2009年09月 アーカイブ

町の資源を生かすために 全編

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町の資源を生かすために 佐原の概要

編集局 添田昌志
 
 佐原は東京からは 70Km圏の千葉県の北東端に位置し、茨城県との県境に接したまちです。江戸後期に利根川水運による交通が開け、米やその他の商取引の集散地となり、交通・経済・文化の中心地として発展を続けました。しかし、時代が変わり昭和後期になると物流システムの変化のため、一時は「さわら砂漠」と呼ばれるほど町が衰退しました。

 ところが、平成に入ってから利根川支流の小野川沿いに、木造や蔵造りの町家などの伝統的建造物を生かした町並みが形成されるようになり、町に活気が蘇ってきています。

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町の資源を生かすために 田口一博氏インタビュー(1)

-佐原は現在では伝統的な町並みを生かした景観が特徴的ですが、これは最初からきちんと計画されたものだったのでしょうか。

◇ 古いものは恥ずかしい
 そうではありません。佐原は、蔵のまちといっても100%蔵のまちという訳ではありません。古い町並みの中に建替えてしまった家も混じっているし、町の中心になる忠敬橋のところには大きなビルが建っていたりします。実は、昭和30年から40年代にかけて、商売が繁盛していた家は「近代化」という声でコンクリートのビルなどに建替えたんです。当時はそれでこの町も明るく現代的になったと皆さん喜びました。一方、建替えをせずに古い木造のままだった家の人達は、それは恥ずかしいと思っていたんです。うちは暗くてイヤだな、住みづらいな、この時代にこんな家は嫌だなということだったんです。

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小野川沿いに立つコンクリートのビル

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町の資源を生かすために 田口一博氏インタビュー(2)

-古いものを生かした町並みを作ろうとなっても、現実には様々な障害があると思います。佐原はそれを工夫で乗り越えたと聞いていますが、具体的に教えてください。

◇ まちかど消火栓 ~住民の工夫と協力で局面を打開
 改修して使っていないところが開いて上手くいきだすと、次に課題として出てくるのが、壊しちゃったところをどうしようか、ということなんです。壊したところには、もう一回家を建てよう、お店を作ろうとなるんですが、その時にはコンクリート造のビルではなくて、佐原の町並みにあったものを作りたいんです。でも、例えば500平米なり、200平米なり、それを超えた大きな建物は木造で作れなくなるし、そもそも普通の木造でも耐火、簡易耐火にしないといけない、そうするとこの町並みは維持できないよね、と。どうしたらいいのか、と。じゃあ防火はずせばいいのね、と。でもタダでは外せない。ではどうするかとなりました。
(防火地域に関する詳しい解説はこちらをご覧ください)

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町の資源を生かすために 田口一博氏インタビュー(3)

― 佐原の大祭(毎年夏と秋の2回行われる。今年の秋の大祭は10/9~11に開催)も、昨今よく知られるようになりました。そのお祭りの背景について教えてください。

◇ 祭りは福利厚生
 佐原の大祭は神社に奉納するということだけから始まったお祭りではなくて、ある種の公共事業にもなっていたお祭りなんです。つまり、大きなお店をやっているところが、奉公人に飲んで食べて大騒ぎできる機会を作り、大きな山車を作って競わせたというのが、江戸時代中期以降からの一般的なかたちだと思います。福利厚生といいましょうかね。
 なので、景気が悪くなったり、飢饉が起こると、今の公共事業に当たるようなことはみんな大店がやっていたんです。天明の大飢饉の時に建った蔵などもそうですし、ごく最近までも、例えば、子どもがちょうど学校へ行くから、お金を稼がせてあげなければいけないから、仕事をつくって稼がせてあげるとか、大店の人たちはお金を使って地域を上手に回していかないと尊敬してもらえないような、そんなしくみで動いているようです。自分から言ったら品がないと、なかなかこういう話はしてくれないんですけれど、そういうまちの仕組みが根本にあります。

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秋の大祭の様子:小野川沿いの町並みを進む山車

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町の資源を生かすために 田口一博氏インタビュー(4)

― 佐原のこれからの課題について教えてください。

◇ 仕事を持って佐原に戻る
 今やろうとしていて、できつつあることは、一度佐原から出た子ども達が、仕事を持って戻ってくることです。佐原の場合、東京へ通うのはギリギリくらいの距離で、一回出て行ったらなかなか戻ってこなかったのが、地元で働く場所があれば、やはり戻ってくる訳です。今年は、イタリアで修行して腕を磨いて戻ってきて開業した、というのがあって、そういうような人たちが毎年少しずつ現れるようになってきているんです。子どもが帰ってくるのは親にとっては嬉しいようで、周りもそれで元気になっている。そこで商売が成り立って、お客さんが入って地元にお金が入る。このような仕組みが出来つつあります。

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現場での交流がまちづくりを促進する

編集局 大澤 昭彦

■ 外部評価を取り入れるということ
 個人にせよ都市にせよ、自らを客観的に評価することは難しい。外からの評価によって、はじめて自らの価値や問題点に気づくことが少なくない。

 その点、佐原は客観的な評価を意識的にまちづくりに取り込んできたまちである。田口氏が「どの団体も行事が終わると必ずレビューをやるんです。それもできるだけ外部の意見を取り入れて。やった、終わった、疲れた、じゃあ先に進まないんで。自分たちで独りよがりになったら絶対にだめだと。市もそういう考え方だし、商工会議所もそうですよね。」と述べているように、佐原では外部の視点を大切にし、実践してきた。

 もともと佐原のまちづくりの出発点は、外部評価をきっかけとしたものであった。視察に来た飛騨高山の人からの「この川(小野川)すごいですね、どうしてまちづくりに活かさないんですか」との一言で、はじめて自らのまちの価値に気づいたという。

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防火地域・準防火地域における伝統的街並み景観の保全

編集局 大澤昭彦

 防火地域・準防火地域とは、建築物の不燃化により、市街地における火災の延焼を防止することを目的とした制度である(都市計画法9条20項)。
 防火地域、準防火地域内においては、表1に示すような構造制限を受けることになり、木造建築物であってもモルタル塗り等により外壁の防火性能を確保する必要がある。つまり、例えば杉板張りなど、木の素材が直接表面に見えるような建物は認められない。よって、地域内においては伝統的な木造建築物の新築、建替えができず、歴史的な街並み景観の継承が難しくなるといった問題が生じている。

表1 防火地域の構造制限(建築基準法第61条、第62条)
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