あかりで何を照らすのか 角館政英氏インタビュー(2)

― なぜ銚子のような街路灯が多いのでしょうか。

◇ 実態にそぐわない基準
 そもそも光環境を設計するには、照度基準というのがあります。この基準を守らずに何か問題が生じた場合は、国の責任になってしまいます。だから、国の担当者は当然、照度基準を守るように指導するのが常識となる。ここで、日本の歩行者のための照度基準についてお話します。

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 上の図のように、商業地域の交通量の多いところ少ないところ、住宅地域の交通量の多いところと少ないところというように、交通量に比例して照度基準が設定されています。これは至極当たり前のように感じるのですが、実は大きな落とし穴があると思います。防犯性という視点から考えてみましょう。女性が道を歩いていて、いつが一番怖いのかというと、それは自分の家に帰る深夜でしょう。要するに住宅地の交通量の少ないところが一番怖いんですね。ところが、今までの基準ですと、住宅地の交通量の少ないところが一番暗くていいという感覚です。つまりこれは、矛盾しているんですよね。本来は、防犯性を基準に考えた場合、住宅地の交通量の少ないところを明るくして、人気の多いところはそんなに明るくする必要がないのではないかと考えられるのです。
 また、4つのカテゴリーにしか分けていないというのも大きな問題なんですよね。この分類だと、例えば、歌舞伎町も新宿も池袋も、銚子の駅前も、その地域では交通量の多い商店街というカテゴリーに入ってしまうのです。こういう事態が日本中で起こっているのです。


◇ 不安なところが「見える」こと
 そこで、街路空間の対人不安について調べるために照明実験を行いました。最初に行ったのは横浜の元町です。まず、50分の1の模型を作って、商店街の人たちにプレゼンテーションをしました。下の写真の左側は防犯灯が点灯している現状を模型で表したものです。そこで、現状に対して、道に対して凹んでいるところをきちんと認識できたほうが安心するのではないかという予想をたてました。それが例えば低い光だとしたら、更に空間としては良いのではないかと提案をしました(写真右上下)。

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左:防犯灯点灯時(路上のみ明るく照らされている)
右:門灯・ボイド照明点灯時(街路の輪郭が照らされている)

 この提案に理解が得られたので、実際に街でいろいろと実験をさせてもらいました。最初にやったのが街路灯。防犯灯を全部消して、道に対して凹んでいるところ、ここをボイドと呼んでいるのですが、そこにあかりを置くことによってどうなるのかということを調査しました。

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左:防犯灯主体の光環境(道路は明るいが、周辺部に暗がりが残り、街並みがよくわからない)
右:行灯による光環境実験(防犯灯の代わりに行灯を街路周辺部に配置すると街並みがよくわかる)

 すると、断然こちらの方が、安心感が増すという結果になったんです。条件はいくつかありますが、まず、見通しが良くなった、周りがよく見えるようになったといった項目がポンと上がりました。この実験から、空間に人が隠れているかもしれないと思うことが、実はとても不安になること、そして、この点をきちんと認識できれば、安心感に繋がるということがわかったのです。肝心なのは、ただ「明るい」ことではなく、不安なところが「見える」こと。建物同士の隙間など歩行者の死角となるところに光を置いて空間認知をしやすくしてあげる。そうすると、街並みがよく見えて安心な光となり、おのずと街の個性や魅力も出てくるのです。

資料提供:ぼんぼり光環境計画株式会社

次号は住民も参加した「光のまちづくり」の概要と意義についてお話を伺います。