124 リスボンのトラム (ポルトガル)

124 リスボンのトラム

124 リスボンのトラム
124 リスボンのトラム
124 リスボンのトラム

124 リスボンのトラム
124 リスボンのトラム
124 リスボンのトラム

ストーリー:

 リスボンの市域人口は55万人、都市圏人口は300万人以上で、ポルトガル最大の都市であると同時に、ヨーロッパでも大規模な都市である。テージョ川の河畔に位置しており、丘陵地が多く、その人口密度は65㎡と高い(政令指定都市だと日本のさいたま市とほぼ同じ)。このような地理的な状況もあり、リスボン市ではトラムが公共交通として大きな役割を担ってきた。
 最初の電車方式のトラムが導入されたのは1901年である。その後、ネットワークが拡張し、最盛期には28系統、営業距離も76キロメートルまで増えたが、1960年以降は地下鉄の開業、モータリゼーションの進展などから、バス路線に転換が進み、現在、5路線、総延長26キロメートルにまで縮小してしまっている。現在、営業しているのは12系統(フィゲイラ広場を起点に環状に時計回りに走るルート)、15系統(フィゲイラ広場からアルゲス)、18系統(カイス・ド・ソドゥレ駅からアジュダ墓地)、25系統(アルファンデアガからオウリケ広場)、28系統(マルティム・モニス広場からオウリケ広場)である。
 これらのうち、特に観光客に人気があるのは観光スポットを繋ぐ28系統である。28系統はリスボンで最も古い地区であるアラファマ地区、ダウンタウンのバイシャ地区、またサブカルチャーの拠点でもあるバイロ・アルト地区など、リスボンでも魅力的な観光スポットを巡る。トラム自体がリスボンの素晴らしい都市経験を提供することもあって、車内は常に多くの観光客で溢れている。
 15系統以外の路線を走るレトロな車体は、車体こそほとんど昔のままだが、主要機器は1990年代に総入れ替えをしており、近代的なのである。15系統だけ、ドイツのシーメンズ製の未来的なライトレール風な車輌が走っているが、これは、15系統が平坦な土地を走っているからという理由である。歴史的都市であるリスボン市街地の風景と、このレトロなトラム車輌は、互いにマッチした味わいのある都市景観をつくりだしている。
 このトラムの価値が最近、再評価されるようになっており、フェルナンド・メディナ市長は2016年12月に24系統をカイス・ド・ソドゥレ駅-カンポリージ間、復活させると発表した。2017年9月2日時点ではまだ営業は開始していないが、メディナ市長はトラムの営業を縮小化させた政策は失敗であると明言しており、これを機に再びトラムのネットワークが拡大することも期待できる。

キーワード:

トラム, 公共交通, 歴史的遺産, ヒューマン・スケール

リスボンのトラム の基本情報:

  • 国/地域:ポルトガル
  • 州/県:リスボン県
  • 市町村:リスボン市
  • 事業主体:カリス社(リスボン市)
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:不明
  • 開業年:1901年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 レルネル氏は『都市の鍼治療』において、リスボンの最も良い鍼治療は「急いでは何もしないことであろう」と述べている。そして98年の万博を契機とした再開発を、暗に批判している。
 リスボンの小高い丘に登り、街並みを見渡すと、レルネル氏が「小さな山々、美しい山々を見る、そしてテージョ川も」と書いた光景が目の前に広がる。テージョ河のトルコ・ブルーのような青さと、山の尾根が重なり合ってつくりあげるグラデーション、そして、この山の間の谷を埋めるようにぎゅうぎゅうに立つレンガ色の屋根とクリーム色の壁の建物。確かに、現状でこれだけ美しい都市において、無理矢理、新しいものと入れ替える必要はないであろうし、万博を契機に郊外につくられたポストモダンの建物が、この旧市街地の圧倒的な個性を上回ることは難しいであろう。
 さて、しかし、リスボンの人達もそのような都市の美徳は自覚しているのではないか、と思わせるのが旧式のトラムやケーブルカーの存在である。特にトラムは、車両の大改修を1990年代に行ったのだが、外観と車内の内装はレトロなままで維持した。渋みのある車体の黄色は、リスボンの歴史的街並みと見事にマッチしている。そして、「急いでは何もしないことであろう」(急いては事をし損じる)というレルネル氏のアドバイスを聞いたかのように、このトラムを徐々に復活させるとメディナ市長は明言している。
 このトラムの軌道は900mmという狭軌である。これは、リスボンの坂道は道幅も狭く、細い車体でないとすり抜けられないからである。というか、狭軌でないと線路を設置することさえ難しい。そして、最新のライトレール車輌では、急な坂道、そして急カーブを曲がることは難しい。レトロなトラムは、リスボンという地理的特性に見事に合った交通手段であり、それを再び復活させることで、リスボンの都市アイデンティティ、そして魅力はさらに向上するのではないだろうか。

【参考文献】ジャイメ・レルネル『都市の鍼治療』

類似事例:

171 ナウムブルクのトラム
229 サンフランシスコのケーブルカー
318 カールスルーエのデュアル・システム
・ ケーブルカー、サンフランシスコ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ サントスの路面電車、サントス(サンパウロ州、ブラジル)
・ ストリート・カー、ニューオリンズ(ルイジアナ州、アメリカ合衆国)
・ 世田谷線、世田谷区(東京都)
・ 都電荒川線、豊島区・北区・荒川区等(東京都)
・ 世界最古のモノレール、ヴッパータール(ドイツ)
・ ドレスデン・サスペンション鉄道、ドレスデン(ドイツ)
・ フロイエン・ケーブルカー、ベルゲン(ノルウェー)
・ BRTシステム、クリチバ(ブラジル)