あかりで何を照らすのか 角館政英氏インタビュー(4)

― このような街路整備を通して、見えてきたこともあると思います。

◇ 事例を積み上げること
 このような街路整備を進める中で、一番のポイントとなったのは、実験結果報告でした。僕のようなデザイナーがこういう風にやりましょうよと言うと、住民の方からは了解を得られやすい。ところが、役場はなかなかOKを出してくれないのです。言っていることはわかるけど、という段階で話が終わってしまうのです。それは、今まで仕様設計が当たり前だったので、僕たちがやろうとしている性能設計では客観的な指標がないからなのです。そういった時に、大学や学会の報告書が客観的なデータとして役場の人に非常に説得力を発揮してくれたのです。

 個人的には、やはり照明というものを考えるときに、性能設計に基づいた最小限の光環境を創ることによって、実は街が浮き立ってくるのではないかと思っているんです。
しかし、事例が今はあまりにも少ない。性能設計という事例が今は少ない。ですからこういう事例を、やはり誰かが作っていかない限り、日本の光環境というものが根底的に変わっていかない。そういう認識をしています。これはもう地道に事例を積み上げていくしかないなと思っているところですけれどね。性能設計の良い事例を、いかにわかりやすく作れるか、というのが、僕の課題だと思っています

― 性能設計に基づいた光環境を創ろうと考えられたきっかけは何だったのでしょうか。

◇ 身体的概念に基づいた光環境へ 
 単純な話なのですが、人が歩く時にどういう光が必要なのだろうとかと疑問に思ったのがきっかけです。通常、日本の公共空間の照明は一般的に、JISの照度基準などで示されている道路の水平面照度や路上の直面照度を確保することを念頭において計画されています。ところが、少ないカテゴリーで分類された照明基準では、空間のさまざまな状況に対応することができないという問題があるんです。そこで、本当に豊かな光環境とは何であるかという原点に立ち返り、「見える・見えない」「歩ける・歩けない」といった身体的概念に基づいた照明環境のあり方が構築される必要があるのではないかと思ったのです。

 ある特定の場所で、人がどんな行為をしているのかを把握すると、本当に必要な光が見えてくると思います。例えば平らな道を歩くならば、路面を明るくしなくても、今何処にいて何処に行くべきかというサイン的な光があれば問題なく歩行できますよね。JISや仕様書というのに基づいて計画をするのではなく、場所によって光環境はいろいろと変わってもいいのではないかと思ったことから、既存の街路灯に依存しない新たな光環境を形成していく活動に取り組み始めました。街路の夜間の性能を明確にした上で、最終的には光環境の実践へ結びつけていることに大きな意義があるのではないかと考えています。


― 既存の街路灯に依存しない新しい光環境を形成するために、今後どういった活動をしていこうと考えていらっしゃいますか。今後の展望と併せてお聞かせください。

◇ 画一的な手法からの脱却を目指して
 これまで様々な街において、実際に光環境をつくりながらその効果を把握する実験を行なってきました。こうした研究は、住民の参加なくしては不可能であり、研究の意図を深く理解してもらい、なおかつ自ら街につながる物を得てもらえるようにしなくては実現化できません。岩手県大野村では、今回の光環境整備事業が発端となり、住民によるまちづくり委員会が発足し、様々なイベントを開催したり、空き家や空き地利用の提案や整備を自主的におこなったりするようになりました。

 現在、「仕様設計から性能設計」への移行が求められていると思います。光は地域性を生かしやすい手法であるため、住民の方自身が選択できると共に、誰もが理解しやすい価値観や制度を確立していくことが必要になります。今後は、地域の人の活動に合わせた時間のオペレーションについても研究し、調査を重ねながら提案していきたいと考えています。街路の光は、マニュアルのみに従って計画していくことは難しい。今後、各方面での事例を蓄積していくことによって、日本独自の夜間の景観を構築できればと思っています。

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