108 オルヴィエートのスローシティ運動 (イタリア共和国)

108 オルヴィエートのスローシティ運動

108 オルヴィエートのスローシティ運動
108 オルヴィエートのスローシティ運動
108 オルヴィエートのスローシティ運動

108 オルヴィエートのスローシティ運動
108 オルヴィエートのスローシティ運動
108 オルヴィエートのスローシティ運動

ストーリー:

 オルヴィエートはローマとフィレンツェの中間にある人口2万人ほどのウンブリア州にある町だ。フィレンツェからインターシティの列車で行くと、2時間ちょっとの距離にある。オルヴィエートは1999年にスローシティ連合ができた時、当時の市長が初代会長になったことで、スローシティとしてもその名を知られることになる。初代会長となったチミッキ市長は「人間サイズの、人間らしい暮らしのリズムが残る小さな町」とオルヴィエートを形容した。
 オルヴィエートは太古の火山活動による大爆発によって生まれた円錐形の断崖の上に立つ町である。したがって、そのアクセスは難しい。東の鉄道駅からはケーブルカーによって、西には600台収容可能な巨大な駐車場が崖下に整備され、そこからは地下を通るエスカレーターによって崖の上にある町と繋がっている。もちろん、崖を這うようにしてつくられた道路もあり、自動車で来られない訳ではないが、観光バスなどは崖下の駐車場に停まらせられ、町中に入ることはできない。そもそも地理的条件からして、オルヴィエートは早さや効率性といったグローバル社会が求める条件にあまり合致しなかったのである。そして、オリヴィエートは白ワインの産地として有名である。ワインを飲むという行為は、リラックスして人生を楽しむことである。ゆっくりと飲んで楽しむ方が望ましい。
 このような条件もあり、早さは効率性へのアンチテーゼとして、スローシティという新しい街づくりコンセプトをグレーヴェ・イン・キアンティの市長などと手を組んでオルヴィエートは掲げたのである。そのコンセプトとは、グローバリゼーションを逆手に取って、町を犠牲にすることなく、その町のアイデンティティとコミュニティ・スピリッツを維持させることである。このような考えが出てきた背景には、それ以前から起きていたスローフード運動の成功があった。そして、今、オルヴィエートはスローシティとして、安らぎと美味しいワインを求めた観光客を集めるようになっている。
 そして、このスローシティは多くの賛同者を集めている。2008年の時点でのデータでは、スローシティ連合にはイタリアでは57、世界では11ヶ国におよぶ104の町が加盟している。

キーワード:

スローシティ, スローフード, アグリツーリズム

オルヴィエートのスローシティ運動 の基本情報:

  • 国/地域:イタリア共和国
  • 州/県:ウンブリア州
  • 市町村:オルヴィエート
  • 事業主体:スローシティ協会、オルヴィエート市
  • 事業主体の分類:自治体 その他
  • デザイナー、プランナー:Giuseppe Mengomi
  • 開業年:1999年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 グローバル化が進んで行く中、そのしわ寄せを受けるのは地方都市である。効率性やスピードが要求される状況下では、第一次産業は厳しい戦いを強いられることになる。なぜなら、植物や家畜などは生命リズムの中で成長していくからである。結果、世界中で第一次産業を主体とする地方部は人口が縮小し、衰退をしていった。
 そのようなトレンドに真っ向から対立し、しかも、地方部の方が大都市よりも優れた資質を有していると主張して21世紀を迎えた頃から活動を展開してきたのが、イタリアのオルヴィエートを発祥とするスローシティ運動であった。地方部の方が大都市よりも優れている資質として同運動が提示したのは、スローであるということであった。これはグローバリゼーションに対する強烈なアンチテーゼである。ゆっくりをマイナスではなくプラスの価値としてスローシティは捉えている。ゆっくりの方が、町独自のアイデンティティを醸成することができるし、また地方文化を育成することができる。そして、「ゆっくりの方が地域経済を豊かにさせる」(cittaslowのパンフレットから)ことができると主張する。ただ、ゆっくりと言うことは昔に戻るわけでは決してない。その点については誤解しないよう、スローシティのパンフレットなども強く主張している。
 グローバリゼーションが促す地域間競争によって地方は疲弊させられていく。これはイタリアの地方都市だけではなく、日本の地方都市も同様である。そして、そのようなトレンドの中、多くの日本の地方都市は人口が減少し、活力を失っている。オルヴィエートは人口が2万人とはとても思えないほど個店が多く存在し、それで生活を回していくことができている。そして、このスローシティの街づくりをすることで、ほとんどお金はいらない。それは、グローバリゼーション下で、自らが置かれた立ち位置の解釈を変えただけのことである。頓知に溢れたアプローチは、まさに「都市の鍼治療」にふさわしい事例であると思われる。

【参考資料】『スローシティ』島村菜津

類似事例:

017 デービス・ファーマーズ・マーケット
301 伝泊
・ グレーヴェ・イン・キアンティのスローシティ運動、グレーヴェ・イン・キアンティ(トスカーナ州、イタリア)
・ カムバック・サーモン政策、飯田市(長野県)
・ ユニオン・スクエアのファーマーズ・マーケット、ニューヨーク・シティ(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)