319 アウグステンボリ団地の治水対策(スウェーデン王国)

319 アウグステンボリ団地の治水対策

319 アウグステンボリ団地の治水対策
319 アウグステンボリ団地の治水対策
319 アウグステンボリ団地の治水対策

319 アウグステンボリ団地の治水対策
319 アウグステンボリ団地の治水対策
319 アウグステンボリ団地の治水対策

ストーリー:

 アウグステンボリ団地は、マルメ市住宅公社によって1948年から1952年にかけて建設された住宅地区である。マルメ中央駅から南東に4キロメートルほどいった場所に位置し、その規模は33ヘクタール。1,800戸あり、約3,000人が居住している。開発当時は、地域暖房システムを導入するなど人気があったが、1970年代に大雨が降ると洪水により大きな被害を受けるようになった。そして、1980年代から1990年代にかけて住宅地としての人気を失い、多くの住民がここを去り、残った住民の失業率の数字は高くなり、また移民の割合も増えてきた。
 そのような状況を改善するために、洪水問題に対処することが検討された。1998年からマルメ市役所はエコシティ・アウグテンボリ・プロジェクトを始動し、この地区をハード面、ソフト面でも環境負荷の低い、サステイナブルなコミュニティとして改善することに取り組んだ。一番の課題は、排水システムをしっかりと整備し、大雨で洪水被害が生じないようにすることであった。そのために、排水溝の容積を大きくし、6キロメートルの水路を整備し、貯水池を10箇所つくるなどで雨水を受け止め、下水に流れるまでタメの時間をつくり、ある程度浄化もできるようにした。排水溝は水がゆっくりと流れるように球状の凸凹の突起を設けた。これは、住民参加の過程で出たアイデアで、形が玉ねぎに似ていることから“オニオン・ガッター”と呼ばれている。また、1998年以降に建てられた建物はすべて、そしてそれ以外のものでも新たに11,000㎡の屋上の緑化が進んでいる。これらによって、雨水がそのまま下水に流れ込まずに、屋上で数時間ほど貯水することができている。これらの新しい排水システムの導入によって、70%の雨水がすぐ下水道へと流れないようにしたのである。このような試みは高く評価され、2010年にワールド・ハビタット賞を受賞する。水害に脆弱であると住民が逃げ出すような団地が、今は逆にレジリエントで強くなったのである。実際、これらの工夫によって2007年に50年に一度と言われる大雨が降った時、マルメ市の多くの地区が浸水したにもかかわらず、アウグステンボリ団地は問題がなかった。2014年に大雨(6時間で降雨量10センチメートル)に襲われた時も、この団地はまったく水害の被害が生じなかった。今では、20年前の洪水被害が頻繁に起きる団地という否定的なイメージではなく、むしろ洪水に強い団地という肯定的なイメージが醸成されつつある。

キーワード:

サステイナブル,都市開発

アウグステンボリ団地の治水対策の基本情報:

  • 国/地域:スウェーデン王国
  • 州/県:スコーネ県
  • 市町村:マルメ市
  • 事業主体:マルメ市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:マルメ住宅公社
  • 開業年:1948年(団地の建設開始)、2001年(排水システムの始動)

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 マルメのアウグステンボリ団地はサステイナブル・コミュニティとして内外に知られている。日本語の記事でも結構、紹介されている。さて、しかし、最初からサステイナブル・コミュニティとしてつくられた訳ではない。むしろ、大雨が降ると水害が生じるといったサステイナブルではないコミュニティであった。そして、多くの住民が去り、団地は経済的にも社会的にも荒廃していく。
 それをどのように改善させるのか。その解が、団地をサステイナブルにするということであった。まさに団地として生き残るためにサステイナブルの道を取らざるを得なかったのである。ハード面ではいろいろと工夫をしてきたのは前述した通りであるが、ソフト面でも相当の工夫をした。住民参加を積極的に促し、結果、住民の5人に1人がこのプロジェクトのミーティングに参加した。また、地元の小学生にも参加してもらい、雨水がどのように流れるのかをインクを流すことで調べてもらった。このように丁寧な住民参加をしたことで、住民の排水問題への理解が深まり、このプロジェクトを進めるうえで多面的に協力をしてくれるようになった。オニオン・ガッターなどのアイデアもこの住民参加の過程で出てきたものである。サステイナブル・コミュニティはハード面がどんなにしっかりしていてもダメで、そこに住んでいる人々の意識が必要条件になるのだが、そのような問題意識を育むようなプロセスでプロジェクトを進めたところがこの成功の鍵であろう。
 アウグステンボリ団地の住民は100%賃貸である。そして、多くの住民が自動車を所有していないので駐車場のスペースを余り設けなくて済んでいる。駐車場はコンクリートで、保水能力が低いので、駐車場スペースが少ないことは排水面でもプラスである。マルメでは、多くの家庭が家庭菜園を持っているが、たいがい、結構、自宅から離れた場所に持っている。しかし、ここでは排水目的もあって団地内に家庭菜園をつくっているので、自宅の前に家庭菜園を持つことができている。屋上屋根を設けたことは、ヒートアイランドにも効果がある、生物多様性も担保できている。また、アウグステンボリ団地が洪水を生じないことで、マルメ市の他のエリアにも負担をかけない。限られた地区内の対策が、他のエリアに水害問題を起こさないことに通じ、市全体の災害対策にも繋がっている。
 このようにアウグステンボリ団地は、排水問題という「ツボ」をサステイナブルにすることを考えることで、さまざまな波及効果が他の生活の分野にも広がり、アメニティの高い団地をつくることに成功したのである。

【取材協力】
マルメ住宅公社MKB

【参考資料】
クライメート・アダプトのホームページ
https://climate-adapt.eea.europa.eu/en/metadata/case-studies/urban-storm-water-management-in-augustenborg-malmo
スマート・シティ・スウェーデンのホームページ
https://smartcitysweden.com/best-practice/329/augustenborg-turning-a-troubled-district-into-an-attractive-resilient-eco-city/

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