ウエスト・ポンドはデービス市の西端にある南北に長い池である。ここは市内最大の野生動物の生息場所になっており、カナダ・グースを始めとした多くの水鳥を観察することができる。野生動物を観察するためのフィールド・トリップの目的地として、ここは頻繁に周辺の生徒に利用される。池の東側には歩道も設けられており、その部分も含めると約13ヘクタールのちょっとした公園のような場所となっている。この歩道に沿って野生動物を観察するための幾つかの観察場所が設置されており、野生動物に関する情報が記述された看板も掲示されている。デービス市のグリーンベルトの一部となっており、市内をくまなくネットワークする自転車道路もこのウエスト・ポンドの東側を走っており、サイクリストは気持ちよさそうに、この池を見ながら疾走している。その住宅と自然環境を共存させるアプローチに、さすがアメリカを代表する環境都市デービス市だな、と訪れる人々は感心するであろう。
さて、しかし、農地であったところをデービス市が取得した1989年には、この池を野生動物の保護区域とすることは全く意図されていなかった。そこは、その周辺で大規模な住宅開発が計画されていたので、住宅開発に伴って増加する雨水処理の貯水池と機能することのみを念頭に整備されたものであった。
ウエスト・ポンドはデービス市が所有しており、その管理は公共事業局が担っていたのだが、1992年頃から、一部のデービス市民がその環境を改善するためにグループで活動するようになった。そして、このグループは市役所やこの住宅を開発したデベロッパーなどとも協働し、この何の変哲もないただの雨水処理の貯水池を野生動物が生息でき、またデービス市の上空を飛ぶ渡り鳥たちの休憩地として使えるような環境へと徐々に変容させていくことにした。ランドスケープのデザインは、地元のカリフォルニア大学デービス校のケリー・ドーソン教授のデザイン・スタジオの授業において設計された。
具体的には植物や水草がそこで育つようにし、また、人々の関心を高めるために歩道沿いに説明板がある展望台を設置するようにした。また、デービス市は全米を代表する自転車都市として知られているのだが、その自転車道路をウエスト・ポンドの東側に通すことにした。
現在ではウエスト・ポンドは、渡り鳥をはじめとした多くの野生動物の棲息環境を提供するだけでなく、それらを観察したり、その生態系を学習したりする機会をも提供している。また、その豊かな自然環境は周辺住民の憩いの場としても機能している。
210 ウエスト・ポンド(アメリカ合衆国)







ウエスト・ポンドはデービス市の西端にある南北に長い池である。市内最大の野生動物の生息場所になっており、カナダ・グースを始めとした多くの水鳥を観察することができる。つくられた当時はただの雨水処理の貯水池であったのだが、住民達が野生動物なども生息できる環境をそこに創造することを目的としたグループをつくり、市役所などと協働して、現在のウエスト・ポンドの生態系に優しい環境を実現させた。
ウエスト・ポンドの基本情報
- 国/地域
- アメリカ合衆国
- 州/県
- カリフォルニア州
- 市町村
- デービス市
- 事業主体
- フレンズ・オブ・ウエストポンド
- 事業主体の分類
- 市民団体
- デザイナー、プランナー
- Kerry Dawson、Jo Ellen Ryan、Gene Trapp
- 開業年
- 1992
ストーリー
地図
都市の鍼治療としてのポイント
ウエスト・ポンドは都市鍼治療で以前、紹介したサステイナブル・コミュニティの事例、ヴィレッジ・ホームスの北側に位置した野生動物の生息地である。
つくられた当時はただの雨水処理の貯水池であったのだが、住民達が野生動物なども生息できる環境をそこに創造することを目的としたグループをつくり、市役所などと協働して、現在のウエスト・ポンドの生態系に優しい環境を実現させた。「フレンズ・オブ・ウエスト・ポンド」と名乗る、このウエスト・ポンドの環境を改善するためのグループは完全なボランティアであり、また会費なども取らない。最初は20名ぐらいのメンバーであったが、その後メンバー数はどんどんと増えている(フェイスブックで繋がっている数だけでも現在、900を越えている)。ウエスト・ポンドが野生動物のサンクチュアリになった後も、その環境改善や維持管理の活動を継続的に行っており、2007年にはこのポンド沿いの歩道に魅力が不足していたために「ハチドリと蝶の庭」をつくった。芝刈りや排水施設の維持管理は、市役所が指名した業者が行っているが、雑草取りやごみ拾いなどはこの市民グループが行ったりしているそうだ。また、市役所は野生動物保護の専門家を雇っているが、彼のアドバイスを受けて活動を行っている。
ウエスト・ポンドは計画当初は雨水処理の貯水池であり、それはむしろ周辺の住民にとっては負の施設であった。それを、住民の力によって、野生動物が生息できるような環境へと改善し、現在では、自然溢れる憩いの場へと変貌している。そして、この住民達の熱意をしっかりと汲んで、それを支援する市役所も素晴らしい。アメリカ合衆国を代表する環境都市デービスの見事な「都市鍼治療」事例である。
【取材協力】
Friends of West Pondの代表Jo Ellen Ryan氏へのメール取材
【参考資料】
Jeff Loux and Robert Wolcott, Innovation in Community Design: The Davis Experience (February,1994)
https://theaggie.org/2017/01/16/the-west-pond-the-hidden-gem-of-davis/
つくられた当時はただの雨水処理の貯水池であったのだが、住民達が野生動物なども生息できる環境をそこに創造することを目的としたグループをつくり、市役所などと協働して、現在のウエスト・ポンドの生態系に優しい環境を実現させた。「フレンズ・オブ・ウエスト・ポンド」と名乗る、このウエスト・ポンドの環境を改善するためのグループは完全なボランティアであり、また会費なども取らない。最初は20名ぐらいのメンバーであったが、その後メンバー数はどんどんと増えている(フェイスブックで繋がっている数だけでも現在、900を越えている)。ウエスト・ポンドが野生動物のサンクチュアリになった後も、その環境改善や維持管理の活動を継続的に行っており、2007年にはこのポンド沿いの歩道に魅力が不足していたために「ハチドリと蝶の庭」をつくった。芝刈りや排水施設の維持管理は、市役所が指名した業者が行っているが、雑草取りやごみ拾いなどはこの市民グループが行ったりしているそうだ。また、市役所は野生動物保護の専門家を雇っているが、彼のアドバイスを受けて活動を行っている。
ウエスト・ポンドは計画当初は雨水処理の貯水池であり、それはむしろ周辺の住民にとっては負の施設であった。それを、住民の力によって、野生動物が生息できるような環境へと改善し、現在では、自然溢れる憩いの場へと変貌している。そして、この住民達の熱意をしっかりと汲んで、それを支援する市役所も素晴らしい。アメリカ合衆国を代表する環境都市デービスの見事な「都市鍼治療」事例である。
【取材協力】
Friends of West Pondの代表Jo Ellen Ryan氏へのメール取材
【参考資料】
Jeff Loux and Robert Wolcott, Innovation in Community Design: The Davis Experience (February,1994)
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