079 自由が丘の九品仏川緑道のベンチ (日本)

079 自由が丘の九品仏川緑道のベンチ

079 自由が丘の九品仏川緑道のベンチ
079 自由が丘の九品仏川緑道のベンチ
079 自由が丘の九品仏川緑道のベンチ

079 自由が丘の九品仏川緑道のベンチ
079 自由が丘の九品仏川緑道のベンチ
079 自由が丘の九品仏川緑道のベンチ

ストーリー:

 自由が丘駅の南にある九品仏川緑道は、中央の九品仏川遊歩道と両側の車道とからなる幅11メートルの道路である。この遊歩道には多くのベンチが置かれ、桜の木などの街路樹とともに、アメニティの質の高い都市空間をつくりだしている。休日ともなれば、多くの人がこのベンチに座り、日本の都市ではめずらしい豊かな公共空間として機能している。
 しかし、この空間は一朝一夕でできたものではない。1994年に街路舗装、街路灯、街具等を設置し、南口の緑道舗装が完成した。同年、目黒区が「自由ヶ丘南口地区計画」を決定する。この次期を境に、自由ヶ丘への来街者が増え始め、ファッション性の高い個店が集積し始め、さらにスイーツの店舗がクラスター化し始める。そこで、遊歩道もより人々に使いやすい空間へと転換させることが求められた。具体的には、住宅地との調和を考慮した、ショッピング、散策にあった遊歩道として整備し、さらに自由が丘アート化構想の一環として「屋外彫刻ギャラリー」の役割も持つ「緑陰ショッピング・プロムナード」とすることにした。
 そのプロムナードを実現するうえでの1つの課題として、遊歩道における放置自転車の問題があった。地主や地元の商店主たちは2004年頃から、その対策として1脚3万円のベンチを実験的に置き始めた。2006年には商業施設トレインチが大井町線の操車場跡地につくられたが、それに隣接して、駐輪施設がつくられた。これを契機に緑道は違法駐輪禁止区域に指定され、商店会の人々は、本格的にベンチとプランターを遊歩道に置くことで駐輪対策とした。東急東横線のガードを挟み、西側の商業施設トレインチと東側の集客施設スイーツフォレスト(2003年開業)をアンカーとする、ほぼ300メートルの長さに及ぶ区間にベンチとプランター置かれることになった。その結果、放置自転車はなくなった。2016年の現在も、この緑道に駐輪している自転車は一台もない。
 地元の人たちは、緑道の掃除をし、ゴミの管理などをもして、緑道環境の維持に努めていたが、そうすると世田谷区も目黒区も関与して協力するようになる。そして、ベンチやプランターを区に寄付をすれば、その後の維持管理は区側がするという提案を受け、現在ではこれらの管理は行政が行っている。
(参考文献:『コミュニティ・マート構想モデル事業の実現化プロセスの研究』)

キーワード:

ベンチ,オープン・スペース,市民参加

自由が丘の九品仏川緑道のベンチ の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:東京都
  • 市町村:目黒区・世田谷区
  • 事業主体:自由が丘商店街振興組合
  • 事業主体の分類:民間
  • デザイナー、プランナー:石川忠
  • 開業年:2004年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 私事で恐縮だが、中学時代に自由ヶ丘のそばに住んでいた。その時の自由ヶ丘のイメージはそれほど洗練されたものではなかった。ポルノ映画館などもあり、怖そうなおじさん達がたむろしている飲み屋街などもあり、三省堂のある東急プラザやモンブランなどの洋菓子屋、そして幾つかあるフランス料理屋、そして「オカジュー」という洒脱なニックネームがちょっとお洒落感を演出しているだけのような印象であった。
 それから30年経って自由ヶ丘は大きく変貌した。1998年にモンサンクレールが開店したのをきっかけに、多くの洋菓子店が立地していき、スイーツのメッカとして日本中に知られるようになった。特に洗練されたお洒落な自由が丘のシンボルとして知られているのが、九品仏川緑道である。アパレルやレストランなどが集積し、しかも緑道の木々を見るため、そして、それらを反射させるためにほとんどの建物が大きなガラス面のファサードにしている。この歩道の実施設計に携わった建築家の石川忠氏は、景観条例などがなくても、緑道をしっかりとつくったら勝手に建物のファサードが綺麗になっていった、と言う。
 日本の都市の公共空間は極めて貧弱である。特に、座る機会がないことが問題である。2010年10月5日にオーストラリア人の記者がジャパン・タイムスに「Standing up for the right to sit down in public.」という記事を自由が丘のベンチの話を取材して書く。「公共空間で座るための権利のために立つ」とでも訳せるような記事だ。
 それだけ、自由が丘の九品仏川緑道のベンチというのは日本では珍しい事例なのである。そして、その記事では、区民がしっかりと動いたことで行政も変化した、と書かれている。椅子を置くことで状況が大きく変わったのである。
 日本の行政は、それまで公共空間で座るという発想すらなかった。そのような状況を、ベンチを置いたことで大きく変え、そして自由が丘という街を、人々が住みたくなり、また買い物等で行きたくなるような街へと変貌させたのである。面白い街だと人が思うところは、頑張っている人たちがいるということをも知らしめる素場らしい「都市の鍼治療」事例である。
(取材協力:石川忠(2016年1月))

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