京都府最南端に位置する和束町は、宇治茶の主産地として知られ、「茶源郷和束」と呼ばれるほどの広大な茶畑は京都府景観遺産に登録されている。湯船地区は和束町の最奥に位置し、京都府宇治田原町、滋賀県甲賀市と隣接している。和束町には鉄道駅はなく、唯一の公共交通機関である奈良交通バスも本数に制限がある等、移動の不便さが大きな問題となっている。ほとんど一人が車1台を所有している自動車社会であるが、和束町は高齢者率が49.8%と高くなっている。そして、高齢者は免許返納をしたり、物理的に運転が困難になってしまったりするとモビリティが著しく劣化する。これは和束町の最奥にある湯船地区ではより顕著であった。そこで湯船地区の交通の便を向上させる策として、和束町は独自の交通サービスを提供することになった。それが予約型乗合交通「茶源郷乗合交通WazCar(ワヅカー)」である。
茶源郷乗合交通WazCar(ワヅカー)とは、和束町内を走行する予約型乗合交通である。電話やスマートフォンから予約することで誰でも利用でき、決まった運行ルートを定めず、出発地と目的地の間を最適なルートで結ぶ予約型乗合交通として運行されている。
導入の背景としては、奈良交通バス和束木津線の利用者の減少と財政支出の増大、それらが原因でバス路線が短縮され、湯船地区が交通空白地域となったこと、住民からバス停と居住地が遠く利用しづらいとの声があったことがある。ワヅカーの導入によって、湯船地区において奈良交通バスの代替機能を果たし、交通空白地域の解消を目指すことを第一の目的とし、また奈良交通バスとの乗り継ぎを確保することで、バスの利用改善を図るものとされている。
ワヅカーは2022年9月30日から山城ヤサカ交通に運行委託する形で実証実験が開始された。その後2024年6月3日より、和束町・和束町社会福祉協議会・NPO法人Yubune・山城ヤサカ交通(株)で構成する「茶源郷和束交通運営協議会」の運営により本格運行が開始された。実証実験時、ワヅカーは一般乗用旅客自動車運送事業の乗合旅客運送にて運行を行っていたが、本格運行後は自家用有償旅客運送の交通空白地有償運行に移行がなされた。この運行種別の移行は、2023年4月1日に湯船地区が交通空白地になったことを受け検討されたもので、運行種別の移行により交通空白地の解消及び既存バス路線の利用拡大を図り、また予約型乗合交通を地域が主体となって運行することにより持続可能な地域内交通体系を構築することを目的としたものであった。
ワヅカーといった交通サービスのアイデアを提供したのは高山豊彦町会議員である。彼は和束町出身であり、国鉄に勤め、和束町を走る国鉄バスの運転手を務めていた。そして、国鉄が民営化した時に高槻市に転職し、そこで市営バスの運行計画などの仕事に携わる。高槻市も山間部を抱えており、公共交通をいかに効率よく提供するかは課題であった。このような経験があったために、和束町に議員として戻ってきた時、公共交通が著しく不便になっている湯船地区に対して何かしら行政的な対応を考えなくてはいけないと考えた。この経緯については、高山議員から詳しい情報を聞かせていただいたのでここに記したい。
当時の和束町では、奈良交通路線の利用者の減少が著しく年々増加する路線維持のための補助金が課題となり、2000年11月に和束町路線バス等対策協議会を立ち上げ対策の検討が行われた。高山議員は、住民から「路線バスのバス停まで遠くて、利用するのが大変」との声をよく聴いていたので、2019年6月の初議会以降、奈良交通のバス停まで距離のある地域からバス停まで利用できる地域交通の必要性を何度も訴えたが、なかなか実現できなかった。その理由を聞くと「地域公共交通会議で提案をしてもタクシー事業者等の理解が得られない」との回答が返ってきたため、2021年3月議会の一般質問で具体的にタクシー事業者との契約によるオンデマンド型乗合交通の提案をする。また、府道宇治木屋線(和束町~宇治田原町)犬打峠のトンネル化の計画が進む中、行政としても将来的な宇治方面への路線バスの希望もあり、町内に交通拠点となるターミナルを設置し路線バスと各地域との乗り換え施設を作ることも提案してきた。
その後、2021年4月から和束町路線バス等対策協議会の議会選出委員となり2022年1月に開催された令和3年度第1回会議において副会長に選任され、和束町地域公共交通会議の委員としても選任、これら会議において「奈良交通路線の再編に向けた地域協議を進めること」と「今後の地域交通政策としてデマンド型乗合交通の実証運行」を協議し、決定する。そして、担当課で準備が進められ2022年9月30日から山城ヤサカ交通株式会社への委託による実証実験がスタートし、「茶源郷乗合交通WazCar」として運行する中、奈良交通路線の再編に伴う湯船地区の交通体制について、再編により補助金が約2000万円削減されるため、削減分と500万円程度の負担することで湯船地区の利便性とその他町内の移動手段が確保されることが見えたので進めることを提案した。
2023年4月から奈良交通路線16kmの内6.5kmを廃止する再編が行われ湯船地区への運行が廃止となり、茶源郷乗合交通に移行した。この間、2023年3月の議会等においても、路線バスの廃止となる湯船地区の住民の意向を十分聞き住民の利便性の確保を最重要視しながら柔軟な対応で進めるよう要請した。2024年6月から和束町交通運営協議会(和束町・和束町社会福祉協議会・特定非営利活動法人Yubune・山城ヤサカ交通株式会社による自家用有償旅客運送(交通空白地有償運送)事業を開始し、日常の運営を特定非営利活動法人Yubuneが担っている。一方、府道宇治木屋線トンネル(鷲峰山トンネル)が本年2025年2月に開通し、町の新たな施設として役場に隣接する健康福祉交流センターが本年4月に供用開始し、8月から役場から宇治田原町へのWazCarの発着場として使用しており、将来的な交通拠点施設となることが期待できる。
町議会の議員はこの事業を支援している。反対する意見はない。むしろ、なぜ問題が認識されていたにも関わらず20年間も公共交通が進まなかったのか、という意見が多数である。町長は「公共交通がなくなれば地域もなくなる」という意識を有している。また、「お茶の産地」ということでアピールしているので、交流人口を増やしたい。しかし、交流人口を増やすためには公共交通機関が重要な役割を担う。
基本、ワヅカーは福祉事業である。そういった観点からみてもらうことが重要で、それは単純に公共交通事業として割り切って捉えられるようなものではない。これは、また公共交通事業は福祉事業でもあることを示唆している。
359 茶源郷乗合交通 WazCar(ワヅカー)(京都府)
京都府の最南端に位置する和束町の湯船地区では、深刻な交通不便に対応するため、独自の交通サービスとして、予約型の乗合交通「WazCar(ワヅカー)」が導入された。その背景には高齢者率49.8%の町で免許返納後の移動手段確保が課題となり、バス路線の縮小で交通空白が生じたことがある。2022年の実証から2024年に本格運行へ移行し、地域主導で支える持続的な交通網を目指している。
茶源郷乗合交通 WazCar(ワヅカー)の基本情報
- 都道府県
- 京都府
- 州/県
- 京都府
- 市町村
- 和束町
- 事業主体
- 和束町
- 事業主体の分類
- 自治体
- デザイナー、プランナー
- 高山豊彦
- 開業年
- 2024年
ストーリー
地図
都市の鍼治療としてのポイント
令和2年度国勢調査によると、和束町の人口は3,478(2023年4月1日)で、人口密度は47.4人/㎢、世帯数は1,379世帯である。1965年は6,556人であるから、それから60年近くでほぼ半分ほど減少したことになる。湯船地区の人口は263人で、人口密度は10.9人/㎢、世帯数は120世帯である。これまで人口・世帯数は一貫して減少傾向にあり、平成7年と比較すると人口は328人、世帯数は43世帯減少している。
65歳以上の人口は160人であり、湯船地区の高齢化比率は約60.8%である。京都府の高齢化比率は令和2年度で約28.5%、和束町全体での高齢化比率は約47.6%であり、湯船地区はどちらも大幅に上回っている。65歳以上の人口は年々増加傾向にあることに対して、14歳以下の年少人口は年々減少していることから、湯船地区においても少子高齢化が進行している。
去年(2023年)の和束町の自然増は4人。一方で自然減は73人。社会減も多く、その一つの要因は高校が町内にないことである。以前は木津高校しか公立の進学先はなかったが、現在は京都府全域に広がるので宇治市などの高校にも通えるようになっている。そうすると子どもだけが下宿するのではなく、家ごと和束町から宇治市などに引っ越してしまう。さらに、大きな要因は仕事場がない、職場がないことである。取材に応じてくれた町長の同級生も58人いたうち町に残ったのは7人ぐらい。農業を継いだ子だけが基本、残った。それ以外では兼業できるよう、例えば役場の仕事に就いた人。木津川、精華といった近隣にベッドタウンができたことも人口減に拍車をかけた。
一方で移住希望者は多い。2023年では80件の問い合わせがあった。2023年の社会減が100人ぐらいなので、問い合わせをしてくれた80世帯が移ってきてくれたらネットでは社会増になれる可能性がない訳ではない。ただし、その際のネックとなっているのは家がないことである。
前述したように、町長は「公共交通がなくなれば地域もなくなる」と考えている。これは、現在、町で暮らす人々の生活をしっかりと支えることに加え、社会減を減らすことにも繋がる。さらには移住希望者でまだ自動車を運転できない子ども達には、それがあることは大きなメリットになるであろう。
和束町のような公共交通の幹であるバスを補完するワヅカーのような試みは、同じような課題に直面する自治体への大きな参考になるのではと期待される。
【取材協力】
馬塲正美(京都府和束町長)
高山豊彦(和束町議会議員)
宮嶋靖典(和束町総務課)
宗健司(和束町湯船区長)
【参考資料】
中岡友里(2025) 『茶源郷乗合交通WazCarの現状分析』 龍谷大学政策学部卒業論文
65歳以上の人口は160人であり、湯船地区の高齢化比率は約60.8%である。京都府の高齢化比率は令和2年度で約28.5%、和束町全体での高齢化比率は約47.6%であり、湯船地区はどちらも大幅に上回っている。65歳以上の人口は年々増加傾向にあることに対して、14歳以下の年少人口は年々減少していることから、湯船地区においても少子高齢化が進行している。
去年(2023年)の和束町の自然増は4人。一方で自然減は73人。社会減も多く、その一つの要因は高校が町内にないことである。以前は木津高校しか公立の進学先はなかったが、現在は京都府全域に広がるので宇治市などの高校にも通えるようになっている。そうすると子どもだけが下宿するのではなく、家ごと和束町から宇治市などに引っ越してしまう。さらに、大きな要因は仕事場がない、職場がないことである。取材に応じてくれた町長の同級生も58人いたうち町に残ったのは7人ぐらい。農業を継いだ子だけが基本、残った。それ以外では兼業できるよう、例えば役場の仕事に就いた人。木津川、精華といった近隣にベッドタウンができたことも人口減に拍車をかけた。
一方で移住希望者は多い。2023年では80件の問い合わせがあった。2023年の社会減が100人ぐらいなので、問い合わせをしてくれた80世帯が移ってきてくれたらネットでは社会増になれる可能性がない訳ではない。ただし、その際のネックとなっているのは家がないことである。
前述したように、町長は「公共交通がなくなれば地域もなくなる」と考えている。これは、現在、町で暮らす人々の生活をしっかりと支えることに加え、社会減を減らすことにも繋がる。さらには移住希望者でまだ自動車を運転できない子ども達には、それがあることは大きなメリットになるであろう。
和束町のような公共交通の幹であるバスを補完するワヅカーのような試みは、同じような課題に直面する自治体への大きな参考になるのではと期待される。
【取材協力】
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