赤坂サカスよ、赤坂を咲かせ!

東京の新名所・赤坂サカス
 地下鉄赤坂駅からゆるやかな坂を上ったところに東京の新名所、赤坂サカスがある。ここの建物群は六本木ミッドタウンなどと比べ、いい意味で肩の力が抜けた大衆寄りな作りで心地よい感じを受ける。各建物内もなんだか領域がゆるくて歩きやすい印象である。周辺の街との関係も再開発にありがちな閉じた印象が薄く、料亭街の凋落によって衰退していた周囲の街並に、再開発の新しいエネルギーが素直に行き渡っているように見受けられる。ただ、オープン時の目玉であった100本の桜を擁するさくら坂は、並木の向こうに古びた民家の居間が丸見えという不自然な境界を作り出しており、顔であるに関わらず裏的な雰囲気が漂い、調整不足感が否めない点は少々残念ではある。
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赤坂Bizタワー内部

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Sacas広場につながる仲通り
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さくら坂から見える隣地の民家

放送局の「城下町」
 ところで、最近話題の再開発は、台場-フジ、汐留-日テレ、六本木ヒルズ-テレ朝など、放送局新社屋がセットになっていることが多い。今回歩いた赤坂サカスもそんな例に漏れずTBSとセットになっている。これらの再開発は皆、放送局を極とした各局の「城下町」を形成しているというのは少々穿った見方だろうか。最新情報を常に発信する放送局の役割と新しい街づくりの利害が一致し、各街のイメージ=各局の主義主張となっているようにすら見える。2010年のデジタル放送化で多チャンネル化するとそのような地域性の傾向はなお強まっていくかもしれない。
 それにしても、これらの放送局の足下には必ずといっていいほどイベント広場が設けられている。テレビという仮想空間の中から飛び出して観客と肌が触れ合うことのできるリアルな空間として、番宣も兼ねたメディアとしての効果が期待されているからなのであろうか。それ故サカスの特徴もイベント広場たるsacas広場に集約されているように感じた。
 ただ、リゾートであるお台場ならいざ知らず、放送局の番宣イベントを仕掛けて観光客の動員を狙ったところで、持つのはせいぜい1年ではなかろうか。六本木ヒルズはその建物の複雑さと元からある六本木の街の風潮がマッチし、周辺住民を常連客として定着させつつあるように、サカスはやはり赤坂の風潮にあわせた坂と広場の使い方が利用者の定着を図る勝負点となろう。
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Sacas広場の風景。TV局の番宣イベントが行われていた。

街ぐるみのインタラクティブなイベント
 実はこの広場は、広場空間としては珍しいくらい不利な立地となっている。坂上の行き止まりに設けられているが故に、広場からの見渡しはいいが、広場を見上げる通りからはその雰囲気が分かりにくく、広場に対する求心性は築かれにくい。また、TBS本社ビルのちょっと歪んだ形や赤坂Biz Towerの極めてシンプルなファサードなどに押され、広場自体は強い象徴性や軸性を持たない空間となっている。
 ここではその不利を逆手にとって、周囲のビルからの見下ろしに期待したい。この地の起伏を利用してなんぼである。六本木ヒルズのテレ朝前広場はすり鉢状になっており、イベントが見下ろせるので楽しそうな雰囲気が伝播しやすく、相乗的に人を呼び込む効果があり成功しているように思う。この赤坂も同様に、周囲を拠点とする人にとってなくてはならない栄養剤としてのイベントを行い、そこを見下ろす周りのビルの人々を呼び込むべきである。隣のビルには大手広告代理店だって入っている。彼等がこぞって行きたくなるようなイベントを打ってこそ、エンタメ主体の街に文化や特殊性が培われ、場所性を帯びた新しい価値が生まれるだろう。
 イベントだからといって、ステージとそれを眺める観客という固定的な形に束縛される必要性は全くない。道路境界や建物の内外、また再開発地区の内外に捕らわれることなく、360度の空間・都市的な関係にまで入り込めば、イベントは街ぐるみのインタラクティブな関係性を築くこともできよう。そして、その街ならではの価値を楽しむ人々(街のプレイヤー)を作り出すことで、さらには彼等を見たい人、彼等と共に参加したい人が街に賑わいをもたらすことになる。聞く所によると周辺の寿司屋を巻き込んだ食べ歩きイベントのようなものも開催されているらしく、その蕾みは開きかかっているようである。
 サカスとは赤坂に多い坂の複数形「坂s」と花を「咲かす」をかけたネーミングだそうだ。赤坂サカスとは自分が咲くのではなく、赤坂の街全体を咲かす!という宣言なのだとすると少々応援したくなってくる。
(川上正倫)