130 ヴァルカン地区再開発 (ノルウェー王国)

130 ヴァルカン地区再開発

130 ヴァルカン地区再開発
130 ヴァルカン地区再開発
130 ヴァルカン地区再開発

130 ヴァルカン地区再開発
130 ヴァルカン地区再開発
130 ヴァルカン地区再開発

ストーリー:

 オスロの北部にあるヴァルカン地区は19世紀頃にアーキャスエルヴァ川の西側に開発された工業地区であった。その後、1960年頃に工場は郊外部に移転し、この地区は塀で被われ、市民はここに入ることができないようになってしまった。跡地は雑草が生い茂り、オスロ市内でも最もイメージの悪い地区の一つとなってしまった。しかし、この地区は2004年にAspelin Ramm、Anthon B Nilsen Property Developersというデベロッパー会社によって、ほぼ100%民間主体でミックスドユース地区へと再開発され、オスロ市内でも有数のアーバニティ溢れる人気のスポットへと変貌している。
 計画時においては、開発コンセプトとして「創造都市」的な要素を多く盛り込むことになり、美術、デザイン、建築、テクノロジーなどを重要なキーワードとして位置づけた。そして、文化施設や創造型産業、教育施設、ホテル、オスロ市で最初の屋内型食料市場、住宅、オフィス、ダンス劇場、コンサート会場、スポーツ施設、それに様々な店舗やレストランなどが立地することになった。
 また、同地区はアーキャスエルヴァ川と同川に並行して走るMaridalsveien道路とに挟まれた斜面上にあり、道路と川との高低差は12メートルもあったために、その空間計画にはいろいろな課題も多かったが、逆に言えば、その高低差をうまく使うことでダイナミックな都市空間を創造することも可能となった。そのような条件を踏まえて、空間コンセプトとしては、それまで結ばれてなかったアーキャスエルヴァ川とMaridalsveien道路とを結ぶこととした。そのために道路側から川へと階段がつくられたのだが、この通路がつくりだすオープン・スペースはこの地区の空間をヒューマン・スケールに文節化させることに成功しており、この土地の魅力を向上させている。そして、デザイン・コンセプトとしては、その場所の歴史、アイデンティティを重視し、新しいものと古いものとが調和された空間をデザインすることが目指された。
 さらには地域暖房施設だけでなく、コジェネレーション・システムを導入するなどサステイナブルな都市開発を意識しており、エネルギー効率の高い街づくりが実践されている。具体的には、エネルギーの使用時間を多様化させるためのミックスドユース、さらには地域暖房やコジェネのエネルギー効率を高めるために高密度の開発が志向されている。現在、ホテルで使われる75%の熱量は再利用されているそうだ。
 ヴァルカン地区の開発面積は1.6ヘクタールで、建築面積は71,565㎡。合計180室数のホテル2棟、144戸の住宅、合計700人の学生を擁する学校が2校、650台の駐輪場、450台の駐車場、さらには53の電気自動車の充電場所が設置されている。

キーワード:

商業施設,ミックスドユース,市場,再開発

ヴァルカン地区再開発 の基本情報:

  • 国/地域:ノルウェー王国
  • 州/県:オスロ県
  • 市町村:オスロ市
  • 事業主体:Aspelin Ramm、Anthon B Nilsen Property Developers
  • 事業主体の分類:民間
  • デザイナー、プランナー:LPO Architects
  • 開業年:2004年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ヴァルカン地区の大きな特徴は、民間による開発であるということだ。そして、それはこの地区の目玉施設である屋内食料市場においても当てはまる。普通、屋内食料市場は市役所が所有して、管理している。築地市場は東京都が管理しているし、バルセロナにある40以上の屋内食料市場もバルセロナ市が管理している。しかし、このヴァルカン地区の屋内食料市場はここの開発会社が企画し、建設し、管理・運営もしている。そもそも、なぜ、屋内食料市場なのか。これに関しては、私の取材に対応してくれたAspelin Ramm社のマーケティング・ディレクターであるランドマーク氏は、「工場であった建物の形状をみて、屋内食料市場にぴったりだと思ったからだ」と回答した。そして、「ノルウェーは他国と違って、屋内食料市場が存在しない。すべて屋外市場で売られていた。したがって、こういう屋内食料市場があってもいいと思ったからだ」と続けた。
 このアイデアに対して計画当初は、マスコミなどは極めて否定的で、失敗は必至であると批判したそうである。しかし、実際開業したら、他に類似施設がないこともあって、人気を集め、さらにはこの屋内食料市場があることで総菜屋や食材を気にするレストランなども立地し、また料理学校や料理に関連するイベントなども開催したりしたことで、現在ではオスロ市内におけるガストロミーの一大拠点となっている。
 それ以外にも学校やホテル、住宅、オフィスなどがあるヴァルカン地区はミックスドユースの開発のメリットを大きく享受できるよう、省エネルギー化などを図っているし、ホテルのレストランの稼働率を高めるために、同地区のオフィスは社食を設置しないような指導を行っているそうである。ここにはパン屋もあり、夜遅くからパンを焼いているので他の機能などを考えると地区は24時間稼働している。
 Aspelin Ramm社の方に取材をして興味深かったことは、この開発をするうえで最重視したことが、アーキャスエルヴァ川と道路とを結ぶことであったのだが、そのためには現在、屋内食料市場となっている元工場の横の長い建物を分断しなくてはならなかったというエピソードである。この建物は歴史建築物であったために、一部の市民が倒壊することに反対したのだが、このアクセスを確保することがこのプロジェクトを成功するためには極めて重要であるということで、押し切ったそうだ。
「都市の中の都市」という再開発のコンセプトがあるが、ヴァルカン地区ほど、このコンセプトを具体化させたところはないのではないか。ノルウェーを代表する建築事務所スノヘッタのベテラン建築家に取材をした時、「ヴァルカンの開発がオスロで一番、優れているのではないか」とさえ指摘した見事なミックスドユースの成功事例である。

【取材協力】
Sverre Landmark(Aspelin Ramm社のマーケティング・ディレクター)

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