工事中を魅せること 韓亜由美氏インタビュー(1)

hanayumisan.jpg

韓(はん) 亜由美氏プロフィール
都市景建築家(Urban-scape Architect)
東京生まれ
東京芸術大学美術学部デザイン学科卒業
ミラノ工科大学建築学科留学
東京大学大学院学際情報学府修了
1991年 ステュディオ ハン デザイン設立

人がヒトとして人間らしく生きられる棲息環境としての「都市」,そこに誰もが主体的に享受できる豊かさの新しい価値をもとめ,パブリックスペースを対象にインテグレーティブなデザイン活動を展開する.空間的レイアウトや知覚的テクスチャーをデザインし、メディアにすることでモノや領域を超えて状況そのものを価値化し再定義することを意図している.土木構造物,走行空間,工事現場,コミュニティー再生などのアーバンスケープのプロジェクトに数多く携わる.
特に高速道路走行空間においては,’93東京湾横断道路(アクアライン)の計画段階から‘シークエンスデザイン’の概念を提唱し,継続して実践と多角的リサーチを行っている.現在は,実践と並行して,東京大学生産研究所 先端モビリティー研究センターにおいて交通工学/生態心理学/視覚情報学による科学的実証研究を進めている.

csd-1.jpg
「工事中景」実施時の新宿駅南口(2006年) photo: 吉永マサユキ

csd-2.jpg
現在の新宿駅南口の状況

― 韓さんが手がけられた「工事中景」、特に新宿駅南口地区整備事業の工事現場のデザイン「新宿サザンビート」は、強く印象に残るものでした。そもそも工事現場をデザインされるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

◇「沖縄なのに海に届かない」那覇市民のために
 最初のきっかけは沖縄の那覇の港湾施設です。施設を囲っている菱形金網の立ち入り防止柵があったのですが、それが撚れてしまってみすぼらしい状況でした。その向こうにはすごく広い港湾ヤードが広がっていて、はるか先の方には海が垣間見えていました。その港湾ヤードと道を挟んで反対側に、高松伸さんの国立組踊劇場がオープンするということになりました。その場所にこんなみすぼらしい柵があるのはまずいだろうと、那覇空港港湾事務所が何かいい案がないかと地元海洋系の建設関係者に話し、そこから相談され、以前から暖めていたアイデアを提案したのが最初です。2000年の暮れのことでした。

 現地を見てわかったことは、那覇の現実です。青い空に白い雲、どこまでも広がる海、という本州から見た「沖縄」のイメージは全くなく、アメリカ軍や港湾施設で海辺が覆われていて、市民は全然、海に届かない。数年前に何と人工海浜ができて、そこが唯一の海水浴場で「那覇市民が喜んで利用している」、という信じ難い現実があります。

 私はその事実を初めて知ってショックを受けたので、立ち入り防止のフェンスからできるだけ圧迫感をなくし、開放感があって海の風が感じられるようなものにしたいと思いました。そのために、透過性のあるアルミのパンチングメタルのパネルを使い、パネルとパネルの間隔も基準値の15センチぴったりに間隔をあけ、その表面には撮り下ろしの沖縄の風物の写真をイラストレーションに起こしたものを印刷しました。アートディレクションはタイクーングラフィックスにお願いし、イラストはヒロ杉山さんです。向こう側の風景が透けて見えつつ、パネルの絵も重層して見せることが目的です。全長150メートルほどの設置でしたが、実はここは人通りが少なく、見る人がほとんどいなかったんですね。劇場オープンに皇室の方が来て、その護衛の警察から「すごく見通しがいいし、人が隠れていてもわかるから、いいフェンスだね」と言われたくらいで(笑)このときは、市民からの直接のリアクションはこちらまで届きませんでした。

工事中を魅せること 韓亜由美氏インタビュー(2)を読む。