231 長崎稲佐山スロープカー(日本)

231 長崎稲佐山スロープカー

231 長崎稲佐山スロープカー
231 長崎稲佐山スロープカー
231 長崎稲佐山スロープカー

231 長崎稲佐山スロープカー
231 長崎稲佐山スロープカー
231 長崎稲佐山スロープカー

ストーリー:

 長崎は夜景の美しさで知られている。世界新三大夜景の一つであると紹介されている(残りの二つは香港、モナコ)。この素晴らしい夜景の視座として有名なのが長崎港をはさんで長崎市街地の西に位置する標高333メートルの稲佐山である。標高はそれほど高くはないが、手前の港、そして背景に聳える七高山の漆黒の闇が長崎の市街地の明かりを囲み、それは確かに世界三大と形容しても納得するような夜景である。
 標高は決して高くはないが、ここにアクセスするのは容易ではない。以前、稲佐山に行くルートは二つあった。一つは長崎駅からバス、もしくは市電の最寄り駅から歩いてロープウェイの山麓駅に行き、そこからロープウェイで登頂するというルート。もう一つは、稲佐山の中腹にある駐車場と山頂とを結ぶ長崎スカイウェイで行くというものであった。前者は現在でも運行されているが、後者は2008年に廃止となる。
 このスカイウェイが廃止になった直接的な理由は老朽化であったが、その背景には来場者数が伸び悩んでいたという事情があった。その後、駐車場から山頂まではバスが運行されていたが、2011年に展望台がリニューアルオープンした。さらに、スカイウェイが廃止された2008年には556万人だった観光客数が、2017年には708万人へと増加していた長崎市は、イベント広場、野外音楽堂などがある稲佐山中腹の大駐車場から稲佐山へ到達できる、バスより利便性が高く、またその乗車自体がエンタテインメントとなるような交通手段を望むようになった。
 そして、計画されたのが、スロープカーの設置である。スロープカーはそもそもは、炭鉱での従業員運搬用の交通手段を自作していた嘉穂製作所が、国の委託により開発した新交通システムであり、乗用向けのスロープカーがつくられたのは1990年のことであった。当初は主にゴルフ場への納入が中心であったが、2000年頃からは広く設置されるようになる。その特徴は「勾配に強い」ことであるが、何より安価で設置できることが長所であり、場合によっては斜行エレベーターよりも安い。さらには、設置をするうえで鉄道の免許が必要でないため、届け出作業が簡単であるなど、設置の事務的な手間が少ないことも昨今、注目されている大きなポイントである。
 稲佐山スロープカーが開業したのは2020年2月。稲佐山中腹の駐車場から山頂までの600メートルを結ぶ。その設計は高級車フェラーリなどの仕事もしている工業デザイナー奥山清行氏が率いるKEN OKUYAMA DESIGNである。その洗練されたデザインと、スロープカーの車窓からの展望も見事であり、それ自体が一つの観光の目玉になっている。

キーワード:

スロープカー,公共交通,夜景,モビリティ

長崎稲佐山スロープカーの基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:長崎県
  • 市町村:長崎市
  • 事業主体:長崎市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:奥山清行(KENOKUYAMA・DESIGN)
  • 開業年:2020

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 スロープカーは、斜面走行モノレールによって勾配に合わて床面を水平に保ちながら走行することが可能である。このスロープカーのポイントは、それが法律上はエレベーターに分類されるため、鉄道事業法や軌道法の法律的制約を受けずに済むということである。鉄軌道のようなものの上を走行しているのにエレベーターに分類できるのは少量輸送であることと、ある限定された敷地内の輸送であるからだそうだ。特徴としては、勾配が得意であることで、最大で50度までは問題がないようである。
 とはいえ、見た目はエレベーターというよりかはモノレールである。片道の運賃も300円とそこそこの料金である。定員も80名で、稲佐山の中腹駅と山頂の展望台との所要時間も8分。さらに、この車輌のデザインが洗練されていて格好いい。それもそのはず。このスロープカーをデザインしたのは世界的な工業デザイナーである奥山清行氏である。そして、稲佐山ロープウェイも彼のデザインによる。稲佐山の山頂にアクセスする交通施設が両方とも同じデザイナーが設計したことで、景観としての統一感が出ている。これは稲佐山のような景勝地、観光地においては特に留意すべき点かと思われるが、実際はなかなかできない。公共空間への景観意識が高い長崎市だからこそ具体化できた景観管理なのかもしれない。
 観光客による長崎市の項目別満足度調査が2017年に実施された。そこで、最も満足度が高いのは「夜景」であり、5割が「大変満足」、3割が「満足」と回答している(出所:長崎国際観光コンベンション協会)。夜景は天候によっては見えないこともあることを考えると、この満足率は極めて高いと考えられる。そして、その夜景への駐車場からの快適なアクセスを可能としたスロープカー。それは、観光地としての長崎市のポテンシャルを高めることに繋がる見事な施策であると考えられる。

【参考資料】
長崎新聞(2007年1月19日)
取材協力:長崎市

類似事例:

171 ナウムブルクのトラム
・ ヴッターパルのモノレール、ヴッターパル(ドイツ)
・ あすかパークレイル、北区(東京都)
・ 柴田町船岡城址公園スロープカー、柴田町(宮城県)
・ 皿倉山スロープカー、北九州市(福岡県)
・ ヨコハマ・エア・キャビン、横浜市(神奈川県)
・ メトロケーブル、メデジン市(コロンビア)