123 アジタゲダ(ポルトガル)

123 アジタゲダ

123 アジタゲダ
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123 アジタゲダ

123 アジタゲダ
123 アジタゲダ
123 アジタゲダ

ストーリー:

 ポルトガルの中北部に位置するアゲダ市は、人口は14,500人程度(大都市圏では人口5万人)と決して大きくない。しかし、ここは7月の3週間(2017年は7月1日〜23日)に開催されるイベント期間中には、観光客数が一日平均で3,000人以上も訪れる。このイベント中は、商店街の上部空間を何千もの傘がアーケードのようにカラフルに彩り、また特設ステージではライブ演奏などのイベントが行われる。このイベントは「アジタゲダ」と呼ばれている。アジテーションとアゲダの合成語である。
 アジタゲダは2006年から開始されたが、それ以来、町のイメージは大幅に向上している。イベントを始めたのとほぼ同時に、パブリック・アートのインスタレーションも街中で展開するなどしたことが功を奏し、それまでは、リオ・アゲダ川の氾濫でしかニュースで流れなかった町の名前は広く内外に知れ渡ることになった。しかも、洗練されたお洒落な町のイメージが流布するようになったのである。
 商店街を何千もの色鮮やかな傘が空中に風船のように浮いているインスタレーションは、アンブレラ・スカイ・プロジェクトと呼ばれている。これらの傘は、商店街ごとにちょっと違ったデザインが施されており、艶やかに街中を演出している。さらに、アゲダ市のストリート・ファーニチャーや階段、市役所の前にある階段などは虹を模したようなカラフルな七色にペンキが塗られている。また、幾つかの壁には絵が描かれており、アートの町であることを訪れる人に気づかせる。ちょっとした美術館のようである。
 アジタゲダの大きな特徴は、地元住民が積極的に関与していることである。市役所の職員が、イベントを企画だけでなく運営までもしている。そして、このイベントに参加するアーティスト達も基本的には地元出身者である。また、このイベント中にはワークショップや音楽講義なども提供される。
2014年までに「アジタゲダ」そしてアゲダ市の名前は44ヶ国に発信された。その印象的取り組みによって、アゲタというイメージは世界中の人が知ることになっている。

キーワード:

イベント, パブリックアート

アジタゲダの基本情報:

  • 国/地域:ポルトガル
  • 州/県:バイショ・ヴォウガ県
  • 市町村:アゲダ市
  • 事業主体:アゲダ市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:Edson Santos
  • 開業年:2006

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 空に浮かぶ無数の色とりどりの傘の群れ。その強烈な印象を残しつつ、どこか人を惹きつける懐かしさ・温かさを有したインスタレーション・アートによって、アゲダ市は広く人々が知るとことなった。実際、私がアゲダ市を訪れると、多くの日本人や中国人観光客と行き交った。おそらく、この傘のインストレーションがなければ、まずここを訪れなかった人達ではないかと思う。私もそのような一人である。
 実際、その効果は多くの人々の期待を大きく上回り、観光客の増加は地元の経済にプラスの影響を及ぼしている。しかし、このイベントの最大の効果は、住民が町に誇りを持ち、積極的にまちづくりに参画するようになったことであろう。
 これらのイベントを企画した背景は、住民にシビック・プライドを持ってもらいたかったというサントス市議会議員の思いがある。これといった特徴のないアゲダという町は、産業も衰退し、将来の展望も決して明るくなかった。そして、人々は町へのプライドも愛着も有していなかった。そこで、どうにかしようと市議会議員仲間や市役所の職員達などとサントス氏が会合を重ねるのだが、誰かがオランダ人の芸術家が傘のインスタレーションをしている話をする。サントス氏達は、これはよいアイデアだと思い、この展示をすることを考え、ついでに町全体を芸術の展示場にしようと企画する。つまり、傘はアゲダという町の歴史や文化とはまったく関係ない。観光客は町のストーリーを消費したがるのだが、そのようなものはない、とサントス氏は正直に舞台裏を話し、肩をすくめた。そして、最初は40万円という格安の予算で傘のインスタレーションを行った。そして、アジタゲダというイベントも開催することにしたのである。
 このイベントや町の知名度は徐々に高まっていったが、大きく知られるようになったのは5年前ぐらいからである。人々は、傘の写真を撮影して、積極的にフェイスブックやインスタグラムなどのSNSで発信し始めたのである。これによって急激に訪問客が増えるようになる。
 そして、知名度の向上とともに住民の町への関心、そして愛着のようなものが高まっている。傘のパンを焼き始めたり、それまでなかったお土産などをつくって販売したりするようになっている。古い建物は改修され、町になかったホテルなどが開業するようになった。地域経済がゆるやかにではあるが確実に動き始めたのである。現在では、アジタゲダのプロジェクトには、地元の100以上の商店が参加し、17の地元のバーなども出店などしている。また、「アゲダで買おう」というプロモーションも同時に実施しており、このイベント中は100以上の商店で定価の一割引きのサービスが行われている。日本のようにイベント業者がビジネスでやっているのではなく、あくまでも地元の住民が、市役所や市議会議員達と手作りで街づくりを展開している。それこそが、アジタゲダの魅力の本質なのではないかと考える。
 私の手元には2009年版の「ロンリー・プラネット」のポルトガル本があるのだが、そこにはアゲタのアの字も書かれていない。これは、アゲダがこれだけの世界から観光客を集客できるだけのイベントを行い始めたことが、つい最近であることを物語っている。傘のアート・インスタレーションという人々を惹きつける効果を有したイベントを実施できたこと、また、その相乗効果を狙い、関連のイベントを短期集中的に打ち出すことで、「ロンリー・プラネット」のようなオタク的要素の濃い観光ガイドにまで素通りされていた田舎町が見事に、その存在を大きく発信することに成功した。絶妙な「都市の鍼治療」であると考えられる。
 アジタゲダを実現させた最大の貢献者であるサントス氏は私への取材で「アジタゲダほど、この都市に文化的影響を及ぼしたものはないであろう」と誇らしげにいったが、何も資源がない町でも、アートを使えば新しい魅力を創出できるということを広く世に知らしめた素晴らしい鍼治療の事例であると捉えられる。

【取材協力】アゲダ市役所パウロ・ブライト氏、アゲダ市議会議員エドゥソン・サントス氏

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