都市のエントランス(1):国際空港

 海外旅行で訪れる都市の第一印象は、国際空港に到着した時の体験である。極端な話、飛行機のドアが開きそこの空気が機内に流れ込んできた瞬間に感じることもある。新しくなる前の北京国際空港では、到着して機外にでると中国の独特の(おそらく料理の)匂いがして、「我再来中国」と嗅覚が教えてくれる。これほど特徴的な体験はそうはないが、どこの国でもまず体験しなくてはならないのが通関の待ち行列である。

通関の出来
 国を訪れた人をどう迎えるのか、昨年相次いで訪れたモスクワとシンガポールは鮮明なコントラストを示していた。モスクワでは、渡航者全員を疑わしいとみなしているかの如く、強制収容所のような天井の低い薄暗い部屋に導かれる。そこで待たされる旅行者は、飛行機の長旅で疲れもあってどの顔も不機嫌そうである。官僚的で横柄な態度の係員は何をチェックしているのか、たっぷり時間をかける。うっかり横を向いていたりすると「真直ぐこちらを見ろ」と注意される。これでは、近代化・自由化を標榜するロシアのイメージは台無しである。一方、シンガポールの通関はこれとは対照的に、明るく開放的な空間で、係員もフレンドリーである。飛行機を降りるとすぐに免税店があるプロムナードに出るので出発する旅行者も居て活気がある。普通、通関のある場所では、セキュリティ上、写真撮影はできないが、ここは平気である。海外からの訪問者を潜在的な犯罪者と見るのか、大切な客人と見るかの違いである。
 
 わが成田空港の通関はどうであろうか。モスクワほどひどくはないが、シンガポールのような楽しい雰囲気はない。このほど始まった外国人に対する指紋検査は良い印象を与える訳がない。確かに通関の機能としての厳格さと雰囲気の良さは折り合えない部分はあるかもしれないが、空間のデザインやしつらえで改善が可能な部分は十分ある。今や観光は非常に大きな産業である。ある統計によると、2006年の観光産業の規模は、世界の国内総生産(GDP) の約10.3%に相当する4兆9638億ドルにもなるという。都市の、そしてその国の、エントランスである国際空港の出来が客の入りに影響しないわけがない。
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チャンギ国際空港の通関(シンガポール)
(大野隆造)