021 大横川の桜並木(東京都)

ウォーターフロント コミュニティ・デザイン 景観デザイン

墨田区と江東区を流れる運河、大横川。見事な桜並木を誇り、4月の開花時期には大勢の花見客で賑わう。この花見の季節には、土曜日と日曜日に地元商店街が「お江戸さくら祭り」を開催し、大横川には花見客を乗せた和船が行き来し、失われつつある江戸の下町情緒を感じさせる、ちょっとした地元の風物となっている。

大横川の桜並木の基本情報

都道府県
東京都
州/県
東京都
市町村
江東区
事業主体
江東区
事業主体の分類
自治体 
デザイナー、プランナー
坂口清実
開業年
1986

ストーリー

 墨田区と江東区を流れる運河、大横川。この大横川は隅田川と北十間川とを結んでいるが、その隅田川に近い門前仲町の周辺では、見事な桜並木を誇り、4月の開花時期には大勢の花見客で賑わう。この花見の季節には、土曜日と日曜日に地元商店街が「お江戸さくら祭り」を大横川に架かる石島橋の上で開催し、大横川には花見客を乗せた和船が行き来し、失われつつある江戸の下町情緒を感じさせる、ちょっとした地元の風物となっている。
 さて、しかし、この見事な桜並木がつくられたのは比較的最近で、それまでは誰もこの川に目を向けようともしなかった。それどころか、現在は片側だけではあるが、整備されている川沿いの歩道も当時はなく、大横川はコミュニティのプラスの資源というよりかは、むしろマイナスであるというような捉え方さえされていたという。
 そのような状況を大きく変えたのは1980年代。当時の江東区の土木職員達が奮闘したからである。特に土木部長であった坂口は、ここに桜並木を植えることで、ウォーターフロントが素晴らしくアメニティを向上させられると考えた。
 そこで、川沿いに桜並木を植えようと提案するが、川沿いの住民から反対の声が上がる。雨が降った後の桜の花びら、毛虫などが危惧されたのである。しかし、一軒の家がたまたま桜の木を植えていた。そこに目をつけ、その家の協力を得て、桜並木を植えること、また、歩道を河川沿いに設けることの合意を勝ち得ることになる。
 歩道の一般開放は、片側に関しては、上述したさくら祭りの時期以外は認められていないといった課題もあるが、それでも、忘れ去られたウォーターフロントにおいて桜並木という景観をつくりあげ、そこを一大名所にしようという気持ちを商店会や地元住民に持たせることに成功したこのプロジェクトは、このコミュニティの価値を大きく向上させたと考えられる。

地図

都市の鍼治療としてのポイント

4月の第一週、東京の江東区にある門前仲町は多くの花見客で賑わう。大横川のさくら祭りでは、和船に乗るために花見客は1時間以上、待つ場合も珍しくない。このお江戸さくら祭りが開催されるようになったのは2005年。以後、10年間続いており、知名度も開催当時に比べると随分とアップしている。
 せっかく美しい桜並木が川沿いにつくられたので、これをプロモーションすることと、商店街の活性化などを意図して、深川観光協会、NPO法人江東区の水辺に親しむ会、などが主催することになった。
 開催場所は、江東区が富岡と古石場を結ぶ橋を1992年にリニューアルした石島橋。この石島橋は、区の「うるおいの橋づくり」の一環として整備したものだが、高欄の中央部には膨らみを持たせ、人々が橋から川をゆっくりと眺められるような工夫をしている。
 祭りの当日は、この石島橋を車は通行禁止にして、商店会の名店が屋台を出す。深川めし、焼き鳥、江戸前寿司など、深川の商店街ならではの逸品であり、花見気分を盛り上げる。屋台以外でも大道芸がこの橋で繰り広げられ、手作り感のある個性的なお祭りとして地元の人達にも受け入れられている。
 地方自治体が、地域・コミュニティが活性化するための基盤整備をし、それをうまく活用しようと商店主、住民などが動き始めたという、街づくりの理想的な事例である。行政がしっかりとよい都市の舞台をつくることで、住民達が、いい演技をし始めた、という素晴らしい「都市の鍼治療」事例であると考察する。

類似事例

ポトマック川沿いの桜並木、ワシントンDC(アメリカ合衆国)
飯田市のりんご並木再整備、飯田市(長野県)
街路機能ごとに分類した並木整備、クリチバ市(ブラジル)
自生植物での植栽事業、ツーソン市(アメリカ合衆国)