357 インヘーブ公園のクリマ・パークへの改修事業(デンマーク王国)

気候変動 地球温暖化 公園 治水

2011年の夏、コペンハーゲンは大雨による水害問題に見舞われた。特に、標高が低いヴェスタブロ地区には深刻な被害が生じ、被害額も膨大なものとなった。これは単発的な水害というよりも地球温暖化の影響が大きく、恒久的であると捉えたコペンハーゲン市は、この地区にあるインヘーブ公園を気候変動対策事業の一つとして位置づけ、水害対策も兼ねた公園としてリニューアルすることにした。ここでは治水機能、節水機能に加えて、貯えた水をレクリエーションにも活用し、公園の魅力を高めることに成功している。

インヘーブ公園のクリマ・パークへの改修事業の基本情報

国/地域
デンマーク王国
州/県
デンマーク首都地域
市町村
コペンハーゲン市
事業主体
コペンハーゲン市
事業主体の分類
自治体 
デザイナー、プランナー
トレーディア・ナチュール(Tredje Natur)
開業年
1929年(オリジナル)
再開業年
2019年(改修)

ストーリー

 インヘーブ公園はコペンハーゲンの都心部からすぐ西に位置するヴェスタブロ地区に1929年につくられた。太陽光、新鮮な空気、そして自然の緑をヴェスタブロの住民に提供するという福祉的な目的で整備され、当時、デンマークを代表する建築家であったアルネ・ヤコブソンがその一部を設計したことでも知られる。その面積は3.5ヘクタール。当時のコペンハーゲンの住宅は決して快適なものではなかったので、インヘーブ公園は住民の憩いの空間となった。そして、1950年代にはここは若者達が集い、コンサートなどのイベントを開催する人気の場所となった。しかし、それから徐々にこの公園の利用者は少なくなっていく。
 そのような中、2011年の夏、コペンハーゲンは大雨による水害問題が起きた。特に、標高が低いヴェスタブロ地区は深刻な被害が生じ、被害額も膨大なものとなった。これは単発的な水害というよりも地球温暖化の影響が大きく、恒久的であると捉えたコペンハーゲン市は、インヘーブ公園をコペンハーゲン市が展開している気候変動対策事業の一つとして位置づけ、水害対策も兼ねた公園としてリニューアルすることにした。リニューアル案は公開コンペをすることで募り、そのコンペで一等となった地元のランドスケープ事務所であるトレーディア・ナチュール(英語訳ではサード・ネイチャー)がその設計をすることになった。この事務所は気候変動に対応したランドスケープ・デザインやサステイナブルな都市デザインに特化している。設計に際しては、歴史ある公園のアイデンティティを次世代に継承しつつ、現在そして未来の気候変動に対応し、またヴェスタブロ地区の人々のニーズへと対応できることを意識した。2014年から改修工事が始まり、公園が再開園されたのは2019年12月である。
 インヘーブ公園は他の地区よりも低い場所に位置していたために、そこは大雨の際の水処理に適していた。そこで公園の周辺に降った雨が公園に流れ込むようにし、それらを公園内の植物や木の散水に使い、浄化したものは噴水の水として使うようにした。さらに道路清掃や市役所の公用車の洗浄などにも利用している。そして、余った水は公園の地下につくった貯水池で貯水するようにした。このような雨水利用によって、何百万リットルの地下水利用を節約することができている。
 通常の降雨では、周辺から公園に流れ込む水は2,000立方メートル(200万リットル)ぐらいであるが、貯水地が一杯になると、地上にある貯水スペースに水は流れるようになる。そこも一杯になると、公園を囲っている壁が全面的に閉鎖され、この壁の内側が巨大な貯水タンクと化す。最大で22,600立方メートル(2,260万リットル)の水を貯めることができる。
 貯水池の水がなくなった時は、排水路には水は流れず、また噴水も行われなくなる。あくまで、そのような水資源があるときにしか、リクリエーション用の水は使われないようにしているのである。

地図

都市の鍼治療としてのポイント

 地球温暖化の影響だろうか、各地で水害の被害が増えている。特に、デンマークなど平地が国土の多くを占めるような国では大雨による水害が深刻な問題となる。そのため、それら雨水をしっかりと貯水するための遊水池の整備や土壌への浸水を促すなどの工夫が昨今、積極的に展開されている。そして、そのような工夫を公共空間の整備と合わせてすることで、水害へのレジリエンスを高めると同時に、都市のアメニティも向上することが可能となる。
 このインヘーブ公園は、まさにそのようなプロジェクトである。その公園は、大雨時には巨大な貯水タンクとして機能するのだが、そうでない時は通常の公園として使われる。スケートボードを楽しめるリンクやバスケットボール・コート、フットサル・コートなどが設置され、屋外コンサートを楽しめるような屋外ステージもつくられている。バラ園などもあり、まさに老若男女が楽しめるような公園として機能している。
 22,600立方メートルという規模はなかなか大きいが、例えば日本の首都圏外郭放水路の67万立方メートルと比べると30分の1ぐらいである。しかし、後者は洪水防止のみを目的としており、通常時は空堀の状況であることを比べると、日常的の公園という機能が主で、水害時という機能が従であるという前者の方が、都市のインフラとしては遥かに価値を有するのではないだろうか。
 単に貯水池をつくるだけでなく、公園との複合機能をもたらせたところが、遊び心に溢れていてコペンハーゲンらしい。治水という機能をもたせるのと同時に、雨水利用によって節水をし、また、それらの水をレクリエーションに利用することで、公園の魅力をも付加させる。加えて、このような治水機能、節水機能の役割を公園が担うことで、この公園利用者が気候問題、水害問題、水資源問題について考えるきっかけを提供することにもなる。市民の環境問題意識を高めるような効果も期待できる。まさに一石三鳥といった見事なプロジェクトである。

【参考資料】
Tredje Naturのウェブサイト
https://www.tredjenatur.dk/en/portfolio/enghaveparken-climate-park/

コペンハーゲン市のウェブサイト
https://www.visitcopenhagen.com/copenhagen/planning/enghaveparken-gdk1122439

未来コトハジメのウェブサイト
https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/global/h_vol35/

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