都心景観の再構築に向けたルールづくりとその運用 ~大丸有・銀座・御堂筋を例に~ その3

5.景観の再構築に向けて

大丸有地区と銀座地区では、地元組織が主体となって作成した地域ルールが存在する(大丸有地区:まちづくりガイドライン・デザインマニュアル、銀座地区:銀座デザインルール)。
両者の共通点は、1)高さ等の数値化できるものは明示していること、一方、2)デザインの質に関わるルールは必ずしも固定的なものではなく、むしろ運用を積み重ねながらブラッシュアップさせることを前提としていること、それゆえ、3)必ずしも質に関わる部分を客観的な数値基準として明示せず、方針的・定性的な基準(緩やかな指針)をベースに、事業者との協議を経ながら即地的な解を導き出そうと試みていること、の3点に集約できると思われる。

デザインの質に関わるルールを固定化しない理由は、どのような景観がよいのかは時代と共に変化するだけでなく、同時代であっても価値が一つに収斂することは稀であるためである。
したがって、大丸有地区は「まちづくりガイドライン」を時代に応じて柔軟に対応する「進化するガイドライン」と呼び、銀座地区は「銀座デザインルール」を完成形ではなく、個別協議の経験の積み重ねで成熟させていくものと位置付けているのである。

ginza-kyogi.jpg
銀座:デザイン協議によって計画が変更された事例:マツモトキヨシ、ユニクロ


景観の価値は、一義的に決まるものではない。人々の営為の結果として形作られた街並みに対して、人々が一定の価値を見出し、いわば集合的無意識として共有するイメージであるとも言えるだろう(「~らしさ」というイメージ)。
それゆえ、そのイメージを明示的なルールや言葉に置き換えることはそもそも難しい。景観の価値とは、個別の開発の積み重ねの結果として立ち現われてくる街の姿から、事後的に確認されるものであるのではないだろうか。

したがって、高さやボリュームのように量的な要素は基準として明確に示す一方、デザインの質についてはルールの客観性を重要視するのではなく、むしろ時代や場所の文脈に応じたデザインや提案を受け入られる弾力的な仕組みを用意しておくことが求められる。
このことは、デザインの質に関するルールが不要であることを意味しない。街の価値を共有し、その価値を保全・創造するためには、一定のルールが必要である。ただ、ここで言うルールが、いわゆる規制的なものではなく、建物をつくる際の作法や留意点といった大まかな方向性を示すものになるということである。つまり、解答を用意するのではなく、考える拠り所を提示するわけである。

ルールを固定化したものとして捉えないこととは、取りも直さず継続的な街づくりの必要性を意味する。ルールを運用、評価、改善するいわば持続的な街づくりの仕組みの構築に主眼を置くことの重要性をこれらの事例は示唆しているのである。