2010年12月 アーカイブ

工事中を魅せること 都市と工事現場

編集局 添田昌志

■典型的な工事現場の風景
都市には常に工事現場が存在する。ビルなどの建物自体は着工から2-3年で完成するものが多いため、工事現場というと「一時的なもの」というイメージが強いが、都市という視点で見ると、どこかに「常に」存在しているものなのである。
下図は東京・丸の内の工事中の場所を示したものである。丸の内は「丸ビル」の高層化を皮切りにこの十数年間、地域全体の再開発を進めていることもあって、街のどこかに少なからぬ工事現場が存在し続けていることがよく分かる。

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東京丸の内の工事現場の変遷(編集局作成)

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工事中を魅せること 韓亜由美氏インタビュー(1)

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韓(はん) 亜由美氏プロフィール
都市景建築家(Urban-scape Architect)
東京生まれ
東京芸術大学美術学部デザイン学科卒業
ミラノ工科大学建築学科留学
東京大学大学院学際情報学府修了
1991年 ステュディオ ハン デザイン設立

人がヒトとして人間らしく生きられる棲息環境としての「都市」,そこに誰もが主体的に享受できる豊かさの新しい価値をもとめ,パブリックスペースを対象にインテグレーティブなデザイン活動を展開する.空間的レイアウトや知覚的テクスチャーをデザインし、メディアにすることでモノや領域を超えて状況そのものを価値化し再定義することを意図している.土木構造物,走行空間,工事現場,コミュニティー再生などのアーバンスケープのプロジェクトに数多く携わる.
特に高速道路走行空間においては,’93東京湾横断道路(アクアライン)の計画段階から‘シークエンスデザイン’の概念を提唱し,継続して実践と多角的リサーチを行っている.現在は,実践と並行して,東京大学生産研究所 先端モビリティー研究センターにおいて交通工学/生態心理学/視覚情報学による科学的実証研究を進めている.

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「工事中景」実施時の新宿駅南口(2006年) photo: 吉永マサユキ

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現在の新宿駅南口の状況

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工事中を魅せること 韓亜由美氏インタビュー(2)

◇ 三越前・仮設歩道/覆工板をオリジナルで鋳造する 
 このあとの日本橋室町の仕事が事実上、「工事中景」を意識化する始まりになりました。三越前の地下道の拡幅整備工事があり、その間、地上部の仮設歩道となる覆工板という床板をオリジナルでデザインすることになりました。 

 場所は伝統ある商業地。景観に対する意識も高い老舗が軒を並べる日本橋室町。数年後の2004年秋に日本橋三越の新館と日本橋三井タワーの完成を控えているというタイミングでした。それなのに、もしもこの仮設歩道がいつも通り工事現場然として、雨が降ったら滑り止めゴムシートを長く敷き、コーンとトラロープで係員が誘導、というのではとても地元に受け入れてもらえないだろうと、管轄する国土交通省・東京国道事務所の所長さんが悩んでいらっしゃいました。デザイナーならどんなことが考えられるかと問われ、「それでは覆工板自体を室町オリジナルでデザインしませんか」と提案しました。

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オリジナルでデザインされた覆工板 photo: momoko japan

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工事中を魅せること 韓亜由美氏インタビュー(3)

◇ 眠れる資源「工事現場」の可能性 
 私はこのとき初めて「都市の中の工事現場というのは眠れる資源だな、生かさない手はない!」と思ったんです。なぜどの立場の人も例外無くみんなが喜んだのだろうかと考えました。工事現場の持つネガティブさは枚挙にいとまがない一方、不特定多数の人がどうしても目にし、接する場所であり、まさにパブリックスペースを長いこと占有している。みんな工事現場があるのは知っているけれども目を背ける。そこに何の価値も見いだせていないし、以前と同じ空間で同じ時間なのにもかかわらず、存在しないかのごとく塗りつぶされた状態です。それが、思わぬ形で大きな価値となって目の前に現れるので、誰も文句を言うどころか賞賛の嵐です。ネガティブから価値へ、そのギャップが非常に大きいからこそ、このようなことが起こる、ということに気がついたわけです。

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