156 新栄テラス (日本)

156 新栄テラス

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156 新栄テラス

ストーリー:

新栄テラスは福井市の福井駅西側の中心市街地にある商業集積地区における暫定的な駐車場活用広場である。福井市中心市街地もご多分に漏れず、近年、衰退傾向にあり、駐車場や空き店舗が多く散見されるようになっている。その中でも新栄商店街は空き店舗が多い状況にある。

2013年度から福井市と福井大学がこの新栄商店街の共同研究を始めた。そして、この土地利用の高度化、商店の集積が魅力である商店街にブラックホールのように存在する駐車場の問題の改善手法を検討するために、この商店街にある駐車場を暫定的に借りて、仮設で運搬が容易なウッドデッキを162畳ほど敷き詰めたちょっとしたテラス空間を出現させるようにした。そこでは、ピクニックやビアガーデンなどのイベントを行ったり、まちなかで出店検討している人達のお試し出店を企画したり、屋台などを出店させたりすることで賑わいを創出し、商店街における回遊性を高めるように企図したのである。プロジェクト初年度の2014年度は福井市と福井大学が運営主体となって夏と秋の2週間、2015年度は地元店主等の有志も参加し、秋の約1ヶ月ほど実施した。そして、2016年度からは地元主体で運営するようになっている。

この事業の企画、そして運営までをも実施してきた福井大学の原田陽子先生が本イベントの来訪者の調査をしたところ、2015年度の来訪者は約5400人で、これは前年度に比べて約4倍も増加していた。また、新栄テラスとの因果関係がどの程度であるかは明らかではないと断りつつも、事業開始から1年間経ち、空き店舗数が35件から19件に減少したことが判明した。加えて、来訪者のアンケート調査では新栄テラスによって「まちなかのイメージがよくなった」と回答した人が86%あったことや、それまでこの地区に来なかったような若い世代の人達が多く来るようになったことも分かった。

 この事業で特筆すべきこととして、市民からも高く評価されたこの事業を地元主体で継続させていくうえでのネックとなっていた新栄テラスの駐車場の賃料という問題を解消するために、JR福井駅近くにあった福井市所有の駐輪場と、新栄テラスの駐車場との利用権を3年間ほど実験的に交換することを福井市が提案したことである。この提案に対して、駐車場がなくなることに不安を示した地元店主もいたそうだが、2015年度の来場者のアンケート調査では「96%の人が駐車場よりも広場を求めている」ことが明らかとなったので、福井市の提案を受け入れることになった。このことにより、駐車場の賃料という問題をクリアしたこの事業は、2016年度から当面の3年間は地元主体で継続しているところである。

【参考資料】原田陽子「中心市街地再生からみる暫定利用―福井市中心市街地の駐車場活用広場「新栄テラス」を事例としてー」(『都市計画』2016年7月号、vol.321、都市計画学会)

キーワード:

空き店舗,中心市街地空洞化,シャッター商店街,空閑地利用,駐車場,暫定利用

新栄テラス の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:福井県
  • 市町村:福井市
  • 事業主体:新栄テラス運営委員会、福井大学、福井市
  • 事業主体の分類:自治体 大学等教育機関
  • デザイナー、プランナー:原田陽子
  • 開業年:2014年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

空き店舗はもちろんだが、駐車場も商店街の集積という魅力を大きく損なう。そのために海外の商業集積地区は駐車場を見えないようにビルの裏側に設置したり、駐車場の建物を隣接する商店のファサードと合わせたり、そのようなお金がない場所でも、取りあえず目隠し的な壁絵を設置したり(「都市の鍼治療」事例049: アッシャースレーベンの壁絵)、様々な工夫をして駐車場のマイナスな影響を少なくしようと努力しているが、興味深いことに日本の都市においては駐車場が我が物顔でその都市の一等地を占有していたりする。ヨーロッパの都市、特にドイツやオランダなどは、人口3万人ぐらいの都市規模でも中心市街地の駐車場は地下駐車場にしたりして、貴重な都市空間は車ではなく人のものとするようにつくられているが、なぜか日本の都市では東京や福岡といった大都市を除けば、トンネルや橋には莫大な公共投資をしても、都心部の地下駐車場をつくることはしない。福井市のような県庁所在地で人口が27万人ぐらいあるような都市の都心部でも青空駐車場だらけである。

さらに、郊外化によって都心部の商業集積地区で空き店舗が増えていくと、それらが駐車場に置き換わってしまい、加速度的に都心部が魅力を失っていくというマイナスのスパイラルに陥ってしまう。まさに福井市の新栄商店街はそのような状況にあった。

そのような課題を抱える中、それほど利用されない駐車場に着目し、それを魅力あるオープン・スペースに変身させてしまったのが、この新栄テラスである。駐車場がなくなると客が来なくなるという商店街の人達の不安は暫定利用というアイデアで乗り切り、2014年度は2週間、2015年度は1ヶ月、そして2016年度からは3年間と徐々に事業期間を延ばしていくことに成功した。駐車場という都市活動という観点からは、ほとんど寄与することがない場所が、都市に活力を与えるカタリストへと転換したのであるから、まさに「都市の鍼治療」でレルネル氏が言う「問題こそ解決だ」の素晴らしい事例である。

この事業がそれなりに成功した大きな理由を、原田陽子先生は、低未利用地の活用を促すために、土地の所有と利用を切り離すという柔軟な土地利用ができたことで、地元主体での継続を可能としたことと、暫定利用で始めたからこそ周辺店舗の理解や協力を得られたことを私への取材で挙げていた。人口減少時代を迎えマーケットの拡張が期待できない地方都市の中心商店街において、駐車場という低未利用地を賑わいをもたらすパブリック・スペースに暫定的に利用転換させ、それを持続させるために創造的な解決手法を見出した本事業は見事な「都市の鍼治療」事例であると捉えられるし、大学の研究室が地元商店街を再生するうえでスマートに寄与できた好事例であるとも考えられる。

【取材協力】原田陽子(福井大学)

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