーツヘッド・ミレニアム・ブリッジ

003 ゲーツヘッド・ミレニアム・ブリッジ
003 ゲーツヘッド・ミレニアム・ブリッジ
003 ゲーツヘッド・ミレニアム・ブリッジ

003 ゲーツヘッド・ミレニアム・ブリッジ
003 ゲーツヘッド・ミレニアム・ブリッジ
003 ゲーツヘッド・ミレニアム・ブリッジ

ストーリー:

 イギリスの北東部、ニューキャッスル市とゲーツヘッド市の境界を流れるタイン川に架けられた歩行者・自転車専用のアーチ橋。タイン川のウォーターフロントにあった製粉所跡地に美術館をつくることになったゲーツヘッド市が対岸のニューキャッスルと連結させるために建設した。それまで両都市の都心部を結ぶ橋は6つあったが、このミレニアム・ブリッジはそれらの中で最も下流部に架けられ、また唯一の歩道・自転車専用橋となった。その径間(わたりま)は126メートルで高さは50メートルである。
 この橋は、コンペによってロンドンのウィルキンソン・エアー建築事務所が設計をすることになり、構造計算はサザンプトンのギフォード建築会社が行った。建設は1998年に開始され、2001年9月に完成した。
 ゲーツヘッドのミレニアム・ブリッジの特徴は、その橋梁の意匠の美しさにある。橋梁はアーチ部分の梁と歩道面の桁からなるのだが、タイン川を航行する船を通すために歩道面の桁が回転するという、それまでに前例のない特徴的な意匠が施されている。橋の歩道面をケーブルでアーチ部分が吊っており、歩道面ごと船が航行する時には持ち上げてしまう、という驚くようなデザインをウィルキンソン・エアー建築事務所はコンペで提示し、それが具体化されたのである。
 歩道面もアーチも放物線の形状をしているため、それが持ち上がるとあたかも、目を閉じたかのように見えるため、「ウィンキング橋」、「まばたき橋」といった愛称で呼ばれてもいる。2002年には栄誉ある英国建築家協会のスターリング賞を橋梁としては初めて受賞した。
 現在では、この橋自体がその美しさ、ユニークな構造などから、ニューキャッスル市、ゲーツヘッド市の観光の目玉にもなっているが、そもそもつくられる契機はゲーツヘッドに新たにつくられるバルチック現代美術館へのニューキャッスル側からのアクセスを改善することを目的としていたという、あくまで副次的な理由であったことは興味深い。「瓢箪から駒」でつくられた橋である。
 この建設費は2200万ポンドであった。そのうち、半分近くはミレニアム補助事業の一つとしてつくられた。ミレニアム補助事業とは、優れたプロジェクトに関しては、その建設費の半分を補助するというもので、ゲーツヘッドは「魅力的な新しい橋梁」というテーマに応募して、見事、6つのうちの1つとして指定を受けたのである。
 この橋がつくられたことで、バルチック現代美術館をはじめとしたゲーツヘッド市のウォーターフロントを訪れる人が増え、また対岸のニューキャッスルもウォーターフロントの再開発とも相乗効果が発現し、かつてのタイン河沿岸の工業地区は文化地区として大きく変貌を遂げつつある。

キーワード:

橋,歩道橋,アイデンティティ,アクセス

ゲーツヘッド・ミレニアム・ブリッジの基本情報:

  • 国/地域:イングランド
  • 州/県:タイン・アンド・ウィア州
  • 市町村:ゲーツヘッド市
  • 事業主体:ゲーツヘッド市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:設計:ウィルキンソン・エアー建築事務所、ギフォード建築会社。施行はハーバー&ジェネラル。
  • 開業年:2001

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 J・B・プリーストリーは『イングランド紀行』(1934年)のなかでゲーツヘッドを訪れた時「このような町を生み出す文明が真の文明と言えるだろうか」と述べ、さらに「人類の敵」が都市計画をしたように思えると付け加えた。
 現在のゲーツヘッドにはこの言葉はまったく当てはまらない。いや、それどころか、私は個人的には、ゲーツヘッドはシンボル経済の時代においての極めて優れた事例であるとさえ捉えている。それは、ゲーツヘッドが90年代後半頃から手がけてきたマーケティング・センス溢れ、かつ、人を主人公とするような都市空間を創出しようとの試みが、大いに成功していると思われるからである。そして、その試みを象徴的に示すのが、このミレニアム・ブリッジであると捉えられる。対岸のニューキャッスル市から、人々がゲーツヘッドにあるバルチック現代美術センターへアクセスしやすくするために設計したこの橋は、しかし、今では現代美術センターよりも観光の目玉になってしまっている。アクセスを改善することを目的とした公共財が、デザインの力によって、その都市のアイデンティティをも形成するシンボルになってしまったのである。
 橋という土木構造物が、その芸術性の側面からその都市に新しいアイデンティティを創造しただけでなく、その周辺地域の再開発をも促進させたという素晴らしき都市の鍼治療の事例である。

類似事例:

113 クレーマー橋
161 ジュビリー橋
173 マンチェスター・カーブ(ピカデリー・カーブ)
178 ブルックリン橋
219 カペル橋
・ミレニアム・ブリッジ(ロンドン、イギリス)
・ブルックリン・ブリッジ(ニューヨーク、アメリカ合衆国)
・アラミリョ橋(セビージャ、スペイン)
・ムヘール橋(ブエノスアイレス、アルゼンチン)
・カレル橋(プラハ、チェコ)
・カペル橋(ルッツェルン、スイス)
・スタリ・モスト橋(モスター、ボスニア&ヘルツェゴビナ)
・パイソン橋(アムステルダム、オランダ)
・ロード橋(ユトレヒト、オランダ)
・ヘリックス橋(シンガポール、シンガポール)
・錦帯橋(岩国市、山口県)
・眼鏡橋(長崎市、長崎県)