かやぶきゴンジロウ

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キーワード:

コミュニティ・デザイン ,建築物保全 ,日本 ,鍼レベル 小

ストーリー:

 千葉県の安房半島の先端にある館山市。館山駅からちょっと行ったところに塩見の集落がある。この集落に、見事な茅葺き民家「ゴンジロウ」が存在する。茅葺きの家は、日本の農村の原風景の重要な構成要素である。しかし、それらは農村が近代化し、その文化が衰退していくのと並行するように田園風景から消えつつある。
 その、まさに田園の象徴のような茅葺き民家を再生するために動き出したのが、当時、千葉大学の教員であった岡部明子氏であった。彼女は、ある会合で偶然、館山市の老舗旅館の女将と知り合い、それが縁で館山市とつきあい始める。そして、その過程で、2011 年、館山市の塩見集落にあるこの民家のお世話を引き受けることになったのだ。
 まずは、大学の研究室のメンバーで雨漏りの対策をする。そして、茅葺き屋根の差し替えに取り組み始めた。茅の葺き替えは茅葺き古民家の修復と維持をするうえでの胆である。そのために、必要な茅をコミュニティ全体で生育・管理する「茅場」があり、葺き替えは集落の協働作業であった。そして、茅葺き屋根は継続的に差し芽をすることが必要であるのだが、塩見の集落では「茅場」はなくなり、葺き替え職人も少なく、そのために高額な費用がかかる。そこで、岡部研はワークショップを開催することで、その対応策を検討し、毎年1/6の茅を差し替えていくという作業を行うことにした。これは、一挙に屋根を差し替えるのは途方もない労力とお金も伴うからだ。しかし、その屋根のケアが地域を小さく回すきっかけとなった。ここをケアするという活動を通じて、地域の社会関係資本が復元されていっている。
 さらに、岡部研の研究室では、茅を探し、茅場を広げようともしている。茅刈りという営みを再現することで、屋根の材料を調達するだけでなく、茅という自然資本をケアし、茅場のある里山の風景のケアにも繋がっている。そして、茅葺きの家という人口資本もケアしている。さらに、大学の留学生もプロジェクトに組み合わせるなど、ここを拠点とした大学のネットワークも広がっている。
 このように自然資本、人工資本、社会関係資本という三種の資本のケアが、茅の輪によって循環系を成している。つまり、自然資本のケアが人工資本のケアを可能にさせ、それを担う人々の社会関係資本をケアしている。さらには、社会関係資本がケアされることで、人工資本や自然資本のケアが可能になるのだ(岡部明子『茅葺き民家を核にしたケアの連環』)。
 平成27年度ふるさとづくり大賞の団体表彰受賞。

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 岡部明子教授は「スーパーマクロな視点を持って、スーパーミクロな実践を行う」ことを念頭に、環境学的アプローチで、近代の計画学の限界を克服できるオルタナティブな空間環境デザインの理念を追求している。
 茅葺きゴンジロウは、まさにスーパーミクロな実践であるといえよう。ただし、このスーパーミクロなツボを押さえたような活動は、地域の経済を回転させるスローギアを入れることとなった。そして前述した3つの地域資本をケアすることで、緩やかにではあるがコミュニティは動き始めた。
「みんなで建物をケアしていくプロセスを通じて、その建物への愛着は深まり、コミュニティの核となる空間になっていく」と岡部氏は論文(同上)で書いている。
 「都市の鍼治療」の特別編として岡部氏に取材をさせてもらったが、彼女はこうも述べていた。「こういう活動をすることで、周りに経済活動が起き始めるということが重要だと思います。」
 地域コミュニティを再生することや、里山保全をするための政策誘導がいろいろと試みられているが、あまり成果は得られていない。しかし、茅葺きゴンジロウに関しては、コミュニティの人達が緩やかに参画することで、その保全がうまく行っただけではなく、コミュニティ自体も再び活力を取り戻すことができた。お役所的な上からの視点ではなく、地面についた視点を持つことで、新たなコミュニティ問題の糸筋が見えてきたし、そのような課題に取り組む人達には大きなヒントを与えてくれる極めて興味深い事例であると思われる。

【取材協力】岡部明子東京大学教授
【参考文献】「茅葺き民家を核にしたケアの連環」岡部明子

事業主体:

東京大学岡部明子研究室

事業主体の分類:

大学等教育機関

デザイナー、プランナー:

岡部明子(リノベーション)

開業年:

2011年

類似事例:

087 郡上八幡の空き家プロジェクト、郡上市(岐阜県)
079 自由が丘の九品仏川緑道のベンチ、目黒区・世田谷区(東京都)
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112 みつや交流亭、大阪市(大阪府)

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国:日本
州・県:千葉県
市町村:館山市