298 バンカー・ヒル・ステップス(Bunker Hill Steps)(アメリカ合衆国)

公共空間 アクセス 階段 ローレンス・ハルプリン

バンカー・ヒル・ステップスはロスアンジェルスのダウンタウンとバンカー・ヒルとを結ぶ丘につくられた階段。休憩用のテラスが幾つか設置されており、小さなカフェなども置かれていて、この階段を単なる移動空間ではなく、賑わいのある公共的な空間として演出している。

バンカー・ヒル・ステップス(Bunker Hill Steps)の基本情報

国/地域
アメリカ合衆国
州/県
カリフォルニア州
市町村
ロスアンジェルス市
事業主体
ロスアンジェルス市、OUE Limited(リノベーション事業)
事業主体の分類
自治体 民間 
デザイナー、プランナー
ローレンス・ハルプリン、SWA(リノベーション)
開業年
1990

ストーリー

 バンカー・ヒル・ステップスはロスアンジェルスのダウンタウンとバンカー・ヒルとを結ぶ丘につくられた幅18メートルの103の段からなる階段である。バンカー・ヒルには多くのオフィスビルが建てられていたが、1960年代に再開発によってそれらは壊され、新たに超高層ビルがつくられた。この再開発によって、これら超高層ビルとダウンタウンとの接続が途切れ、新たな動線を整備することが希求された。
 バンカー・ヒル・ステップスは、その解決策としてホープ・ストリートとフィフス・ストリートを結ぶために1990年に設置された歩行空間である。丘の麓のフィフス・ストリートはロスアンジェルス公共図書館の正門と繋がり、丘の上のホープ・ストリートにはYMCAがある。そのため、この階段は著名なランドスケープ・アーキテクトであるローレンス・ハルプリンによって設計された。それは、2017年まではカリフォルニア州で最も高いビルであったユーエス・バンク・タワーの隣につくられ、週日は多くのオフィス・ワーカーに利用されている。
 この階段はちょうど5階分の高さであり、これによってバンカー・ヒルの頂上と麓のアクセスがしっかりと確保できている。この階段は中央に山岳地帯の渓流を模したような水路がつくられてあり、その水は頂上の噴水池から流れ落ちてくる。この噴水池にはロバート・グラハム作の女性の銅像が1992年から設置されている。
 階段は休憩用のテラスが幾つか設置されており、それによって空間にリズムがつくられている。またテラス空間には小さなカフェなども置かれていて、この階段を単なる移動空間ではなく、賑わいのある公共的な空間として演出している。この階段の両側を彩る植栽も、この空間にアメニティを提供している。この階段の西側にはエスカレーターも設置されており、階段での上下が難しい人でも移動できるようにしている。
 ハルプリンは、ランドスケープ・アーキテクトの仕事は振付師である、と捉えていて、人々が空間環境において望ましい形で行動するにはどのようなデザインをすべきかを強く意識していた。このハルプリンのデザイン思想は、バンカー・ヒルという高低差のある場所を物理的動線といった点だけでなく、ビジュアルといった観点からもその空間に特別な意味をもたらすことに繋がった。

地図

都市の鍼治療としてのポイント

 ロスアンジェルスのバンカー・ヒルは、ダウンタウンの西にある丘。この丘からはロスアンジェルス平野の見事な展望が得られたので、高級住宅地としての開発が意図された。そして、住宅地として機能するための、上水道や道路などが整備された。また、エンジェルス・フライトという名称のケーブルカーなどもつくられた。バンカー・ヒルは第一次世界大戦が終了した頃までは高級住宅地として裕福な人達が居住していたが、1920年代頃からストリート・カーが整備され始め、また1940年頃から高速道路が整備され始めると、これら裕福な人達は郊外へと移転し始めた。そして、敷地は細分化され、お屋敷は狭い賃貸住宅へと変貌していった。また、住宅だけでなく店舗もバンカー・ヒルから郊外へと移っていき、バンカー・ヒルはスラム化が進むことになった。
 1955年にはロスアンジェルス市は、バンカー・ヒルのスラム・クリアランス事業を遂行することを決定する。これはロスアンジェルスの歴史でも最も時間がかかった再開発プロジェクトとなった。それまでの住宅は壊され、1980年代になるとそれらの跡地に高層のオフィス・ビルが建ち始めた。
 バンカー・ヒル・ステップスがつくられる場所には1926年に既に階段がつくられていた。この階段は1989年に隣接した場所に73階建てのライブラリー・タワー(現在はU.S.バンク・タワー)がつくられた時に壊された。そして、その代わりにつくられたのがバンカー・ヒル・ステップスである。
 その設計は、20世紀後半のアメリカを代表するランドスケープ・アーキテクトであるローレンス・ハルプリンによってデザインされた。それは、ローマのスペイン広場にあるスペイン階段を強く意識したものであり、都市のストリートのような都市体験ができるようにした。そして、ハルプリンの他の作品と同様に、水の流れをデザインに入れ込み、この標高差というハンディを見事にプラスへと活かしたランドスケープ・デザインを施し、この空間を特別なものとしている。それは、まさに「都市の鍼治療」に相応しいプロジェクトである。
 ただし、残念なことに最近のリノベーションによってハルプリンの、この水路のデザインは作り直された。オリジナルは、シエラネバダ山脈の渓流を彷彿させるようなゴツゴツした岩によって水路がつくられていたのだが、それらは整形されたブリックのような石に置き換わった。これによって、ハルプリンのカリフォルニアの山岳美を抽象化したようなデザインは失われた。

【参考資料】
ローレンス・ハルプリンのホームページ
https://www.tclf.org/sites/default/files/microsites/halprinlegacy/index.html

ロスアンジェルス・コンサーバンシーのホームページ
https://www.laconservancy.org/locations/bunker-hill-steps

類似事例

ラブ・ジョイ・プラザ、ポートランド(オレゴン州、アメリカ合衆国)
ペティグローブ公園、ポートランド(オレゴン州、アメリカ合衆国)
ケラー・フォアコート・ファウンテン、ポートランド(オレゴン州、アメリカ合衆国)
スペイン坂、ローマ(イタリア)
リーバイス・プラザ、サンフランシスコ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
エンジェルス・フライト、ロスアンジェルス(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
ザ・カスケード・プロジェクト、香港
グリーン・エイカース、トレントン(ニュージャージー州、アメリカ合衆国)
ザ・パサージュ、チャタヌーガ(テネシー州、アメリカ合衆国)
梨花女子大学校の階段、ソウル(韓国)