まちを作ること、人を育てること 貝島桃代氏インタビュー(1)

貝島桃代氏プロフィール

1991年 日本女子大学家政学部住居学科卒業
1992年 塚本由晴氏とアトリエ・ワン設立
1994年 東京工業大学大学院修士課程修了
2000年 東京工業大学大学院博士課程修了
2000-09年 筑波大学講師
現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授

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インタビュー風景

― 北本駅西口駅前広場の改修計画では、貝島研究室が関わって住民参加のまちづくりを進められています。貝島さんは建築家として多くの作品を作られていますが、まちづくりには単体の建築作品とは違った労力や時間がかかると思います。そのような住民参加のまちづくりにも参画しようと思われた背景について教えてください。

◇ キャンパス・リニューアルという実践の場
 私は筑波大学で、学生と一緒に「キャンパス・リニューアル」という学内の老朽化した建物や場所を改修するプロジェクトを10年ほどやってきました。そこでは、学内ではあるけれども、実際のまちづくりの場と同じような問題は起きる。教員、職員、学生など、立場の異なる人が環境改善のためにかかわるのですが、その恊働のフレームをどうつくるかが重要です。キャンパスを学生たちのアイデアで改修しようと、大学執行部の考えでプロジェクトがはじまったとしても、大学も縦割り社会です。当初は組織を超えたプロジェクトや横断的な議論をする仕組みはなく、学生もプロではないので、学内の環境に対して提案することには時間もかかり、そのための体制作りが重要な課題でした。けれども回数を重ねることに、プロジェクトに対する認識の共有や、プロセスも整理され、予算が限られている中で、一生懸命提案する学生たちとの活動を、すごく楽しんでくれるようになり、結果として今では、プロジェクトはとてもやりやすくなりました。学生のほうも、筑波大学の特徴として、学生が大学の周りに住んでいることから、学校の環境は、自分の縄張りだという、意識がある。こういったことからも、背景にあると思います。

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キャンパス・リニューアルの事例写真
左:ホスピタブル・イン・ホスピタル・プロジェクト(筑波大学付属病院)
右:ウォーターフロントプロジェクト

◇ 人をそだてる土壌
 その後「キャンパス・リニューアル」でやってきたことは、「アート&デザインプロデュース」という教育プログラムに展開しました。アートやデザインは一体どのように社会的に役立つのか、自分たちが自分たちのための表現をするのではなく、他の人たちのことをプロデュースする、つまり自分たちが脇役になるような、そういうやり方で何かできないかということです。そのために学生たちの3C力(コミュニケーション、コーディネーション、コラボレーションといった物事やそれに関わる人をプロデュースしていくのに重要な能力)を高めることを目的としています。

 北本のまちづくりを受けた背景には、キャンパス・リニューアルの蓄積と経験や、研究室でも水戸や金沢など調査や建物の改修計画にかかわっており、こうしたことがあったと思います。

筑波大学 特色ある大学教育支援プログラム(教育GP)『アート・デザイン教育による3C力の育成』 
2009年度の活動報告
2010年度の活動状況


― 現在の北本を取り巻く状況として、べッドタウンとしての機能が強かったこともあり、地域ネットワークが希薄になっていることや、高齢化などの課題が挙げられます。そのあたりの視点から、駅前広場の改修計画に込められている貝島さんの思いをお聞かせください。

◇ 社会構造の変化に対応する
 高度成長する東京のベッドタウンとして、人口増加した北本には団塊の世代が多く住んでいます。あたり前ですが、彼らの価値観は高度成長期の社会を背景としています。昭和50年につくられた現在の西口広場も、こうした高度成長期を支えてきた交通広場です。東京時間の広場といえるでしょう。

 けれども、35年後の現在、彼らは退職し、地域の高齢化率は高くなりました。駅前広場は東京に働く人を送り出すポンプとしての役割から、違った価値が求められているのではないでしょうか。地域の誇りを奮い立たせ、愛着を感じ、人々が情報を交換しながら集える広場です。社会構造が変わってしまったときに、あるべき広場を考えようとしています。

◇ 世代を超えたつながりを持つように
 こうしたなか、北本には、今まちに関わりたいと思っている若い人たちが集まってきています。東京で何かするよりは、地元で何かする。地域とつながることに関心を持っているのです。これは、新しい価値観ではないかと思います。

 私達の世代は、団塊世代とこうした若者世代の間にある世代といえるでしょう。今、関心があるのは、こうした世代をうまくつなげられないかということです。団塊の世代の人達には楽しく、健康に老後を過ごしてほしいし、若い人達には、彼らが感じている価値観をもとに色々なことに挑戦できる、寛容な社会になってほしいと思っています。

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