住まいの価値を考える

■アウトレットマンション
 昨秋以降の経済不況が高まって以来、雑誌に「マンション投売り」「マンション底値買い」などといった見出しが躍るようなった。マンションの販売不振により、多くの在庫を抱えた業者が、その整理のために他の業者に売れ残った住戸を半額程度で一括売却し、買い取った業者が経費や利益を上乗せした上で再販を行うという形態(買取再販)が現れ、格安物件が多く放出され始めているのだという。このような物件は「アウトレットマンション」と呼ばれ、大変な人気を集めているそうだ。従来価格に比べ○○%オフ、今が底値でお買い得、買わなくてどうしますか?という訳である。
 確かにモノの値段が安くなるということは、一消費者としては歓迎すべきことであるが、このような記事を読むと、果たして長年の生活の基盤となるべき住宅を買う基準が、割安感・お買い得感だけでいいのだろうかという違和感を素直に感じてしまう。この「アウトレット」という昨今流行の言葉も、まるで衣服や装飾品のように軽く購入するものというイメージを植えつけるために、販売側が意図的に使っているという気さえしてしまう。そもそも、2007年から2008年初頭にかけては、地価や建設資材の上昇によりマンション価格が従来ないくらいに高騰していたという背景を考えると、○○%オフとは言っても、その実態は2006年以前のある意味正常な価格に戻っただけと解釈するのが正しいだろう。ここは今一度冷静に住まいの価値とは何かについて考え直したいものである。

■住まい手の生活の質と不動産価値
 このような住宅の価格の話題が出る時にいつも感じるのは、その価格は実際の住まい手が生活している時に感じる快適さや価値と一致しているのだろうかという疑問である。例えば、中古マンションの価格算定の根拠になっている主な要因は、駅からの距離、築年数、階、面積である。しかし、これだけの要因でそこに住んだ時の快適さが表現されているとはとても思えない。私自身が住み替えのために中古マンションを探していた時の例で言えば、角部屋の3面採光なのか、中間の住戸で1面採光なのかということや、窓の外に緑の並木が見えるのか、隣の住棟が見えるのかというようなことで、価格に差がつくことは一切なかった。毎日の朝食を、朝日に輝く緑を眺めながら取るのか、隣の住戸の視線を気にしてカーテンをしたままの薄暗い部屋で取るのかというのでは、非常に大きな生活の質の差があると思うのだが、そのようなことは不動産価値とはご縁がないようである。
 上記は住戸内部の話であるが、周辺の街の環境についても同様のことが言える。生活者の視点で言えば、住まいとは街と一体なっているものであり、住宅を買うということは、その街の環境を買うということでもある。私達は、本年度「都市居住の価値を探る」という調査研究を行った。そこでは、東京都内の住民に自分が住んでいる街の「いい」「好き」と思う場所を自由に挙げてもらったのだが、非常に多く割合の人が、公園・緑地、川、神社・寺などといった地域のオープンスペースを回答した。そのような場所でくつろいだり、のびのびできたりすることが、生活の質を高めるものとして多くの人に共通して重視されていることが改めて示された。したがって、そのようなオープンスペースが豊かな街、また、そのようなところに安全に、簡単にアクセスできる街は、生活者の視点からは非常に価値が高いと言えるのだが、不動産価値としてはそこまで意味のある要因とはなり得ていない。周辺環境要因として多少の評価はされるものの、支配的な要因はやはり都心からの距離であったりする。

■生活快適指数
 そもそも、住宅はオフィスビルなどの収益物件とは役割が異なる。本来、そこで語られるべきは、生活者の感じる快適指数のようなものであって、不動産価値(転売したり、賃貸した時の価格)ではないはずである。この住まい(街)は生活快適指数が高いので不動産価値も高いのです、という構図であれば納得もできる。しかし上述した通り、現状では、不動産価値を高めることを追求しても、生活快適指数を高めることにはならないのである。
  欧米では、住まいに手を入れてより快適に住まえるようにすることにより、その価値が評価され、購入時より高く売れるという市場が成立していると聞く。築年数が長くなれば一律に価値が下がるというような現状の日本の不動産評価基準では、住まい手の、よりよくしようという意識も下がる一方であろう。そのような考えを改めるきっかけになるような、生活者側からの価値を測る総合的な生活快適指数を提案できないだろうか、前々からの私の課題である。

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「近くの広場でのびのび遊ぶことができる」「春に桜を眺めることができる」といった生活の潤いにあたる部分はなかなか不動産価値に反映されない。

(添田昌志)