361 ウスタグロ屋上農園(デンマーク王国)

地域支援型農業 有機農業 屋上農園

ウスタグロはデンマークで最初の屋上農園である。自動車のオークション用の建物の屋上を農園とレストランへと改修した。有機野菜、有機果物、ハーブや食用の花卉などが育てられているほか、温室やミツバチの巣箱なども設置されている。市民もアクセスでき、年間2万人ほどが訪れる。都市農業、サステイナブルな教育、コミュニティ参加、そして食事といった多様な体験を都心部で行える極めてユニークな機会を提供している。

ウスタグロ屋上農園の基本情報

国/地域
デンマーク王国
州/県
デンマーク首都地域
市町村
コペンハーゲン市
事業主体
ウスタグロ(ØsterGro)
事業主体の分類
民間 
デザイナー、プランナー
Kristian Skaarup, Livia Urban Swart Haaland and Sofie Brincker
開業年
2014年

ストーリー

 ウスタグロはデンマークで最初の屋上農園である。それは、コペンハーゲンのネレマンフーセット(Nellemannhuset)地区にある自動車のオークション用の建物の屋上を農園とレストランへと改修した。その面積は600㎡メートルであり、そこでは有機野菜、有機果物、ハーブや食用の花卉などが育てられている。温室やミツバチの巣箱なども設置されている。
 ウスタグロの農作物はコミュニティ支援型農業(Community Supported Agriculture)によってつくられている。コミュニティ支援型農業とは、日本でも実施されているが、特定の消費者が、生産者と農産物の種類、生産量、価格、分配方法等について代金前払い契約を結ぶ農業の形態である。ウスタグロの屋上農園は2014年にクリスティアン・スカーラップ(Kristian Skaarup)、リヴィア・アーバン・スワート・ハアーランド(Livia Urban Swart Haaland)、ソフィア・ブリンカー(Sofie Brincker)の3名によって始められた。
 その目的は、都市内でサステイナブルでローカルな食料生産のシステムを構築することと、都市住民の生活圏内で有機的な農園を体験できる機会を提供することであった。この目的は最初の年に16人の地元住民が契約を結んだことで具体化した。それから会員が増え、現在(2025年)では会員数は40にまで増えていて、会員は新鮮な野菜、卵、蜂蜜などを6月から11月にかけて毎週受け取ることができる。ウスタグロの農園ではできない農作物(例えばジャガイモ)は、同じくデンマークで自家生産のオーガニック野菜を生産・販売しているステンスボルガード(Stensbølgård)と共同することで会員に提供している。
 ウスタグロの屋上農園を運営する彼女達は、そのインスピレーションはニューヨークのブルックリンにあるグランジ農場から得たので、オリジナルなアイデアではない。地球温暖化の抑止に力を入れているコペンハーゲン市から補助金を得ることができたのに加えて、建物のオーナーからも支援を受け、追い風のもと事業を起動させている。ウスタグロはローカルで食料を生産することに意義を見出しているが、それによって将来の都市が自給自足であるべきだとは考えていない。ただ、都市と農園との結び付きを強化させること、食べ物がどのようにつくられ生産されているかの知識をしっかりと得てもらうことを意図している。
 そういう点からは、ウスタグロは上記の知識を共有するプラットフォームであり、教育の場でもある。食欲は老若男女を問わない。美味しい料理があればそこに訪れてくれるので、コンクリート・ジャングルの中にポツンと緑のオアシスがあるかのような農園とレストランは、サステイナブルなライフスタイルの魅力を伝えるいい機会となる。
 ウスタグロは会員以外も訪問することができ、農園に隣接してレストランも開業している。このレストランはグロ・スピーセーリ(Gro Spiseri)といい、ここでの収穫物を中心としたメニューが提供されている。このレストランは春から秋までしか基本は開業していない(クリスマスは営業している)が、開業しているときは朝食、昼食、夕食を楽しめる。このレストランは定員が25名で、予約必須の人気レストランになっている。農作業は4月から11月中旬まで行う。火曜日はボランティア・デイで、誰でも農作業をすることができる。ボランティアはコペンハーゲンだけでなく、デンマーク中、いや、世界中からも来ている。
 ウスタグロは都市農業、サステイナブルな教育、コミュニティ参加、そして食事といった多様な体験を都心部で行える極めて貴重でユニークな機会を提供できている場なのである。

地図

都市の鍼治療としてのポイント

 ウスタグロはウスタグロ地区の外れにある。屋上の農園には急な螺旋階段を上っていく。4階建てであるが、コペンハーゲンは都心部でも高さ規制が厳しいのでちょっとした展望が得られる。
 農園に隣接しているグロ・スピーセーリはコペンハーゲンでは完全予約制の大人気のレストランであり、筆者も何回か袖にされた後、ようやく予約が取れて訪れることができた。このレストランは8人の従業員で回している。そのメニューは地元の有機農家でつくられた野菜や穀物、生態系に優しいデンマーク内の漁師や猟師によって採られた魚・肉などを使っている。この農園で採れるものも使っているが、それに拘っている訳ではない。筆者が食事をした時は、最初の一品は鯖で、スープやサラダのあとメイン・メニューはさつま揚げ的な魚料理であった。5品で12,000円相当だ。
 興味深いのは、一つの細長いテーブルにみなギュウギュウになって座るので、知らない同士のお客と話が弾むように仕掛けていることである。
 これを仕掛けたトリオは、2011年にブルックリン・グランジ農場を訪れ、それに感化される。そしてデンマークに戻ると屋上農園をさせてくれる自治体を探す。そして、現在の自動車オークションのビルを探し出す。屋上を含めて、すべての階で自動車を展示していたこの建物は構造的に結構の重量を支えることができる。この農園では90トンの土壌を使っているが、それでも建物はまったく問題ない。
 農園の土は、最下層に防根財を敷き、その上にリサイクル・プラスティックの層を敷く。これによって貯水することができる。その上には根が水まで張れるようなフェルトの層が敷かれ、土壌が敷かれる。これは大変、上手く言っているとスカーラップ氏は雑誌『Green』の取材で述べていた。
 この農園には年間で2万人ほどが訪れるそうである。多くの旅行雑誌やライフスタイル雑誌、ウェブサイトなどに紹介されている。
 スカーラップ氏達は、このような小さな土地に根付いたサステイナブルなプロジェクトを増やすことで気候変動への抑止になるのではと述べている。確かに、このような小さなプロジェクトの積み重ねが大きな社会のうねりを起こすのではないか。そのように感じさせるプロジェクトである。

【取材協力】
Jeanette Koustrup(Communication Manager)

【参考資料】
ウスタグロのホームページ
https://www.oestergro.dk

グリーン・マガジンのホームページ
https://greenmagazine.com.au/article/turning-point/

類似事例

オーエンス・ハーブ、コペンハーゲン(デンマーク)
ブルックリン・グランジ農場、ニューヨーク市(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
ガーデン・パッチ、バークレイ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
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トッドモーデン、ヨークシャー(イギリス)
コリングウッド・チルドレンズ・ファーム、メルボルン(オーストラリア)
イサカのエコビレッジ、イサカ(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
ソラドファームルミネ、杉並区(東京都)
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アーバン・ユース・ファーム、サンフランシスコ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)