023 ランドシャフツ・パーク(ドイツ連邦共和国)

023 ランドシャフツ・パーク

023 ランドシャフツ・パーク
023 ランドシャフツ・パーク
023 ランドシャフツ・パーク

023 ランドシャフツ・パーク
023 ランドシャフツ・パーク
023 ランドシャフツ・パーク

ストーリー:

 ランドシャフツ・パークは英語に直すと、そのままランドスケープパークになる。ドイツはノルトライン・ヴェストファーレン州にあるデュースブルクの北部地区にあったティッセン社の製鉄所跡地を公園として再生した事例である。この製鉄所は1985年に操業を停止した後、周辺を汚染したまま放置されていた。これをデュースブルク市はIBA(国際建設展)エムシャーパークのプロジェクトとして位置づけ、その再生計画のコンセプト案をコンペにかけたのである。
 1990年、このコンペで選ばれたのは、ドイツ人のランドスケープ・アーキテクトであるピーター・ラッツである。ラッツは230ヘクタールという巨大な敷地を計画するにあたって、製鉄所の主要なる建造物を保存することにし、それを「地」としてポストモダンなランドスケープ・デザインを施した公園を整備した。溶鉱炉などの巨大なる産業遺産の周辺を埋めるかのように、植栽が施された。また、産業のために用いられた施設は、レクリエーションのために使われるという新たなる役割を担うことになった。
 1994年にこの公園は開園し、97年には溶鉱炉も開放され、99年にはビジター・センターが開業する。この公園をデザインするうえで重視された点は、訪れた人が環境と対話するということである。燃料庫は庭園に、ガスタンクはスキューバ・ダイビング用のプールに、コンクリートでつくられた巨大な壁はロック・クライミングの練習場に、そして製鉄所は劇場へと転用された。このような産業施設をレクリエーションのための用途へとラッツが転用したのは、ここで働いていた人が孫をここに連れてきた時に、自分が何をしていたのか、これらの産業施設はどのような働きをしていたのかを説明することを可能としたかったためである。すなわち公園を設計するうえで、ラッツが意識したのは、この場所の記憶を消し去るのではなく、たとえ用途が変わろうとも、それを次代へと引き継ぐことを可能とすることであった。
 重工業の産業遺産を活かして公園として再生するというこのランドシャフツ・パークのコンセプトは、当時は極めて斬新であり、その後のIBAエムシャーパークの他のプロジェクトに多大なる影響を及ぼしただけでなく、世界的に類似の課題を抱えている産業都市の再生の新しい方向性を呈示したと考えられる。

キーワード:

アイデンティティ,産業遺産,歴史保全,都市公園

ランドシャフツ・パークの基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ノルトライン・ヴェストファーレン州
  • 市町村:デュースブルク市
  • 事業主体:IBAエムシャーパーク(ノルドライン・ヴェストファーレン州、エムシャーパーク地方の自治体、民間企業等による協議体)
  • 事業主体の分類:その他
  • デザイナー、プランナー:ピーター・ラッツ(Peter Latz)
  • 開業年:1994

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ランドシャフツ・パークのような産業遺産を活かして公園にするというのは、リチャード・ハーグが1975年に手がけたシアトルのガス・ワークス・パークがあるが、ガス・ワークス・パークがどちらかというと公園の中のオブジェ的な位置づけをされているのに対し、このランドシャフツ・パークの産業施設は圧倒的なスケール感と存在感があり、また現在でも劇場やカフェ、イベント・スペース、プールなどとして活用している点が、立ち入り禁止としているガス・ワークス・パークとは大きく異なる点である。
 デュースブルクは疲弊するルール地方の中でも、産業構造の転換によるダメージを大きく受けた都市である。都市人口も縮小しており、都市には活力が乏しい。そのために、大きく新しい都市としてのアイデンティティを確保していくことが求められている。ただし、それだからといって過去と決別するという訳ではない。あくまでも未来は過去の延長線上へと繋がっている。たとえ、その時代には不要とはなったとしても、その都市の過去の栄光は、都市の記憶であり、現在の都市が存在している理由でもあるのだ。なぜ、このようなことを敢えて書くかというと、日本の多くの産業都市ではこの点での意識が欠けていると思われるからである。特に夕張市のように世界遺産級の産業遺産を抱えていたにもかかわらず、拙速で短絡的なビジョン、その都市のアイデンティティを無視したかのような開発をしたことで、将来への道筋を暗転させてしまった事例などがあるからだ。産業構造の転換、それに伴う人口縮小という現象は厳しいものがある。しかし、その状況を転回させるような起死回生の施策はない。しっかりと都市・地方の資源を最大限に活用していく方策を検討することが結果的に近道なのではないか。デュースブルクのランドシャフツ・パークは都心から離れているにもかかわらず、年間70万人の集客を誇る。
 また、このような大規模事業がうまくいった要因の一つとして、ノルトライン・ヴェストファーレン州が未利用となった土地を自治体が使えるために、購入する基金を設けたことが挙げられる。ノルトライン・ヴェストファーレン州開発協会(Landesentweicklungsgesellschaft)は、1980年以降、4億4000万ユーロを土地購入に用いたのだが、これらの基金によって購入された土地を活用とした代表事例が、このデュースブルク市のランドシャフツ・パークなのである。衰退都市に活力をもたらす素晴らしい「都市の鍼治療」である。

類似事例:

001 ガス・ワークス・パーク
009 ツォルフェライン
013 ローウェル・ナショナル・ヒストリック・パーク
043 ラベット・パーク
057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園
071 稲米故事館
088 ジズコフ駅の再生プロジェクト
096 カルチャーセンター・ディーポ、ドルトムント
110 バリグイ公園
134 アカデミー・モント・セニス
144 センター・フォア・アルタナティブ・テクノロジー
194 テトラエーダー
209 ノルドシュテーン・パーク
217 ハルデ・ラインエルベ
317 ウッチのEC1科学・技術センター
・ハーバー・アイランド、ザーブルッケン(ドイツ)
・富岡製糸場、富岡市(群馬県)
・軍艦島、長崎市(長崎県)
・オルノスチール・ミュージアム、モントレイ(メキシコ)
・ドイツ鉱山博物館、ボーフム(ドイツ)