186 プリンツェシンネン菜園 (ドイツ連邦共和国)

186 プリンツェシンネン菜園

186 プリンツェシンネン菜園
186 プリンツェシンネン菜園
186 プリンツェシンネン菜園

186 プリンツェシンネン菜園
186 プリンツェシンネン菜園
186 プリンツェシンネン菜園

ストーリー:

 プリンツェシンネン菜園は、ベルリンはクロイツブルク地区のモーリッツプラッツ駅そば、プリンス通りとオラニエン通りの間にあるオープン・スペースである。戦前はデパートが立地していたのだが、東西ベルリンの壁が設置されたため、戦後はそのまま放置されていた場所に2009年、市民によってつくられた都市菜園である。その面積は6,000平米である。
 その当時、都心で野菜をつくるということはされていなかった。この菜園の産みの親であるロバート・ショーがキューバを訪れ、その都市農園を知ったことがきっかけである。彼は、そこで、そのような場所が共同体を強化するうえでの重要な機会を提供することを知り、この空地において友人のMarco Clausenとともに私財をなげうって菜園をつくったのである。そのコンセプトは、「オープン・スペースを生産性のある野菜をつくる場に変容し、協働し、学ぶ場」というものである。同菜園では、有機的な農業が実践されており、子供達が遊ぶ空間もつくられている。そして、ガーデニングについての講習やジャガイモの育て方といった都市で農業をするために必要とされる学びのワークショップが開催されたりもしている。さらに、自転車の修理場、木工作業場なども設置されており、自転車修理、木工作業など都市農業という範囲を越えたことについても学ぶ機会が提供されている。
 この菜園はNomadisch Gruenという市民団体によって運営されている。市役所からの補助金は一切受けておらず、団体自らが運営費を捻出している。おおまかに3分の1は野菜の販売やカフェの売り上げから、3分の1は類似の菜園運営を手がける学校などの組織に対するコンサルタント・サービスの提供への謝礼から、そして残りの3分の1がグッズの販売や寄付金などからである。
 これらの事業によって得られた資金によって、15名ほどが雇用されており、さらに4月から10月にかけてはアルバイトを10名ほど追加して雇っているそうだ。植えられている植物の数は500。この菜園に関わる人は年間で8,000人。観光客も多く、年間で8万人ほどが訪れる。
 このプロジェクトはベルリン市役所も高く評価しており、同市のオフィシャルな観光客向けのホームページでも紹介されている(https://www.visitberlin.de/en/prinzessinnengarten)。現在(2019年9月)、Nomadisch Gruenはベルリンの郊外団地であるノイ・ケルンにおいて、新たな試みを展開することを計画している。

キーワード:

住民参加, 広場, 都市農業

プリンツェシンネン菜園 の基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ベルリン州
  • 市町村:ベルリン市
  • 事業主体:Nomadisch Grün
  • 事業主体の分類:市民団体
  • デザイナー、プランナー:Robert Shaw, Marco Clausen
  • 開業年:2009年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 プリンツェシンネン菜園は、都心部において人々が協働する機会を提供することを意図してつくられた。そのきっかけは、この都市の鍼治療事例でも紹介したキューバの「ハバナの都市有機農業」(ファイル番号093)である。ハバナの都市有機農業は、ソ連崩壊に伴う食料不足から始まったが、ベルリンではそのような問題はない。しかし、同菜園の設立者であるロバート・ショーは、ハバナの試みにて、菜園はコミュニティの人々を協働させ、その紐帯を強化させるということに感銘を受ける。そして、ベルリンにあった60年間も人々から見捨てられていた空地に、このコミュニティが協働するような仕掛けを展開することにしたのである。
 ただ、これをつくった当初は、この土地を1年単位でしか借りることができなかったこともあり、建築物はすべてコンテイナーをベースにつくられ、野菜を植えるプランターは、パン屋がパンを収納する籠を寄付として提供してくれたものを使うなどして、撤去時にすぐ動かせるようにした。開園してから3年後に、この土地を開発したいデベロッパーが現れ、この土地が売られることになったが、そこで住民を中心とした大反対運動が起きた。この事実は、プリンツェシンネン菜園が3年間で人々に極めて好意的に受け入れられたことを示唆している。そして、この反対運動を受け、ベルリン市がこの土地を購入し、同菜園に貸し出すことを決定した。これによって、デベロッパーによる開発は阻止され、現在に至っている。ベルリン市役所は、一切、プリンツェシンネン菜園には補助金を出していないが、市役所が土地を購入してくれたことは、非常に大きな支援となったと、プリンツェシンネン菜園の運営者の一人であるハンナ・バークハート氏は指摘していた。
 都市の空地というポテンシャルを見事に活かし、都市の魅力を創出し、発信させる場へと変容した見事な「都市の鍼治療」事例であると考えられる。

【取材協力者】 ハンナ・バークハート氏(Nomadisch Gruen)

類似事例:

093 ハバナの都市有機農業
193 羽根木プレーパーク
198 フィルバート通りの階段
・ ガーデン・パッチ、バークレイ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ クリスタル・ウォーター、クイーンズランド州(オーストラリア)
・ バンコクのアーバン・ガーデン、バンコク(タイ)
・ トッドモーデン、ヨークシャー(イギリス)
・ コリングウッド・チルドレンズ・ファーム、メルボルン(オーストラリア)
・ イサカのエコビレッジ、イサカ(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ サウス・セントラル・ファーム、ロスアンジェルス(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ アーバン・ユース・ファーム、サンフランシスコ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)