126 オスロのオペラハウス (ノルウェー王国)

126 オスロのオペラハウス

126 オスロのオペラハウス
126 オスロのオペラハウス
126 オスロのオペラハウス

126 オスロのオペラハウス
126 オスロのオペラハウス
126 オスロのオペラハウス

ストーリー:

 オスロ・オペラハウスは、ノルウェーの首都オスロの中心地から東にあたる再開発地区ビョルヴィカに位置するオスロ・フィヨルド湾沿いにつくられた歌劇場であり、ノルウェー国立オペラ・バレエ団の本拠地である。それは、ノルウェー政府の土地管理会社Statsbyggによって運営されている。建物面積は38,500㎡で、大劇場には1,364席、2つの小劇場は200〜400席を設けることができる。
 外壁はイタリア産の白い大理石によってつくられており、建物があたかも湾から浮かび上がっているように見せる効果を与えている。これは、14世紀初めにニダロス大聖堂がつくられて以来、ノルウェーでは最大の文化施設となった。
 オスロでは以前からオペラハウスをつくることの是非に関して議論がされていたが、1999年につくることで決定し、またその敷地も選定された。デザイン・コンペが実施され、350の応募からノルウェーの設計事務所であるスノヘッタが選ばれた。工事は2003年に開始され、2007年に完成した。工事費は予算内の約7.6億米ドルであった。こけら落としは2008年4月12日。この年には130万人がここで観劇をした。
 オスロ・オペラハウスの象徴的な点は「絨毯(ザ・カーペット)」と表現されているデザイン・コンセプトである。コンペの設計条件として、オペラハウスは「高い建築の質」と同時に「ランドマーク」であることが求められた。スノヘッタは、この条件をクリアするために、オペラハウスの敷地、そして屋上を広く人々に開放する広場とした。これによって、オペラハウスは単に、そこで観劇する人だけでなく、オスロ市民全員が所有意識を持つような公共空間になったのである。その地表から屋上までアクセスする空間を、あたかも「絨毯」のように人々が歩き、憩えるようにしたのである。
 また、このオペラハウスは、都心東部のハーバーフロントの一大再開発地区ビョルヴィカで最初に建設された建物でもあった。そのために、再開発の象徴としての役割を担うことも期待された。オペラハウスが建設された時は、まだその北部には高速道路が走っていたが、現在では、それは地下化され、上部空間には国立図書館が建設中であり、都心と結ぶトラム路線も開通している。また、オペラハウスと中央駅とを結ぶ地区はバーコード・プロジェクトとよばれる、オフィス・住宅のミックスド・ユースの開発が進んでおり、東ではムンク美術館が建設中である。さらにオペラハウスの脇を結ぶハーバー・プロムナードと呼ばれる湾をまたぐ歩道橋によって、新しく住宅地として開発されたソレングカイアとも接続している。これら再開発された地区の、まさにランドマークとしてオペラハウスは位置づけられている。
 オペラハウスでは年間で約300の公演が開催され、毎年25万人ほどの来観者がいる。これに加えて、公共広場としてのオペラハウスへの来訪者を数えれば、このオペラハウスは集客装置としてもすこぶる優れていることが理解できる。それはまた、50に及ぶ職種の600人の職場でもある。
 このオペラハウスは2008年の世界建築ファスティバルで文化賞に、さらに2009年にはミース・ファン・デル・ローエ賞に輝いた。

キーワード:

文化施設,公共空間

オスロのオペラハウス の基本情報:

  • 国/地域:ノルウェー王国
  • 州/県:オスロ県
  • 市町村:オスロ市
  • 事業主体:Statsbygg, Ministry of Church and Cultural Affairs
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:Snøhetta
  • 開業年:2007年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 オスロ・オペラハウスを設計したスノヘッタのベテラン建築家に取材をさせてもらった。オペラハウスを設計するうえで留意したことは次の3点であるそうだ。
1)海(水)へのアクセス
2)ランドマーク(アイコンとしての建築)。
3)プラザの提供
 オペラハウスでは、場所との個人的な繋がりをつくろうと意識したそうだ。そのためには、オペラハウスをパブリック・プレースとして提供することが重要であると考えた。オペラ座をつくることで、そこの空間を人々から奪うのではなく、むしろ空間を提供するように工夫をしたのである。その空間を所有するのは、オペラ座に観劇する人だけでなく、市民すべてであるようにしたいと設計する時に考えたそうである。オペラハウスは、フィヨルドの湾に浮かぶ巨大な白い大理石とガラスの意匠が極めて印象的であるがゆえにオスロにつくられた新たなランドマークとして捉えられがちであるが、この建物を「都市の鍼治療」的にみた場合、特筆すべき点は3)のプラザの提供という点にある。
 筆者は、取材のためにオスロ市を滞在中、3回ほどこのオペラハウスを訪れたが、昼夜を問わず常に人で溢れていた。オペラを観劇しない人々もここを訪れているのである。オペラハウスという公共施設を、単にオペラを市民に提供するというだけでなく、その建物自体を広場として広く人々に開放することに成功したのである。そのような発想は、都市の本質をしっかりと理解したものでなければ思いつかない提案であろう。そして、この広大なる屋上からのオスロ市の展望は素晴らしい。
 もう一つの特徴は、これがオスロの巨大再開発事業ビョルヴィカの最初のプロジェクトであるということだ。オペラがつくられた時は周辺の建物はまだまったくつくられていなかった。そういうこともあり、この建物はランドマークとして機能することが求められ、それに応えるために、ショート・ケーキを横に倒したような建物の形状は周辺の地形との調和を意識したし、屋根は水に導かれる絨毯のような役割を果たすことを意識した。
 また、それは、この再開発地区に人々の目を向けさせることや、地区イメージを改善させること、そして何より、これまで分断されていた市街地とウォーターフロントを再び繋ぐうえでのノットのような役割が期待されたのである。
 そして、オペラハウスは見事、その期待に応えている。それまでこの地区が有していたマイナスのイメージは徐々に改善され、むしろオスロ市内でも魅力溢れる場所へと化している。オペラハウスの周辺では、現在(2017年8月)、ムンク美術館、国立図書館、ショッピング・コンプレックスなどが建設中である。これらとオペラハウスとの相乗効果によって、オペラハウスの周辺地区はさらに魅力を向上させていくであろう。素晴らしい「都市の鍼治療」事例であると考えられる。

【参考文献】
Snøhettaの会社概要

【取材協力】
Mariaane Saetre氏 (Snøhetta)

類似事例:

019 針金オペラ座
316 エルプフィルハーモニー
・ エルプフィルハーモニー、ハンブルク(ドイツ)
・ オペラ・バスティーユ、パリ(フランス)
・ ガルニエ宮、パリ(フランス)
・ アマゾナス劇場、マナウス(ブラジル)
・ ウィーン国立歌劇場、ウィーン(オーストリア)
・ オペラハウス、シドニー(オーストラリア)
・ メトロポリタン歌劇場、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)