地下で見る都市の顔(2)

 しかし、何と言ってもモスクワの地下鉄の自慢は、モザイク絵画、装飾、照明、ステンドグラスが醸し出す落ち着いた雰囲気のインテリアである。この都市には地中深くに市民のための居間があるようにも見え、実際にここのベンチで待ち合わせをしている人も多い。殺風景な東京の地下鉄駅で待ち合わせをする人がどれほどいるだろう。
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モスクワ地下鉄の地下深くにある居間のようなインテリア
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モスクワのステンドグラスのある地下鉄フォームと東京の明るい地下鉄フォーム

 明るく機能的といえば聞こえはいいが、あまりに効率的な移動空間は気が休まらない。そればかりか、近年、隣接する駅のプラットフォームをつないで改札口を集中する改修が進められている。そのために、電車から降り立って、地上に出るまでに一旦、下階にある改札口まで降りなくてはならない場合があるようになった。火災等の緊急時に、地下から地上に避難しようと上りの階段を探すのが自然であるが、それが見つからないのである。私たちの研究でも、緊急避難時に下方への階段を使うよう指示された場合、かなり強い心理的な抵抗感を持つことが示され、いざという時の混乱が懸念される。ロンドンのキャナリー・ワーフ駅では、それが意図されたか不明だが、避難時に光に向かって行く人間心理と矛盾しない出口となっている。ちなみに、モスクワの深い地下鉄のエスカレータの底にはブースがあって、中年女性の監視員が行き交う乗降客を見守っていた。
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この地下鉄プラットフォームの案内サインの矢印は全て下向き
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複雑に連結された駅内空間(表参道)
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キャナリー・ワーフ駅(ノーマン・フォスター設計)-写真左
深い地下駅に導く長いエスカレータ(モスクワ)-写真右

(大野隆造)