220 出島表門橋(日本)

220 出島表門橋

220 出島表門橋
220 出島表門橋
220 出島表門橋

220 出島表門橋
220 出島表門橋
220 出島表門橋

ストーリー:

 鎖国時代、出島は日本と海外を結ぶ唯一の接点であった。しかし、明治時代になって日本が開国すると、その位置づけは大きく後退し、周辺地区は埋め立てられてしまい、島らしさは喪失された。その後、その歴史的重要性から、1922年に正式に国の史跡として指定され、1951年から出島復元整備事業に長崎市が取りかかるようになり、民有地を買い戻し始める。1982年にはその長期的かつ総合的復元整備の構想が策定され、その復元事業が積極的に推進されていくこととなる。そして、2016年には19世紀初頭にあった建物6棟が再建され、当時の景観が復元された。
 そして、長崎と出島を結んでいた、つまり鎖国時代に日本と西洋とをつなぐ唯一の橋が存在した場所に、新しい橋である出島表門橋が2017年につくられた。それをつくるうえで文化庁からは2つの条件が出された。一つは国指定史跡である出島側への橋台を設置しないこと、さらには復元と誤解されないよう現代的な橋とすることである。これらに加えて、出島の風景を尊重するために上部に構造を出さない、さらには大水害の被害を小さくすることと、河川景観上の観点から河川内に橋脚設置を行わないという設計コンセプトのもと、33.3メートルにも及ぶスパンを長崎市江戸町側で支えるというユニークな構造システムの橋とした。
 この橋を整備するうえで、長崎市景観専門監である高尾忠志氏は、次の点について強く留意したという。

1) 明治時代に、この橋が架橋している中島川は土木工事によって川が拡幅しており、治水上の観点から江戸時代のような短い橋を架橋できなくなっている。オリジナルを復元できない場合は紛らわしいものをつくってはならないという、文化財保全の基本ルールに則って、最先端の技術によって橋を実現させる。加えて、橋と公園が一体となって統一感のある景観を形成すること。
2) 検討委員会等のメンバーは日本の第一人者的存在の専門家に依頼するべきであること。
3) この事業は長崎市の役所の中でも3つの部署にまたがり、かつ基本計画・基本設計・実施設計と3回、発注業務が生じるものであったが、それでは全体として統一感のある質の高いデザインを具体化することは難しいということで、これらを一つの業務としたプロポーザルにて実施すること。
4) 市民の関心を高めるためにも、積極的に情報発信を行い、さらには市民ワークショップや市民シンポジウムを繰り返し行うこと。

 高尾氏が掲げた上記の点は、しっかりと守られた。特にデザインに関しては、河川内には橋脚は1本だけ設置可能であったが、結果的には片側(出島)に荷重をかけないシーソー構造を用いるという見事な土木構造的解決によって、橋脚をまったく設置せずに済んだ。遠景からは出島を引き立てる空間にしっくりと調和したようなコンパクトなデザインでありながら、近づくと細部にまで丁寧に人に優しく接するような設計が施され、人々に愛着を覚えさせるようなものとなっている。
 また、この橋をつくるプロセス、さらにはその後のメンテナンスにも地域住民を巻き込むことに成功し、まさに地域の社会基盤として、この橋をつくり維持していく地域住民とともに、その地域のアイデンティティ形成に寄与している。
 この橋は2018年にグッドデザイン賞、2017年の土木学会田中賞を受賞している。

キーワード:

アイデンティティ, 土木遺産, 景観保護, 水害

出島表門橋の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:長崎県
  • 市町村:長崎市
  • 事業主体:長崎市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:株式会社ネイ&パートナーズ
  • 開業年:2017

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 出島表門橋は、物理的に現在の長崎市と復元されつつある出島を結ぶというだけではない。それは現代の長崎と鎖国時代の長崎とを時間を越えて結ぶ役割をも担っている。それは、忘れられていた出島という都市の記憶を現在へと繋ぐタイムマシーンのようなものだ。そして、その役割を見事に象徴させているのが、この橋のデザインであると考えられる。
 長崎市は都市デザインに力を入れている。景観専門監というポストを設けて、しっかりとした景観行政を行っている。そのような長崎市であるからこそ、出島という長崎市の都市形成において極めて重要な空間へアプローチする橋の景観意匠も、その場所性、その土地の物語性、さらには河川を含めた周辺の調和ともしっかりと配慮したものとなっている。そして、デザイン的な自己主張をせずに周囲に溶け込みつつ、強烈な存在感を放っている。さらに、橋梁としての機能もしっかりと果たしている。見事な景観的解決法であり、都市の鍼治療の主唱者であるジャイメ・レルネル氏が常日頃口にする「問題が解決である(Problem is a solution)」を地で行った素晴らしい事例であると考察する。
 また、江戸町側には橋と同時に出島表門橋公園を整備した。これは、出島へアプローチする際のホワイエ的な空間として機能すると同時に、橋へのアクセスを格段に改善させる役割を担っている3,000㎡ほどの公園である。旧護岸線をしっかりと意識し、さらには河川側への地盤を切り下げることで出島への眺望を確保した。出島表門橋という「点」だけでなく、その効果をさらに広げるために出島表門橋公園という「面」を整備したところに、長崎市の都市計画・都市デザインの傑出した都市デザイン性を感じる。
 この橋、そして江戸橋側の橋周辺の河岸部分に公園を整備するためには、20年にも及ぶ用地取得の経緯があった。さらには、この橋を含めた出島復元整備のための基金は市民からの寄付金が財源となっている。そのような市民の思いに応えるためにも、プロポーザルの段階から市民に公開し、市民の関わりたい気持ちを上手く受け入れた細やかな事業の進め方も、このプロジェクトの実現に寄与したであろう。
 出島の復元事業はまだまだ途上であるが、それを進展させていくうえでの大きなハードルを、この出島表門橋の整備によって飛び越えたのではないだろうか。

【参考資料】
「長崎市景観専門監レポート 2013-2017」長崎市景観専門監 高尾忠志編著

【取材協力】
長崎市、高尾忠志

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