185 グリーンエイカー・パーク (アメリカ合衆国)

185 グリーンエイカー・パーク

185 グリーンエイカー・パーク
185 グリーンエイカー・パーク
185 グリーンエイカー・パーク

185 グリーンエイカー・パーク
185 グリーンエイカー・パーク
185 グリーンエイカー・パーク

ストーリー:

 ニューヨークのマンハッタンに1967年、ペイリー公園という素晴らしいポケット・パークがつくられた(「都市の鍼治療」ファイル No.177)。これを受けて、Abby Rockefeller Mauzes Greenacre Foundationというロックフェラー財団系の組織からの寄付によって、ペイリー公園からそれほど距離が離れていない場所のタートル・ベイ地区に、このポケット・パークはつくられた。つまり、この空間は「公園」という名称を有しているが、民間が所有している、一般がアクセスすることができる「公共的」な空間である。これを所有している組織は、グリーンエイカー基金であり、これは大富豪のジョン・D・ロックフェラーの孫娘であるアビー・ロックフェラー・マウゼによって設立された。これは、彼女からのニューヨーク市へのプレゼントであった。
 それは、およそ591平方メートルの小規模な公園である。1エイカーは、4,047平方メートルであるため、公園の規模は名前が示唆するよりもさらに小さいのであるが、そこを訪れると、その空間を見事に活かしたデザインによって、そこは実際よりはるかに大きく感じることができる。この土地は以前は、店舗、車庫、そしてシナゴーグの一部からなる3つの敷地から構成されていた。
 植栽の多様性、様々な建設材料、8メートルはある滝と水のドラマティックな演出など、そこは見事な箱庭的空間となっている。年間を通して、この公園を彩る花が植えられており、また移動可能な椅子は人々がそれぞれ勝手に空間を楽しむことを可能としている。一日に平均して700名ほどがこの公園を訪れる。
 ニューヨーク市にある51の地区のうち、グリーンエイカー・パークのある第4地区は、住民当たりの公園および児童遊園の面積では49番目と、非常に劣っているのだが、そのような中、グリーンエイカー公園はまさに貴重な緑、としてこの地区に寄与していると考えられる。
 その建設費は約160万ドル。この公園は2018年に国家歴史登録財として登録された。

キーワード:

ポケット・パーク, 公園, 公共空間, 広場

グリーンエイカー・パーク の基本情報:

  • 国/地域:アメリカ合衆国
  • 州/県:ニューヨーク州
  • 市町村:ニューヨーク市
  • 事業主体:グリーンエイカー基金
  • 事業主体の分類:民間
  • デザイナー、プランナー:Hideo Sasaki
  • 開業年:1971年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 マンハッタンのポケット・パーク、ペイリー・パークが1967年に開園し、ニューヨークという摩天楼の足下に小さいながらも、見事な緑の空間が創造された。それを受けて、1971年に近隣につくられたのが、このグリーンエイカー・パークである。ペイリー・パークと比べても、その空間のランドスケープ・デザインは優れており、まさにアスファルト・ジャングルのオアシスのような空間が創造されている。
 設計者は日系アメリカ人で、ハーバード大学デザインスクールで教鞭を執ったヒデオ・ササキ氏である。デンバー都市再生プロジェクト、ペンシルベニア通りの景観設計、ユーロ・ディズニーランド、大規模リゾートのヒルトンヘッドなど、どちらかというと大規模なプロジェクトで知られるササキであるが、この箱庭のように小さな空間においても、特別な才能を有していることを伺い知ることができる。また、筆者が日本人であるからかもしれないが、どことなく日本の庭園美をそこに見出したくもある。
 ペイリー・パークと同様に、この公園もマンハッタンの住民達にはたいへん慕われており、1980年にここに日陰をつくることになる建物が隣接して建設されそうになった時、それを阻止する反対運動が起きて、見事にその計画を取り下げさせる。2017年に、この公園の周辺に高層ビルが建設できることを許可するゾーニング計画の改定案が提案された時、再び「光のための戦い(Fight for Light)」という反対運動が展開するのだが、このゾーニングの改定案は結果的に通ってしまう。しかし、開発業者には厳しい条件が課せられ、また、2018年には公園を守るために、それを国家歴史登録財に登録させてしまった。
 リーマン・ショックから復活したアメリカ経済は、現時点(2019年8月)においても好況で、ニューヨークの地価高騰は著しく、その開発圧力は相当のものがある。ゾーニング計画の改定案も、そのような時流の影響を受けていると考えられるが、不動産開発が進む中、その需要を支えているのは、グリーンエイカー・パークやペイリー・パークなどが良好な都市環境を維持しているからだ。これらがなければ、マンハッタンという都市空間の魅力は大きく減殺されるであろう。そして、また、それらを守ろうとする人々の強い意志もマンハッタンの魅力を支持している。
 都市空間の価値は不動産開発だけで生み出されるものではない。一見、利益を生み出さないような緑の空間、さらには人々の街への愛着が、都市空間に本当の価値をもたらしていることを、この極めて小さな空間は我々に知らしめてくれる。

【参考資料】Greenacre Parkのホームページ(https://greenacrepark.org)

類似事例:

042 バターシー・スクエア
129 サン・ホップ公園
177 ペイリー・パーク
226 ハウザープラッド
・ パイオニア・スクエア、シアトル(ワシントン州、アメリカ合衆国)
・ ケラー・ファウンテン公園、ポートランド(オレゴン州、アメリカ合衆国)
・ バルフォア・ストリート・パーク、シドニー(ニューサウスウェールズ州、アメリカ合衆国)
・ 代官山アドレス、渋谷区(東京都)
・ ジャーディン・エディス・ラミレズ・サンチェス、メキシコ・シティ(メキシコ)
・ ポラリス・ファンダース公園、コロンビア(オハイオ州、アメリカ合衆国)
・ ドイチェ・バンク・プラザ、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ ヴェリゾン・ポケット・パーク、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ コンチネンタル・イリノイ・ビルディング、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ セオドラ・パーク、チャールストン(サウスカロライナ州、アメリカ合衆国)
・ クラウド・ガーデンス、トロント(オンタリオ州、カナダ)
・ シーグラム・プラザ、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ ファースト・ナショナル・バンク・プラザ、シカゴ(イリノイ州、アメリカ合衆国)