都心景観の再構築に向けたルールづくりとその運用 ~大丸有・銀座・御堂筋を例に~ その2

3.「硬いルール」と「柔らかいルール」の併用

それぞれの地区は3つのタイプに分類できるが、共通点も見られる。それは、地区計画等の都市計画による「硬いルール」と、ガイドライン・要綱等の法的拘束力のない(もしくは弱い)「柔らかいルール」を併用していることである。
前者はルールの実効性を担保できるというメリットがあり、後者は明示的なルール化が難しいデザインの質的な側面を扱うことができる。それぞれの利点を活かし、補完し合いながら、ルールを策定・運用している点が特徴と言えるだろう。

とはいえ、それぞれのルールの関係・役割分担の方法はそれぞれ少しずつ異なる。
例えば、地区計画(硬いルール)と地域ルール・要綱(柔らかいルール)との関係について見てみると、大丸有地区は、地区のマスタープラン及び地域ルールである「まちづくりガイドライン」や「デザインマニュアル」をベースに、その内容の一部を地区計画に移行している。

一方、銀座地区では、まず地区計画等の都市計画に基づく「銀座ルール」を地元と中央区が協働で策定し、数値基準のみでは誘導できない質の部分を補完するために「銀座デザインルール」を地元が策定している。
そして、御堂筋地区では、指導要綱に基づくルールが基本であるが、地区計画では指導要綱では規定されていない用途の制限を行っている(御堂筋にふさわしくない用途のネガティブチェック)。

つまり、大丸有地区では、地域ルールの一部を地区計画で担保するという流れであるのに対し、銀座地区では、地区計画でカバーできない部分を地域ルールで補っており、逆に、御堂筋地区は、指導要綱で規定していないが、街並み形成上必要な事項を地区計画で補完するという形を採っているのである。

4.ルールの特徴(高さや空地の考え方)

冒頭で述べたように、いずれの地区も市街地の更新が課題であったために、容積率の緩和を前提としているため、それまで形成されてきた「31m」から、新たな高さに基づくスカイラインへと変化しているが、高さの考え方は三者三様である。

大丸有地区では、まちづくりガイドラインにおいて、主に丸の内・有楽町西側エリアを街並み形成型と位置付け、31mの軒高ラインを表情線として残しながら、高層部の最高高さを100~200mとする低層部+高層部で構成されるビルディングタイプを選択した。高層部の高さも、皇居から外側にかけて徐々に高くなるすり鉢状のスカイラインとすることで、皇居周辺の景観にも配慮している。

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大丸有地区:31mの軒高ライン

銀座地区は、銀座ルール(地区計画)で、前面道路幅員に応じて高さ制限値を設定し、最大高さを56m(+屋上工作物の高さ10m)としている。つまり、銀座地区では31mラインにはこだわらず、新たなスカイラインの創出を選択したわけである。しかし、総合設計制度等の開発諸制度による高さ制限の緩和を認めていないため、大丸有地区と異なり超高層建築物を拒否している昭和通り以東では緩和は認められる)。

御堂筋地区では、1969年の容積地区導入に伴う絶対高さ制限撤廃後も、高さ31mによる軒線の保全を行っていたが、1994年の御堂筋沿道建築物のまちなみ誘導に関する指導要綱で、軒高50m(最高高さ60m)に緩和した。銀座と同様に新たなスカイラインの形成を図ることになったわけであるが、淀屋橋・本町周辺では最高高さ60mの制限を緩和し、都市再生特別地区を活用した超高層建築物の建設を容認している。ただし、超高層化にあたっても、軒線50mは遵守する必要がある。

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御堂筋地区: 左:31mライン、右:50mライン

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御堂筋地区:31mラインと50mラインが混在

一方、空地の考え方には共通する部分がある。
通常、容積率の緩和にあたっては、公開空地の確保が要件となることが少なくない(総合設計制度等)。しかし、この3地区では、いわゆる公開空地の確保ではなく、アトリウム等の屋内空地や歴史的建造物の保存を公開空地と見做して、容積率の緩和を行っているのである。
その理由としては、それぞれの地区では、もともと空地の少ない街区型の街並みが作られてきたことが挙げられる。また、オープンスペース敷地の真ん中に高層タワーを建設し、足元周りにオープンスペースを確保する「タワー・イン・ザ・パーク」型の建物が街並み形成に寄与してこなかったことへの反省も考えられる。
つまり、アトリウム等の屋内オープンスペースを確保する代わりに、一定程度のセットバックで歩行者空間を確保しつつ、軒線の揃った街区型建物を整備することで、連続した街並みをつくることが可能になるわけである。

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