106 国立映画博物館(トリノ) (イタリア共和国)

106 国立映画博物館(トリノ)

106 国立映画博物館(トリノ)
106 国立映画博物館(トリノ)
106 国立映画博物館(トリノ)

106 国立映画博物館(トリノ)
106 国立映画博物館(トリノ)
106 国立映画博物館(トリノ)

ストーリー:

 国立映画博物館はトリノのランドマークであるモーレ・アントネッリアーナに設置されている。モーレ・アントネッリアーナは、その塔のデザインが特異であることと、その圧倒的な高さとボリュームからトリノを代表するランドマークとなっている。
 国立映画博物館は、この塔のユニークな空間構造を巧みに利用した5階建ての博物館である。トリノは20世紀前半にイタリア映画産業揺籃の地であった。トリノの若い歴史家マリア・アドリアーナ・プローロは1941年6月8日、映画に関する博物館をトリノにつくることを決意した。そして、映画関連資料や機材等を精力的に収集し始める。プローロはすぐに投資家をみつけ、また博物館の場所としてモーレ・アントネッリアーナ内の一室を確保することに成功する。しかし、戦争によってこの計画は頓挫し、紆余曲折を経て、戦後の1958年に博物館はトリノの別の歴史建築物にて開館する。1965年に文科省が正式な国立映画博物館として認定するなど、順調に博物館は発展していったが、トリノの映画館で火事が起き、それを契機として建築規制が厳しくなり、この博物館も規制を満たしていないということで1985年に閉館させられる。1991年にプローロは亡くなるが、翌年、プローロ財団がピエモンテ州、トリノ市等のバックアップのもと創設される。そして2000年に、この博物館構想当初に博物館の場所として考えられていたモーレ・アントネッリアーナにて再開された。
 モーレ・アントネッリアーナは1889年に完成した建物で、建設時はヨーロッパで最も高い建物であった(その後、エッフェル塔に抜かれる)。ドーム型の屋根の頂上までの高さは121メートル、さらに尖塔の上までだと167メートルもある。この建物は、建設当時はシナゴーグとなる筈だったが、そのようには使われずに展示場として1990年代まで使われてきた。このトリノを代表するランドマークは、しかし、機能的にはそのポテンシャルをまったく活かされなかった訳だが、ここに博物館が置かれることで、その建物はそれにふさわしい役割をつくられて初めて獲得することができたのである。
 この博物館の収蔵品は200万点以上。インターラクティブな展示が特徴で、映画発明以前の視覚装置やら、映画製作のしくみの展示、ポスターギャラリーなどがある。また、がらんどうの吹き抜け空間では、椅子に寝っ転がりながら大スクリーンで上映する映画を鑑賞することもできる。また、このがらんどうの空間を屋根の屋上まで結ぶエレベーターが上下をしており、これは乗っているもの、それを見ているものの両者に視覚的刺激を提供している。

キーワード:

博物館 , アイデンティティ, 集客施設, ランドマーク, 観光施設

国立映画博物館(トリノ) の基本情報:

  • 国/地域:イタリア共和国
  • 州/県:ピエモンテ州
  • 市町村:トリノ
  • 事業主体:マリア・アドリアーナ・プローロ財団
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:Maria Adriana Prolo, Allesandoro Antonelliana (Costanzo Antonelliana)
  • 開業年:1958年、2000年(再開館)

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 トリノの国立映画博物館はユニークな存在である。そのユニークさは膨大な収録数ではなく、展示方法そして展示空間にある。展示空間は、モーレ・アントネッリアーナという唯一無二の特異な建物の中にある。しかも、その中を、透明の筒状のエレベーターが上下している。それは、まるで宇宙浮遊している箱のように見える。建物の壁部分にも展示されており、螺旋状の通路でそれらを鑑賞するのだが、壁側の展示をみるよりも、むしろがらんどうの塔の内部空間を見下ろす方が楽しいぐらいである。
 博物館のコンテンツでも十分、集客が図れるだろうが、モーレ・アントネッリアーナというトリノでも最も目立つランドマークにて開設したことで、その魅力をさらに向上させることに成功した。モーレ・アントネッリアーナからはトリノ市の360度の素晴らしい展望が得られる。博物館だけを目的としていない人も、このモーレ・アントネッリアーナからの展望と合わせて、ここを訪れる場合が少なくないであろう。そして、映画の魅力を改めて知る機会を得るのである。
 展示の方法がインターラクティブで面白いということもあり、多くの生徒や学生がここを訪れる。それによって、トリノ市はフィアットだけの都市ではなく、イタリア映画においても重要な都市であることを知るのである。
 このように、この博物館はその魅力を発現させるうえで様々な工夫が施され、そして成功している。これは、またモーレ・アントネッリアーナという十分にそのポテンシャルが発揮できなかったトリノのランドマークをも観光資源として再生させることに成功したのである。
 そして、それが一人の情熱的な女性によって具体化されたところが素晴らしい。そのような個人の思いをも具体化させることができるのも都市であることを認識させる見事な「都市の鍼治療」である。

【参考文献】
「National Cinema Museum Turin, the visitor’s guide」 Museo Natzionale del Cinema

類似事例:

009 ツォルフェライン
033 ジェノサイド・メモリアル
122 サンタ・ジュスタのエレベーター
123 アジタゲダ
132 ダイナミック・アース
182 鶴岡まちなかキネマ
・ グッゲンハイム美術館、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ 科学博物館、ヴォルフスブルク(ドイツ)
・ オンタリオ美術館、オンタリオ(カナダ)
・ EPM博物館、シアトル(ワシントン州、アメリカ合衆国)
・ ユダヤ博物館、ベルリン市(ドイツ)