都市と花火大会

 今年も早や9月となった。まだまだ残暑が厳しいとは言え、季節は確実に秋へと向かっていっている。ところで、過ぎ去りし夏の日の思い出は?と問われれば、「花火大会」を挙げる人も多いのではないだろうか。今回はこの「花火大会」というものを通して都市の地理や景観について考察してみたい。

■都市のオープンスペース
 下図は、東京都と神奈川県で行われる花火大会の場所を示したものである。当然のことではあるが、花火大会を開催するには、安全の確保と10万人単位の人が観覧するという観点から非常に広い場所が要求される。それと同時に、これらの人々を捌くことのできる交通手段が確保されていなければならない。広い場所は必要だけれども、不便な場所ではダメで、適切な交通アクセスが求められる。その意味で、開催場所の分布はすなわち、「都市」におけるオープンスペースの分布を表しているといえる。この図を見ると、東京都では開催場所が、主に多摩川、荒川、隅田川、江戸川といった川沿いに分布している一方で、神奈川県では多くが海岸沿いに分布しており、それぞれの地理的特徴がよく表れている。東京では河川敷が唯一残されたパブリックオープンスペースとしての役割を担っていることが改めて捉えられるのだが、河川敷や海岸での花火大会は、都会では貴重な広い空を体感する機会を与えてくれるものとなっている。
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東京都の花火大会

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神奈川県の花火大会

■都市景観の非日常性
 一方、河川敷や海岸で催されるものとは一線を画した、都市ならではの情景を味わえる花火大会として「東京湾大華火」と「横浜国際花火大会」を取り上げたい。これらはいずれも、都心部の港湾地区で行われるものであるが、打ち上げられる花火の背景に都市のランドマークが眺められるという点に特色がある。観覧する場所によって見えるものは違えど、東京湾では、レインボーブリッジや東京タワー、汐留のビル群、横浜では、みなとみらい、赤レンガ倉庫、大桟橋といった日本を代表するランドマークを見ることができる。実際に観覧した私の友人は、花火の打ち上げを待っている間に眺める、これらのランドマークが夕暮れに映える姿は、格別にムードを盛り上げてくれるものであり、他では絶対に味わえないものだと言っていた。
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「東京湾大華火」の打ち上げ場所と観覧場所

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「横浜国際花火大会」の打ち上げ場所と観覧場所

 花火大会は今や夏のイベントとして完全に定着した感がある。この時、都市は何十万人という人を収容する一大劇場と化す。あくまでも、花火の背景あるいは前座なのかもしれないが、都市の景観が最も多くの人に注目される瞬間となる。都市景観が人々に非日常性を演出する瞬間である。体験する時間は短いけれど、永く思い出に残る瞬間でもある。この晴れやかな舞台に相応しい景色とはどうあるべきか、という視点で都市景観を考えることもきっと必要なことだ。

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横浜国際花火大会での1コマ

(添田昌志)