まちの価値を維持していくこと イントロダクション

編集局 添田昌志

 2月、3月の東京生活ジャーナルは、1980~90年代に計画された東京近郊の住宅街を取り上げます。
 1960~70年代には、住宅不足への対応として、いわゆる「団地」型の開発が大量に行われました。しかし現在、その年代の開発については、住民の高齢化や建物の老朽化ともあいまって、様々な問題が噴出しています。例えば、効率的な供給を実現するため規格化された建物は、白い箱が並んでいるだけで単調と批判され、「近隣住区論」に基づき整備された団地内の近隣商業施設は衰退の一途をたどっています。
 一方で、80~90年代の開発では、上記の年代へのアンチテーゼとして「量より質」を謳い、建物やその周辺環境に様々な工夫が施されていることが特徴となっています。例えば、建物のデザインや住戸プランに特徴を持たせたり、住戸間のスペースにビオトープや共用庭を設けたりといったことが挙げられます。しかし今やそのような住宅街も開発から20~30年が経過しました。計画段階で特徴として取り上げられた様々な工夫は、現在、どのように維持管理されているのでしょうか。
 建物や街も老いていくのが必然です。歴史的に木造住宅に暮らしてきた日本人は、都市型の集合住宅を世代を超えて継承し、維持していくという経験を実はこれまでしたことがありません。つまり、大規模に開発された鉄筋コンクリート造の集合住宅群を良好な環境のまま維持するノウハウはほとんど蓄積されていないのです。開発型社会からストック型社会への転換が唱えられて久しいですが、そこで重要なのは200年持つハードとしての建物ではなく、住民を含めそれを維持管理していくソフトの取り組みにあると考えます。
 良好な住環境の維持のためには、何を考え、何を用意し、何を継続していかなければならないのか、まず今月は景観に配慮した住宅街として有名な、千葉県の「幕張ベイタウン」を通して考えてみたいと思います。