丸の内の価値をはかる(1)マラソンランナーの視点-1

 2007年2月、東京マラソン。約3万人のランナーが東京中を駆け抜けた。
 42.195キロを走りながら都内の観光名所を巡るというユニークなコース設定は当初実現不可能と言われていたが、開催前からメディアの大きな注目を集め、厳密な時間調整による大幅な交通規制、多数のボランティアなど様々な人々の協力を得て最終的には大成功を収めた。
 東京マラソンは、この記念すべき第1回の成功を経て、ニューヨーク、ベルリン、ロンドンなど世界の都市マラソンの仲間入りを果たし、単なるスポーツの域を超えた新たな東京のイベントとして認められたと言えるだろう。
 私は運良く第一回東京マラソンの市民ランナーとして参加することができたのだが(図1)、ここで達成できた「走りながら東京を観察する」という貴重な体験を元に、ランナーというよりは都市の語り手としての立場から東京の魅力を解き明かしていきたい。
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図1:東京マラソンの風景(著者撮影)


■東京マラソン 演出された東京を眺める視点

 まず東京マラソンのコースを見てもらいたいのだが、世界の都市マラソンに比べると、いかに特殊であるかがよく分かる。
 ここではニューヨーク、ロンドン、ベルリンの事例を挙げているが(図2)、例えばニューヨークは幹線道路からマンハッタン島に入ってセントラルパークでゴール、ロンドンはテムズ川沿いを蛇行するなどそれぞれの都市の構造にあわせたコースになっている。
 その一方で東京マラソンは、都庁、東京タワー、浅草、お台場など東京の観光名所を半ば無理矢理直線で結んだような形(=Ⅹ文字型)でコースが形成されていることが一目で分かる。そもそも東京マラソンは東京オリンピック招致に向けたイベントでもあったので、東京という都市のプロパガンダの役割を果たすことを優先的に考えられており、X文字型のコースというのは、演出された東京を眺める視点を結んだ結果として浮かび上がったと考えられる。
 ならば、逆にこのコースを読み解くことで東京の価値を測ることができるのではないだろうか。ここでは特にX文字の中心付近である皇居とその周辺に着目し、そこにどのような価値があるのかについて語りたい。

図2:世界の都市マラソンコースの比較

(藤井亮介)
2006年 東京工業大学建築学専攻修士課程修了 
現在、坂倉建築研究所勤務