236 タグボート大正(日本)

236 タグボート大正

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ストーリー:

 2020年1月に大阪市大正区の尻無川のウォーターフロントに複合商業施設「タグボート大正」が開業した。タグボートとは「引き船」。つまり、大正区のまちづくりを牽引するという役割を期待してネーミングされた商業施設である。これはフードホール、台船レストラン、ライブステージ、ワークショップ、イベントスペース、SUP(スタンドアップ・パドルボード)、川の駅などが設置されている「水辺のターミナルタウン」であり、それは大正地区に新しい価値を生み出すことが期待されている。
 そのコンセプトは「つくるが交わる」。これには、つくることが人をつなげ、交わることに繋がる、という思いがこめられている。そのために、大手ゼネコンには一切発注せず、地元の業者を中心につくりあげていった。そこにはコスト削減という意味合いもあったが、地元の人達と一緒につくっていくということで、場所としての魅力を発現させるという強い意図があった。テナントも大正区のお店が中心で、大阪府外の事業者は一つも入れず、地元感を演出することにも拘っている。
 このプロジェクトを訪れた人はその斬新さ、ユニークさを感じるかと思われるが、それは、この河川沿いの商業施設というものが日本では珍しいことに加え、河川に係留された船が商業施設として利用されているからだ。日本では初めてのケースであり、河川法を含めて多くの障害を乗り越えて実現に辿り着いたプロジェクトである。それは、行政と民間事業者がタッグを組んだからこそ初めて可能となった画期的な事業である。
 これは、言うは易く行うは難しである。というのも、公的機関と民間事業者が同じベクトルで事業に取り組み、しかも協働するためには、綿密なコミュニケーション、そして信頼関係がベースに求められるからである。しかし、その難しい条件をこのプロジェクトではクリアした。なぜ、公的機関である大正区と民間事業者が見事にスクラムを組むことができたのか。公的機関のリーダーであった元大正区長の筋原章博氏と民間事業者として大正区と土地使用契約を締結した株式会社RETOWNの松本篤氏に、どのような視点でこの事業に取り組んだのかを取材したので、その内容を下記にまとめる。

■公的機関の視点
 このプロジェクトが立地する大正区は、大阪という大都会にあって人口減少の問題に直面していた。大阪市は税収、人口ともに増加しているのに、大正区は両方ともマイナス。1990年から2015年まで7万4千人から6万6千人とほぼ19%も人口は減少する。空き家率も18%近くと全国平均よりも高いような状況であった。その結果、活力もなくなって、マイナスのスパイラルに陥るような状況になってしまっていた。そのために、どうにかして、それを逆転させようと、当時、大正区長であった筋原章博氏は、観光による集客力の向上と地域のイメージアップに取り組むこととした。そして、数多くのイベントを開催し、多くの集客に成功する。マスコミにも頻繁に取り上げられるようになり、イメージアップにも繋がった。それにも関わらず、人口減少・流出を止める効果はなかった。イベント時だけでなく、日常生活そのものを楽しくするような取り組みをしないといけない、ということに気づかされた。まちが衰退しているとは「まちが、人とお金に素通りされ、人とお金がまちから流出している状態」であり、まちを衰退させないためには「人とお金をまちの中に循環させること」が重要であることを理解した。さらに、にぎわいを創出させると同時に、収益ももたらすような「まちのリノベーション事業」を展開するために、「社会課題を解決できる」イノベーション・プロフェッショナルが活躍できるような環境整備が必要であると考えるに至った。
 そして、注目したのが尻無川河川広場周辺の水辺エリアの公共空間であった。ここは、堤防の外側にある立入禁止の河川敷だったが、大正駅の北側にある京セラドーム大阪といった年間約200万人を超える集客施設と大正駅とを結ぶ回廊上にあり、京セラドームを訪れる多くの人々が大正区を素通りしてしまうことを変えるために集客の受け皿をここにつくりたいと考えたのだ。筋原区長は、それまでの集客事業がイメージアップとイベントでの賑わいは生み出しても、それが街の持続的な活性化には繋がらなかったという反省から、この事業でまちをリノベーションできるような内容を検討することにした。そこで指針としたのは、次の3つである。①今ある素材(建物など)を活用する、②新しい使い方を考える、③採算がとれる事業として継続する、というものだ。
 そして、これら3つの指針に則って、①周辺の街並みが持つ「下町」「秘密基地」感を活かす、②立ち入り禁止の河川敷を特区指定で店舗・クルーズ展開を可能にする、③補助金を出さず、事業者による常設運営にする、というコンセプトを掲げた。
 まずは2015年から「タイショー・リバービレッジ」という社会実験事業を試みる。これは6月から10月までという4ヶ月ちょっとの期間で延べ25,000人の集客に成功する。
 この成果をもとに、2016年に大正区は「にぎわい創造拠点整備・管理運営事業」の公募型プロポーザルを実施し、株式会社RETOWNを選定する。そして、大正区という行政組織と株式会社RETOWNという民間事業者が手を組んで、「タグボート大正」という常設施設の具体化に動き出す。事業目的をしっかりと実現させるために、地元住民の意向を反映させるための地元協議会としての「尻無側河川広場周辺エリア活性化協議会」を設置した。それまでの大阪市の水辺づくりは、トップダウンで特区指定を用いて進められてきたが、タグボート大正は地元の意見を反映させなくてはならないと考え、地元協議会を設立し、地元の総意を得られるように工夫したのである。そして、それらの意見を踏まえて、河川法上の準則特区の指定がなされ、河川敷で飲食・物販・クルーズ等の収益事業が可能となった。さらに、「大正リバービレッジプロジェクト」(床面積合計1,575㎡、広場1,352㎡)を民間都市再生整備事業計画に申請する。2019年3月、国土交通省はそれを認定した。民間と地方公共団体が連携して水辺を活用するプロジェクトとしては初の認定であった。
 事業スキームであるが、大正区が包括占用者となり、株式会社RETOWNが包括使用者となった。包括占用者と包括使用者は土地使用契約を結ぶ。また、包括占用者は河川管理者である大阪府から河川占用許可をもらい、河川占用料を納付する。一方で株式会社RETOWNはテナントと契約を結ぶ。このような仕組みは一見すると複雑だが、事業をうまく遂行するうえでは、まさに摩擦をうまく回避する賢い仕組みである。まず、河川管理者である大阪府の立場からすると、堤防の外側にある河川敷を民間に貸すのには心配事が多すぎる。結果、事業は進展しなくなってしまう。しかし、ここで包括占用者として大正区が入り、リスクを取るというのであれば、大阪府としては「特区」として認可を出しやすくなる。大正区はその役割は「補助金を支出するよりも、業界トップランナーの民間事業者が新しいアイデアを出来るだけ制約なく実現できるための環境を整える」ことであると位置づけ、その最大の財産である「信用力」を活かして、「新しいアイデアを持った事業者が地域社会に拒絶されないよう、行政職員が事業者の意図や想いを正しく伝えるサポート」をすることで、プロジェクトを円滑に進めさせることとした。そして、テナント業者からすれば、民間事業者と契約を結ぶということはスピード面や事務処理の簡潔さなどから、ずっとストレスが少ないので有り難い仕組みである。

■民間事業者の視点
 一方、民間業者として関わることになった株式会社RETOWNの松本氏は、タグボート大正に関わるまで、10年ぐらい大阪の水辺の賑わいづくりに取り組んできた。そこで、分かったことは、交通で水辺の拠点となり得るところは、大阪でも数少ないということだ。そして、大阪で観光用の船ではなく、移動手段として船をどうにかしようとすると、このタグボート大正があるここをどうにかしないといけない、と気づく。
 そういう思いがあったので、タグボート大正の包括事業者を選定する際の募集事項に舟運事業を必須項目として入れるよう要望する。舟運の拠点とすることをプライオリティにおき、それから事業の組み立てを考えた。現在は、ユニバーサル・スタジオとここの定期航路を確立させたいと考えている。ユニバまでのアクセスが電車だけでは足りない。船でのアクセスを築きたいのだが、それが具体化できるのは、ある程度利便性が確保できるここしかないと考えている。株式会社RETOWNはそもそもは舟運業者ではない。したがって、定期航路を本業とするのではなく、それが成立するのを他に見せることで、他に参入してきてもらいたい。自分たちで全部やるというのではなくて、どんどん競争を促し、舟運のサービスの質を高めたいと考えているのである。
 このように考える背景には、大阪市は世界の水の都としてのポテンシャルを有しているにもかかわらず、移動手段としての船が成立していない事実への忸怩たる思いがある。地元の人が使ってないのはもったいない。筋原氏とともに、大阪をほんまに水の都にしたいという夢を持っているのだ。
 タグボート大正は、そのような考えを抱きつつ、大きく二つのテーマを掲げた。
 一つ目は、大正の今一つのイメージを改善させること。大正は人口の減少が止まらない街。株式会社RETOWNがお店を出している福島や天満が、この数年盛り上がりを見せているのに比べると、大正はさっぱりである。ガラの悪いイメージ、下町のイメージがあるが、水辺のターミナル・タウンという新しいイメージを発信することで、それを変えたいと考えた。
 二つ目は、ものづくりの街としての大正を前面に打ち出すこと。大正は工場も多く、生産の場である。そこで、ここが若手の作り手などが交わって化学反応が生まれるような場所にしたいと考えた。
 このようなテーマを具体化させるために、デザイン・コンセプトは株式会社ムーラの中川氏に依頼し、町工場を意識して、使う素材はお洒落だけどインダストリアルなものにした。第一期のテナントは飲食関係をメインに誘致した。基本的に大手のテナントに入ったことがない個人業者に入ってもらうようにした。第一期に入った16のテナントのうち4つが大正ゆかりのコンテンツで、残りの12は大阪市内か大阪府下のテナントである。大正だけでは完結はできないが、大阪の枠を出ないようにした。意識したのは、現状のパイを取り合うのではなくて、パイをでかくするということ。この事業は大正という商圏を大きくしようとするきっかけとして位置づけている。 
 タグボート大正だが、まずは地元の人に受け入れられることを優先的に考えている。大阪の人にここがいい街として認識してもらいたいと考えている。タグボート大正のターゲットの優先順位は、1)地元、2)感性の高い大阪の若者、3)京セラドームのお客さん、4)インバウンドとしている。
 京セラドームができた時は大正の地元も客が増えると期待したけど、結果は素通り。そのように考えると、まず地元の人が誇りに思えるような事業にしなくてはいけないと考えた。
 このように、人はいるのに素通りされている大正区のリバーフロントに集客施設を設けると同時に、地元が活性化するような施設をつくりたい、そして、水運を活かしたいという思いは、民間事業者である松本篤氏と区長であった筋原氏とがまさに共有したものであり、その思いの実現に手を組んだ。そして、公共と民間事業者という二つの顔をもつ事業推進体という形をとれたことで、このタグボート大正の今の形が具体化されたのである。

キーワード:

観光, 地域活性, リバーフロント, 舟運, 地域資源

タグボート大正の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:大阪府
  • 市町村:大阪市
  • 事業主体:大阪市大正区役所, 株式会社RETOWN
  • 事業主体の分類:自治体 民間
  • デザイナー、プランナー:筋原章博、松本篤
  • 開業年:2020

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 タグボート大正が具体化するうえでのキーマンは二人。この素晴らしい公民協働でのプロジェクトを実現させるためには、公共側と民間側にそれぞれ高いコミットメントを有する人物が存在することが不可欠であったが、タグボート大正では、公共側は筋原区長、民間側は株式会社RETOWNの松本篤氏がいた。筋原区長は大阪市の港湾局で港の管理を20年以上されていた。平松市長時代に通常の人事異動で大正区長になる。それまでは区長は部長級のポストに過ぎなかったのだが、橋下市長になり、いきなり公募区長となって区長の位置づけが高まる。そこで、公募区長として応募すると選ばれる。そこで、どうにかして大正区の社会減(流出人口から流入人口を差し引いたもの)を減らせないかと奮闘する。最初に取り組んだのは集客観光であった。集客イベントは「T-1 ライブグランプリ」「大正ポセイドン」「リバーサーカス」「大正リバーサイド物語」などを行い、これらは成功する。しかし、それにも関わらず人口減少、特に社会減を止める効果はなかった。そこで、筋原区長は人口減に対しては「大規模イベントは何の効果もない」ということを理解する。「街を変えるエネルギーとしては、イベントでは不足だ。日常生活が楽しくなければ、人は減り続ける」と認識を新たにして、エリア・リノベーションに取り組むこととした。そこで、この都市の鍼治療でも紹介させてもらった「ヨリドコ大正メイキン」(事例 196)など、地域が主体となるようなまちづくりの事業を展開するようになる。これらは、地域にも面白がって受け入れられた。
 さらに、行政として公共空間を有していることを活かして、公共空間のリノベーションに手をつけることとした。大正区には京セラドームという年間200万人の集客施設がある。さらにはイケアという年間400万人を集める商業施設もある。しかし、これらの集客施設を訪れた人達は大正区は素通りである。そこで京セラドームのそばにある堤防の外側の立ち入り禁止の場所を上手く使えないかと考えた。中之島のような綺麗なものではなく、「下町」「秘密基地」といったこの場所の特性を活かした何かを河川法の特区指定を受けることで、つくれるようにしたいと考えたのである。
 タグボート大正が現在あるところより下流に、大阪府の倉庫を借りて大人の水遊びをするような場所をつくっていた人がいた。水辺活用の先駆者である山崎勇祐氏である。彼は船を停泊させてバーを身内相手に始めた。そのうち口コミで訪れる人が増え、コンサートなどのイベントをやったりして、名所となった。これが伝説的な水上バー「サンセット2117」である。そのようななか、山崎氏が逝去される。これを継続させたいという人達がいたが、これは法律的にはなかなか営業許可を出すことは難しい。どうしたらいいか、と筋原区長のところに相談が来る。現地を見に行ったら、これが素晴らしい。どうにか残したいと考えた。
 現在の水都大阪を推進する力となっている泉英明氏や渡辺篤氏とかは、皆、当時、山崎氏の薫陶を受けていた。山崎氏を慕っていた彼らが、「天の山崎さんに鼓舞されたか」のように、それを継続させようと動き始める。まずは、この場所を管轄していた大阪府にどうにかならないかと訴えた。しかし、それは法律違反であるので、そのままの場所で続けるのは無理。「場所を変えて続けることはできないか」という思いで、大阪府にも相談をし、検討が始まった。
 そこで、手がけたのは社会実験事業「Taishoリバービレッジ」である。これは2015年の6月からの1ヶ月、そして7月から10月の3ヶ月と二回に分けて行った。最初はバーベキューとクルージングを事業として行った。収益性があることを見える化しなくてはならない。第一期ではテレビなどに取り上げられたこともあり、売り上げは約1500万円。ただ、第2期の夏場では暑すぎて収益が落ちるなどの課題も判明した。さて、インフラ整備は区役所の管轄である。当初は全てのインフラを区役所が整備する必要があると考えていたが、これだけ収益があるなら事業者側で下水等一部のインフラは整備可能という話になり、公費での整備費が節減できた。そして、タグボート大正が具体化する。ここでは、船を水上レストランとしようと試み、特殊船として、近畿運輸局から許可を取ることに成功する。
 大正区はかつては中山製鋼所の企業城下街であり、ものづくり町工場が多い。そこで、タグボート全体を「町工場」のイメージを持たせるようにした。そして、地元の特色を出したいと考えた。地元の人が店を出してこそ、素通りされない場所になれると考えたからである。
 その建設においても徹底的な分割発注を行い、地元に発注するようにした。建物の二階は「サンセット2117」の再現。筋原区長を含め、この事業を推進してきた人達の悲願であった。また、大正区は沖縄からの移住者が多く住んでいることで知られる。したがって、沖縄料理の店を出さないといけないと考えた。しかも、観光客向けではなく地元沖縄県人会が行きたくなるようなお店に入ってもらわないといけない。タイミングよくJRの高架化で店を移転しなくてはいけない沖縄本島そのままの沖縄料理を出せるお店にこれは入ってもらった。さらに昭和の雰囲気丸出しのスナックなどにも入ってもらった。
 このように、大正タグボートは地元のアイデンティティや地元の人達の考え、技術を見事に具体化させた集客施設であり、それがそのユニークさを発現させている。筋原氏は任期のある公募区長であり、同じ区では区長を続けられないので、現在は同じ湾岸部の港区長をしているが、彼のつくったシステムは、見事に引き継がれて今日に至っている。
 タグボート大正は、決して大きなプロジェクトではないが、その実現の背景には行政側の、きめ細かく民間事業者の立場を考える、謙虚な姿勢があった。人口が縮小していく中、20世紀のような、パイを膨らませて、その配分を差配するような、殿様的な姿勢での行政のまちづくりでは、地域の再生は起きえない。地域を再生させるために民間事業者の能力を十二分に顕在化させるためには、これまでの行政のやり方ではないアプローチが必要である。そのことをタグボート大正の成功は我々に示唆している。天晴れな「都市の鍼治療」事例である。

【取材協力】
筋原章博 港区長(元大正区長)
松本篤(株式会社RETOWN代表取締役)

【参考資料】
水辺リングのホームページ
https://mizbering.jp/archives/27290

産経新聞の記事(2019.12.27)
https://www.sankei.com/article/20191227-P7NB2X6B55NG5P4KSK4ID3M46Y/

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