あかりで何を照らすのか 角館政英氏インタビュー(3)

今月の東京生活ジャーナルでは、先月に引き続き「光のまちづくり」を取り上げます。角館氏が岩手県大野村や富山県八尾町で行った住民参加の光の実験の概要や、そのような取り組みを都市にも広げていく際の課題について伺っていきます。


― 住民も参加して光環境を整える「光のまちづくり」を多く手がけられているそうですが、その概要や住民が参加することの意義について教えてください。

◇ 安心・安全な光環境を求めて
 岩手県の大野村(現:洋野町)でも横浜・元町と同じような実験を基に街路灯整備を行いました。大野村では、まず夜間歩くことに対する住民の意識調査から始めました。その結果、人は歩行中、溝につまずかないかなどの路面の状態だけではなく、街路の周辺部に存在する奥まった空間に対して不安感やストレスを抱いていることが明らかになったのです。そこで、私たちは路面上の明るさを確保するよりも、街路周辺に点在する暗闇であったボイドの不安感やストレスを軽減させる光環境を導くための実験を行いました。ちょうちんや行灯を使ってボイドを照らすという手法で新しい光環境を創り出す実験を行い、不安やストレスの主な原因となる2つの項目について評価してもらったところ、横浜・元町での実験結果と同様にボイドに光があることで不安感が軽減することがわかりました。また、実験に合わせて光環境について住民アンケートを実施したところ、大半の人が明るい、歩きやすいと感じていることがわかりました。

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光の実大実験の様子

◇ 光の実験を通して気づくこと
 実験には、住民の方に参加してもらい、次の三つのことをお願いしました。一つ目は、実験をする際に電源を借りる。二つ目は、どこに設置するかを一緒に考えてもらう。学生が一軒一軒訪ねて、住民の方と一緒に、どこに付けたら一番効果的かといったようなことを考えてもらう。三つ目は、ここはちょっとポイントなのですが、この提灯というのは、100円ショップで買ってきた提灯で、いろいろな色や形があるんですね。それを住民の方に選んでもらったのです。その結果、ある人は、ポッと道に出て、あの人はあの提灯を選んだのねと物に反応をする。空間がわかる人は、ああ、うちの村ってこんなに雰囲気変わったわね、と気がつくんです。参加することによって、街の変化にも敏感になっていくようです。

  
◇ 官と民が協力して
 大野村では場所を変えて街路灯整備を2年かけて行いました。2年目には嬉しいことに官民協力して、建物の際までを共有空間としてみんなで整備をしていきましょうということになりました。下の図をご覧いただけるとわかると思いますが、従来は官民分離といって、私有地(民地)と公有地(道路)が分離されて考えられており、防犯灯は公共空間である道路上にしか設置できませんでした。ところが、官民協力することによってボイド部分に照明を設置できるようになったのです。今までは、防犯灯や街路灯というのは、公共の道路に限定された話だったのが、大野村では、そこを公共空間として考えていこうということになったのです。だから、照明も敷地から入り込んだところに建ったりしているんです。この光というのは、街並みの法則に従がって光が配置されているので、結果、街並みが非常に浮き立っている。ちょっと俗っぽい言いかたですと、街をライトアップしているという、そういう意味合いにもなるのですよね。これは、大好評でしたね。このときに、この街路灯整備のために集まった人たちが、そのまま「まちづくり委員会」というような名前に変えて、ずっと活動されているようです。
  
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左:官民分離時の公共空間 右:官民協力時の公共空間


◇ 暗くなって見えたもの
 富山県の八尾町でも、住民が参加して光の実験を行いました。ここでは、八尾住民にとって最適な安全性と防犯性を持った光によるまちづくりを提案しようとしました。実験期間中は、実験地域のすべての街路灯を消灯し、実験用に設置したあんどんや提灯、窓灯りによって街並みを美しく照らすことにしました。実験初日には多くの住民の方から、「暗い」という感想が漏れていたんですね。それまで煌々と道路が照らされていた状態に慣れていたわけですから、当然の反応です。しかし、実験3日目ごろには「町がよく見える」「あたたかい光で心が安らぐ」「夜も歩きたくなる」と言う感想が出始めたんです。実験の結果からも、30メートル間隔ぐらいに目印になるような灯りがあると、人は十分に安心して歩いていけるということがわかりました。

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井田川沿いの光景

 八尾町を横断する井田川の川沿いから見る光の風景を一番に喜んでいたのは、共に考えを巡らせた周辺住民の方たちでした。「星がよく見える」「やさしい感じがする」「立体感が生まれた」「町がよく見えるようになった」という意見も出てきました。こういった感想に表れる住民の意識は、日を追うごとに光への愛着へと変化していった気がします。それまで、光やまちづくりに距離を感じていた人、暗いという声を漏らしていた人たちが、実験に参加・協力することで、自分たちの町に対する意識が高くなったと実感しました。

資料提供:ぼんぼり光環境計画株式会社


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